第7話エル十五歳の誕生日前日②

―「そんなふうにティアが頑張ってるのは誰の為だと思う?」


―「それもあるけど…それは君の為でもあるのよ?」


―「ええ…。それと…ティアが別の王国に嫁いでしまってもあなたは構わないのかという事を考えてみてくれるかしら?」


 第十王妃様から言われた言葉が頭から離れない。俺は一人で屋敷の庭に出て考えてみる。ティアが勉学に武芸等色々頑張っていたのは勿論知ってる。ティアは一国のお姫様として自分の為に頑張っていたんじゃないのか?なのに…それは俺の為?


 俺は普段ティアと接している時は妹と接する様な感じで接している…つもりだった。妹なんか居たことないけど居たらこんな感じかなぁという感覚でいたんだけど…。嫁ぐとかそんな事を聞いたら俺の心は…激しく痛む様な感覚に襲われる。この痛みは妹を嫁にやりたくない父親や兄貴の心情ではないのか?


 それとも…知らず知らずの内に俺はティアに惹かれていた?


 正直に言うと分からない。前世では恋なんてした事なんてない…。身寄りも居なかったしバイトして毎日ただただ生きるだけだった…。ましてや出会いなんてなかったし、そんな事に現を抜かす位なら働いた方がマシだと思ってた…。


 あ〜もう!…こういう気持ちがなんなのか…どうすればいいのか分からない。


「ダーリン♡」


 この声は…


「来ちゃった♡」


「…ミリア」


 ミリアは言うと同時に俺の懐に飛び込んできた。いつも通りに…。そして…俺の顔を見上げると…


「? ダーリン…何かあった?」


 ―そんな事を言ったんだ。


 ダーリンじゃあないんだけどね…。


「…何で?」


「何でって…ダーリンの事なら分かるよ?」


「…何で…俺の事なら分かるんだよ…」


「ダーリンの今の顔見たら…ダーリンの屋敷の人も全員何かあった事は分かる筈だよ?それに…アタシはダーリンを大好きだからね!」


 それは会う度に言われてるけど…


「何があったか…アタシに話してみてよ?ダーリンにそんな顔似合わないよ?」



 ミリアに話すか迷ったんだけど…自分では分からないし…とにかく話をしてみることにした…。話終えるとミリアは一瞬寂しそうな表情をした後で、笑顔になり口を開いた。


「…そっかあ。ティアちゃんに取られちゃったか」(ぼそっ…)


「…んっ?」


「ううん…なんでもない!それよりも…」


「それよりも?」


「ダーリンって…かなり鈍いよね?アタシだって本気でダーリンに…恋…してるんだよ?」


「…そう…なの?」


「―ほらね?今までアタシが言った事…冗談だと思ってたの?」


「え〜と…」


 冗談というか…すいません…本気とは思っていなかったです…。助けたから恩義とか…立場からとか…そんな風に思っていた。


「目を瞑ってダーリン?」


「えっ?」


「いいから早くっ!」


「え〜と…分かった…」


 俺は言われた通り目を瞑る。


「さっきダーリンからの話で聞いた通りティアちゃんが他国に嫁に行ったらどう思う?」


「…なんだか…モヤモヤする」


「モヤモヤするというより嫌なんだよね?」


「…俺は嫌…なのか?でも…娘を嫁に出す父親とかシスコンの兄貴だったらこんな感じじゃないのか?」


「ダーリンはティアちゃんが嫁に行って…旦那さんにキスされたり、それ以上の事をされても平気なの?」


「っ!?」


 ティアが他の男のモノに…。


 ―ズキッ…ズキンズキン…


「…どうしたの?嫌だと思った?と思わなかった?」


「……」


「…それが答えだと思うわよ、ダーリン」


「俺は…」


「それと…」


「?」


「アタシの事もちゃんと見てね?」


 ちゅっ…


 頬にそっと柔らかいモノが触れる。流石に何をされたのかは分かる…。直ぐ様目を開けるとミリアは俺に背を向けて走り出したところだった…。


「…ありがとう…ミリア」 




***


 ミリアと話をした後、母さんから許可をもらって俺はある場所へとやって来た。屋敷からそこまで遠くないところにある思い出の場所…。たまに来たくなるんだよな、ここに…。


「やっぱり…ここはいつ来ても綺麗だし…落ち着くね…」


(エル…いつか…エルに。ここはそういう場所…)


 ここに来るといつも母さんがそう言った事を思い出す。母さんに教えてもらった特別な場所に俺は来ていた。ちなみにだが今日は一人だ…。大丈夫なのかって?勿論大丈夫だよ…。あんな事があってからは俺も剣等は少し習ったし…なにより少し離れた場所にはマリンとレイラが居るし、他の護衛の人達もそう遠くない所に待機しているしね…。


「…大切な人…か…」


 気にしないでくれよ?これは独り言だ…。


「もう…分かってるだろ、俺?」


 目を閉じて心に浮かぶのは一人の女性…。


 傍に居る時は隣で笑っていて…可愛くて…綺麗で…凛々しくて…たまには怒ったり…時には悲しんだり…照れたり…本当に色々な表情を見せてくれる女性…。


「…ティア」


 俺は…ティアが好きなんだな…。それに気付かなかっただけで…。本当に鈍いモノだ…。ただの馬鹿とも言える…。ミリアには本当に感謝だな…。


「それにやっぱり…ここに来て良かった…」


 戻ったらちゃんとティアに伝えて…フラれたら仕方ないけど…もし…告白がうまくいったら―


「―ティアとここに…」


「…エル」


 急に名前を呼ばれてビックリしてしまうが…声がした方に振り返り視線を向けると…


「!? どうして…ここに?」


 そこにはティアの姿が…。


  

 










 


 






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