第17話用意周到

「チッ…荒れてきやがった」


 俺を攫った敵のリーダーが忌々しそうに呟く…。


 から5日が経った。何で分かるのかって?それは目隠しされたり縛られたりはしてないからだ。まあ、その代わり見張りというか俺の傍には常にが居る。ミーニャと相対した褐色肌の女性。多分…逃げてもいつでも捕まえられる自信もあるのだろう。俺も逃げきれる自信もないしね…。 


 ―で、そんな俺は今何処にいるのかというと海の上、船に乗っている。結構な大きさの船。その外観はよく映画等で見る様な海賊船に近い船の様に見える。船の上から見渡す限り島等はなく海しか見えない。ホント何処に連れて行かれるのやら…。


 それにしても…この女性達は本当に用意周到だったように思える。攫われた場所から馬に乗り北へと向かった。途中途中に彼女達の仲間と思われる女性達がまだまだ居たしね。その女性達は要は足止めで、俺を取り返しに来る人達への対処だと思った…。取り返しに来てくれた人達が無事でいる事を願うしかない。


 それに2日目には用意されていた船に乗せられたしね。そういう事から想像すると何処かの国が関わっていそうな気はするけど真実はまだ分からない…。分かったら真実はいつも一つ!とか、言ってみようかな。


「…何考えてるし?」


「どこに向かってるんだろうと思っただけだよ」


「それは着けば分かるし…」


「お前等無駄口叩くな…揺れてきやがったし、これからもっと揺れるぞ?そいつが怪我しないように抱えるなり縛りつけるなりしておけっ」


「…分かってるし」


 リーダーが言うようにだいぶ揺れてきた…。これ以上揺れたらマジヤバイ…。船酔いしてしまいそうだ…。抱えてくれるのはありがたいんですが吐いてしまったらごめんねと心の中で謝っておく。敵だしね…。




***

〜sideマリア〜



 報せを聞いた時は自分の耳を疑った…。エルが攫われたなんて嘘だと思った。たちの悪い冗談だと…。何があったのかを聞いた時には自分の息子を褒めればいいのか怒ればいいのか正直分からなかった。ただ…エルを誇らしくは思う。自分と引き換えにミーニャやエリン、騎士団の人達の命を救ったのだから…。私は馬を走らせ、ミーニャと合流した。



「奥様…私は…」


 明らかに自分を責めていたミーニャに発破をかける。


「エルは大丈夫だから、しっかりしなさい!」


「っ!?」


「話を聞いた限りではエルの身が危なくなる事はないでしょう…。それにエルもそう思ったからこそ自分から行動した筈よ?」


「…はい」


「後を追い必ずエルを取り返す。いけるわね、ミーニャ?」


「はい!」



 ミーニャと合流した後、エルが連れ去られたと思われる方角に馬を再び走らせる。行く手を阻む様に敵の仲間が潜んでいた。蹴散らしているうちにテレサ達も合流。生きて捕えた者は自害されぬ様にちゃんと念入りに身体検査したうえで捕縛している…。抜かりはない…。


「足止めの部隊もこんなに用意しているなんて…」


 テレサが言った。私もそう思っていた。


「とにかく急ぎましょう!エル様を早く…」


「焦っていては事を仕損じるわよ、ミーニャ?」


「…分かってはいるつもりです。テレサ様」


「…どうせ…間に合わねぇよ…」


 斬り捨てた敵の一人が死ぬ間際にそんな事を言った…。このまま北に行くと海しか…


「テレサ!ミーニャ!敵は船を用意しているのよ!」


「「!」」

 


 逃走経路は分かったものの敵の待ち伏せが何度もあり、時間を取られてしまった…。そのせいで大陸の北の海岸に着いた時に私達が見たものはというと…既に出航してしまったエルが乗っていると思われる一隻の船の姿だった…。


「エルぅぅぅぅぅぅーーー!」





 ―マリアの慟哭だけが辺りに響き渡った…。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る