第4話初めての外出
「エル!今日は村に行くわよ!領民への顔見せね!」
「奥様…顔見せとエル様に言われても分からないのでは?」
「エルは賢いから理解してると思うわよ、ミーニャ」
「…そう言われてみると言葉の理解も早かったですね…まさか、天才?」
ミーニャ、僕は天才ではないからね?まあ、何故か分かるだけだから…
「とにかく行くわよ!」
***
屋敷から村へはどうやら一本道で繋がっているみたい。その一本道は車が大体一台通る位の広さだ。道の両脇は畑や田に囲まれている。ある程度近くには山も見え、自然に囲まれている様だ。まさに田舎という感じだね。
一本道を俺、母さん、レーティーの3人で手を繋ぎながら歩いていく。
「ほらほらエル!あそこにトンボが飛んでるわよ!」
「おおーっ!」
「ん、トンボがいっぱい」
そういやあ、久しぶりにトンボなんて見たな。つい素ではしゃいでしまう。
「ふふっ…本当にエルは可愛いわね」
「ん…奥様の言う通り控え目に言っても最高です」
そんな事を言われると恥ずかしくなる。俺は恥ずかしさを誤魔化す様にタイミングよく、レンガ造りの家がちらほらと視界に入ってきたので話を変える事にした。
「母様、家が見えてきました」
「この辺の家に住んでる人は田んぼで米や野菜を育てているのよ?」
「そうなんですね」
「…エル」
「どうかしましたか?」
「いつも言ってるんだけど、私達しか居ない時はママに対してもう少し砕けて話して欲しいな?」
そういえば聞いた話では貴族みたいだから礼儀正しくと思って、ついこんな喋り方にしたんだっけ…。流石に3歳児が喋る話し方ではなかったか…。
「…うん、お母さん」
***
話をしながら歩き続けて、やがて村の中心部へと辿り着いた。中心部は広場になっており既に村の人達も集まっている。
「領主様だ」
「領主様よ」
「領主様の後ろを歩いている御子が…」
「マリア様の…」
「だな…間違いねぇーよ!」
「ホントに男の子なの…」
「アレが男の子…」
「3歳なのに堂々としてるね…」
んっ…何だろう…。村の人達を見ていると何だか違和感を感じる…。何だろうかこのモヤモヤは…。そう思っているとこの村の村長さんが一度俺達に挨拶を交わした後、村の人達へと向け喋り始めた…。
「みんな…よく聞きなさい!本日は領主のマリア様が息子のエル様を我々の為に顔見せに来て下さった!そのお顔をっ!声をっ!心に刻み込む様に!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
村がよく纏まってるいるというか、村人の連帯感というか、とにかくそういうのが凄いと思った。これは母さんの人柄のお陰かもと思った。でも、何故かまだモヤモヤする…。
「皆さん…今日は息子の為に集まってくれて本当にありがとう!」
「当然です!」
「マリア様のお陰でこの村は安泰なのですから!」
「頭をおあげ下さい!」
「領主様…勿体ないお言葉…」
「こちらこそありがとうございます!」
すげぇな…。母さんの人気。しかも母さんのお陰で村が安泰って…。そんな母さんを誇らしくなる…。
「どうかこの地方唯一の男性でもある息子を温かく見守って頂きたい…そして守るという事にどうか皆さんの力を貸して欲しいと思います!」
「任せて領主様!」
「ですです!」
「村一丸となって護りますともー!」
そうかっ!!!違和感の正体がやっと解った。男性が一人も居ないからだ…。一体どういう事なんだ?何で男性が居ないんだ…。後で母さんに聞かないと…。
「息子のエルです!エル、こっちへ」
「はい」
「あれが…」
「確か…3歳?」
「しっかりしてるわね…」
「この村も安泰じゃな…」
「私の娘と同じ歳だわ…」
「母から話があったエルです!どうか宜しくお願いします!」
「「「「「エル様~!」」」」」
「お~ありがたや~」
「みんな…護ろうね?」
「…ったりめぇ~よ!」
「だな!」
村の人達には受け入れてもらえたようで良かったと安心。母さんも笑顔だ…。
***
こうして村の人達への顔見せも終わったその帰り道の事。
「…母さん」
「どうかしたの、エル?」
「男性って少ないの?」
「少ない…というよりも…私が治めるこの地方には男性は居ないわね…」
「…えっ?」
「他の地方もまばらね…」
この地方に男性は居ないって…しかも他の地方でもまばらって…一体どういう事ぉ!?
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