第8話船の中での再会

「…んっ……ここは…?」


 目を覚ますと真っ先に目に入ったのは勿論知らない天井。すぐさま…


「エル?」


 懐かしく優しい声が聞こえた。声の方に視線を向けると、


「…母さん」

「エルッ…エルッゥ!」


 ベッドに横になっている俺に覆い被さる様な感じで抱き締め、頬を擦り寄せてくる母さん。2人の頬の間には一筋の小さな川が流れていく…。


「…会いたかった…会いたかったわ…エル」


「僕もだよ、母さん」 


「無事だと分かってたけど…とても…とても心配したんだから…ね?」


「…うん」


「エル…エル…私のエル…」


 本当に母さんに心配をかけてしまった。俺の帰りをこんなに待っててくれて…。家族って本当にいいもんだね…。温かい…。その温かさにしばし身を委ねたんだ…。


 ―って、それどころではない!


「か、母さん!」


「なに、エル?」


「マリンは!僕と一緒に居たマリンは何処にっ!?大切な人なんだっ!マリンが居なかったら僕は…」


 意識が途切れる前にミーニャに伝えた筈…。ちゃんと伝わってるよね!?大丈夫だよねっ!?


「マリンちゃんの事?マリンちゃんなら…」


 母さんはそう言うと俺の上半身を抱き起こしてくれた。そして、


「すぐそこで顔を真っ赤に染め上げてるわね…ふふっ…」


 ベッドの脇にメイド服に身を包んだマリンの姿が視界へと入った。


 ―すぐさま立ち上がり…その拍子に俺はふらっ―としてしまい…ポフッ―と柔らかい感触が顔に。  

 傍に居た母さんよりも早く駆け寄ってくれたマリンによって俺は受け止められていたんだ。…顔を胸に埋める形で…。バッ―と、胸から顔だけ離しマリンを見上げると少し潤んだ表情でこちらを見下ろすマリンの顔。お互いぎゅっと力を込めて抱き合いながら無事に無人島を脱出出来た事を喜び合う。


「良かった…マリン」

「…あ、あ〜しも…エルが目覚めてくれて…」

「マリンのお陰で…こうして母さんにもまた会う事が出来たんだ…本当にありがとう」

「お礼を言うのは…あ〜しもだよ…」

「マリン…」

「…エル」

「あらあら…本当になのね、エル?」

「それは勿論」

「っ!?」

「即答なのね…母さん妬けちゃうんだけど?」


『トントン!』


 部屋をノックする音だ…。母さんが入って良いわよと言っている。


「「「「失礼しま…あっ…」」」」


 部屋に入って来たのはミーニャ、レーティ、リンリンにレイラ。だけど…なんでみんな目を点にした感じで動きが止まってるの?レイラなんかはっと我に返った様に今度は頬を膨らませて如何にも私は怒ってますって感じなんだけど…何故だっ!?


「…なるほど…マリンとはもう少し話し合う必要がありそうですね?」

 

 ―と、ミーニャ…。何をっ!?


「ん…島での事は聞いた…。今日から私も裸で同衾」


 ―むふぅ〜とした感じでレーティは何言ってるの!?島での事は不可抗力だよっ!?


「それしかないアル!」


 ―それしかないアルじゃないよ!リンリン?


「…エル様」


「ななな、何かなレイラ?」


 有無を言わせない圧がそこには確かに存在している。レイラ変わった!?


「私も今日から…ははは、裸ですからにぇ!」


 ―恥ずかしいなら言わなくていいのに…。


 と、とにかく…


「みんな…ただいま」

「おかえり、エル!」

「「「「おかえりなさい、エル様!」」」」


「…でも、エルの一番はあ〜し…だもん!」


「ちょっ、ちょっと!?マリン空気読んで!?」


「マリンちゃん…エルの一番は私だからねっ?」


「お、奥様でも…譲れないしっ!」


「母さん迄何言って…」


「やはりマリンとは決着をつけねばならないようね?」


「ミーニャ!?今は話に入って来ないで?」


「望む所し…」


 マリンは俺から離れてミーニャと睨み合ってるし…


「ん…今のうちに…エル様堪能…」


 レーティがその隙に俺を抱き寄せ頬擦りしてくる。レーティってこんな感じだったか!?


「レーティ、ズルい!私もするアル―って、ああっ!?」


「エル様の傍は譲らないもん!」


 レイラはいつの間にかレーティとは反対側で頬擦りしてくるし…


「今日は母親特権で私がエルと2人っきりに…」


「「「「「却下します!!!!!」」」」」


「私、母親だよっ!?」


 とにかく…俺は生きて帰って来れたんだな…。今居るのは船の中。明日か明後日にはレインローズ王国の領地に船が着くとの事。そのまま王国に顔を出してから領地には帰るみたいだし…。ティアとランスは元気かな?2人にも心配かけただろうな…。まずは謝らないとな…。

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