第六話〜絶望の英雄は望まない絶望、そしてあの女はもう嫌だ
「落ち着きなさい!とにかく落ち着いて!口で説明するよりまず、コレを見なさい!女神よ!女神イリスよ!我に力を!加護を!」
目の前で凛とした態度で落ち着けと言いながら魔装の呪文を唱えるミンク様…もう王族でもなんでも無いからミンクさんで良いか。
開口一番で奴隷になれ宣言をしたミンクさん、その姿は先程までのリラックスウェアでトイレ(大)をしていたプライベート感が無くなり、やたらピッチリした二つボタンの大きい襟のついた丈の短いコート姿の変態になった…ショートブーツと肘までのグローブをしているが…それ以外は裸じゃないか…?
そして横には空中に浮いた巻きグソ…これは何だ?
しかしそう、これはまるで…痴女だ。
コートをバッと開ける感じのあの変態。
シャールこと、ケンジがエルフの低い身長を活かし身体を斜めにして覗いた。
「あ、履いてないな。これ、履いてない、アウトだ」
『分かりましたか!?私のここまでの道程、そして苦難が…』
ミンクさんは悲壮感漂う感じで、ほぼ正体が丸わかりの小さなアイマスク越しに悲しい目をするが、一ミリも道程は分からない。
普通に言って昔との違いといえば…
「あれ?口だけ出てる全身鎧じゃなかったでしたっけ?剣も大剣からレイピアになってるし…」
「そうだ、イブキ様曰く、変態鎧ではなかったか?今やただの変態ではないか?下も丸出しではないがチラ見え、ウンコ空中に浮かせているが?よく『私は一国の姫ですよ』とか言ってたのに恥ずかしくないのか?」
俺がなるべく普通に話をしようとしたのにハヒルが台無しにした。
怒りなのか、プルプルしながら喋り出すミンクさん。
「ウンコ?…落ち着いて聞きなさい…これは私があの戦いの後に…」
ミンクさんがプルプルするとそれに合わせて全体が揺れる、何かダラダラ話しているが、横で巻きグソがプルプルしてるのが気になり、音が入ってこない。向こうからは見えないのか?
うーん、やはり自分のウンコに気付いて無いな。
しかし、その光景を見ながら思った。
ミンクさんの奴隷か、良いかも知れないな。
この人は俺の知る限り、一緒にいる時は殆どアホみたいな事しかしてないが、結構ドラマチックな人生だ。
あの勇者シズクを、シズクの幼馴染の魔王からNTR失敗、まぁ寝取ってないけどチューしたんだろ?
で、最後はフラレて元の世界に逃げられた…と。
あれ、逃げたんだっけ?
まぁ、とにかく一言で言えばこんな感じだが、横で見ていた俺としては羨ましくてしょうがなかったね。
泣き笑いしながら別れを告げて、消えた時に名前を鳴き叫びながら号泣する…最高の悲しいシチュエーション。
なんて羨ましいんだ。俺なんてアレだぞ?意を決するなと美春に願ったのに全部台無しにされ
『もしもーし!聞いてますかぁ!?イブキさーん!』
え?何が?ウンコミンクさんがこっちを見ている。
「そうですね、羨ましい…羨ましいですね…奴隷もやぶさかでは無いと、何と良いますか…」
『……何を言ってるんですか?話聞いてました?く…貴方達と話しているとイライラしますね…』
ミンクさん、キレ気味だ。
そしてハヒルが真剣な顔でこちらを伺う。
「やぶさかってなんですか?知らない言葉ですが…意味によっては今のは…一番奴隷的にそれは…許されないというか…」
ハヒルからも不穏な気配を感じる…俺にはちょっと考えて事をする事も許されないのか?
「違うよ和食一番の話だ、言ったろ?家とか船とか燃えてたらそれは料理中、そっとしておけと」
「ほう?そうでしたっけ?」
何がメモを出して確認するハルヒ、お前はずっとそうしていると良い。
「つまりセイルさんが全部答えてくれる、俺には語るに
「ハァ?何で私が…」
自分でもよくわからない言い回しで逃げた。
しかしセイルさんって本物のエルフって感じだよなぁ…耳がさ、ギ◯モみたいになってんの。
で、顔がキツネっぽい美少女。
顔も目も眉毛も、ちっちゃいのよ。
死ぬちょい前に見たアニメのエルフもこんな感じだったな。
何でこんな子の乳首をこの
「まぁ…イブキ様も協力するんじゃないですか?さっきまで処刑されそうになってたし?」
何の話?
『つまり各国のレジスタンスによる蜂起に協力してくれる訳ですね?分かりました。それでは一つ、あの我々が命をかけて挑んだ魔王との戦いの真の意味を教えます』
いや、結構です。
『我々の前に立ちはだかった死霊王と名乗っていた女神、悪魔の騎士と名乗っていた魔神、そして歴代最強と謳われた魔王…あの者等は我々と戦っていた訳ではないんです…あの者達の本当に敵は…邪神だったのですよ』
「はぁ…」
何か戦っていた相手は実は父親的なネタばらしをされたが、俺は全くついて行ってなかったので気の抜けた返事をしたらミンクさんの血管が浮いた。
何をこの人はイライラしてるのか?頼むから落ち着いてくれよ。
『だから!今ッ!そこにその邪神がいるんですよッ!!』
その時、ふとハヒルがセイルさんの乳首を見た。
釣られてケンジがセイルさんの乳首を見ながら呟いた。
「あぁ成る程…道理でな…逆らえない訳だ。まるで転生前にあった耳栓に近い硬さ…膨らみが無いのに突起している不思議…邪神かぁ…成る程な」
ハヒルもう頷きながら同意する。
「セイル…お前は恐ろしい奴だな…私でさえ転生者のイブキ様について行くのがやっとなのに…お前は転生者のケンジさんを蠱惑しているんだな、そのボッチで」
「お前ら私をナメてんの?何でそんな話になるの?」
ハヒルの方を見た瞬間にケンジが素早く胸を摘もうと…
「やめろキサムァッ!!何の話してんだ!ふざけんな!」
『落ち着きなさい!邪神ってハヒルの事よ!イブキが従者のハヒル!貴女は邪神なのよ!』
「「はぁ…」」
『もう良いっ!とにかく決定事項だから!私は魔王ともう手を組んじゃったから!頼みましたよ!』
ブーン…セイルさんが道具を片付けながら言う。
「ふーん、新しく台頭した英雄に騙され乱暴されて加護を失ったねぇ…乱暴って柔らかい言い方してましたけど…まぁ同情はしますけど…この人達言っても無駄でしょうけどね」
通信を切ったミンクさん…セイルさんが一言でまとめた、スゲェなこの人。
しかしミンクさんはアレだな、きっとあの一方的な感じが悲劇を生むんだな。
「ウンコ横に浮かせて人を邪神呼ばわり…アイツは姫じゃなくなったからストレスで頭がイカれたんだな」
ハヒルはハヒルで邪神呼ばわりされても問題なさそうだった。
「んで、とにかく各地で蜂起するから手伝えって言ってましたよ?魔国は情報がないから分かりませんが新しい魔王と組むって事はまとまってないんでしょうね。エルフの国は中立ですが、レイランド、ガリ、それに宗教都市と学術都市あたりは反乱が起きるでしょう。魔王との戦争が終わって圧政が始まっていましたから」
「何で?平和になってまだ1年も経ってないっしょ?意味が分からない」
「…そんなもんですよ、世の中。それより絶望?でしたっけ?ドラマチックな?そんな態度だから、望みが叶わないんじゃないですか?」
「えぇ?辛辣だなぁ…」
セイルさんはとうとう【そんなもんですよ】で話を終わらせた。
そしてケンジが野宿したくないとか言い出すから、結局近くのガリ国の息がかかってない村の宿屋で泊まる事になった。
宿のベッドで天井を見ながら考える…
俺はこの世界に来て、他の転生者と一緒に魔王を倒し戦争を終わらせた。
セイルさんにも言われたが(多分ケンジがチクった)俺の目の前で、俺が望むドラマチックロマンチックな事になっている事は多々あった、しかし毎回俺だけ置いてきぼりだ。
今回だって王女が裏切って裁判まで行ったのに台無しにされたし…
美春の件があってから死んで転生して、そして今まで、知識は増えた…が、あれから大人になった気がしない。
俺も妥協している、美春の時の様な職人が一生で一度しか作れない様な、本物の絶望を望んじゃいない。
――あ、この話、良い話だな、泣ける!――
最早俺は、それだけで良いのに…それすら訪れない。
思えばこのサポート職が良くないのだろうか?とか、そもそも俺の人生にそのようなものは無いのかとか、女の子に良くしてもちゃんと付き合えないとか、付き合えるような環境になっても無理というか…
天井のシミを見ながら俺これから何すんだっけ?とか思っていたら部屋のドアが開いた…
慣れているから気付く…暗殺者の歩法を含む、一切音をたてずに行動する技術…アサシン・スキル【音無】
昔、魔導器の暗器…魔暗器ってオリジナルじゃね?格好良くね!?と思ってアサシンのスキルを学び魔暗器を作りドヤ顔で公表した。
そしたら既に別の国で、もっと性能の良い暗器があった。名称に魔が付いてなかった…
恥ずい…死にてぇ…と思った。
ちなみにこの【音無】で移動するスキル…を強化する魔導器はストーカー技術だけが上がるので公表しなかった…がハヒルにだけ教えて、天衣兎萠に付けたらこんな使い道ばかりする。
とにかく…今入ってきたのはハヒル…毎晩毎晩、俺の部屋に無音で侵入し、一言言ってから入れと伝えたら、まさかの自分の部屋で『入ってよろしいですか?』と聞いていた(盗聴した)本物の馬鹿、ハヒルが入ってきた。
寝た振りだ…今日はもう、疲れた。動けない。
思い返してみれば邪神か…コイツが邪神って言われるとそうかも知れないな…今も俺の股間のあたりに近付いて『ほう♥ほう♥』とか小声で言ってる。フクロウかよ…
このハヒルが使う【音無】の嫌な所は音がしないどころか皮膚感覚すらすっ飛ばす。
何回もやられてるから知ってるが多分、俺は下半身が裸だ。さっきまで柔らかい素材のズボンを履いていたが音もなく脱がす。
『イブキ様…お慕い…イブキ棒…ほう♥』
息が当たる…はぁはぁ♥と殺人事件のドラマの犯罪者のような息遣いで俺の股間の近くに…
ペシッ
ヤベッ…息のせいで反応した俺のジュニアが多分ハヒルの顔面に当たった…薄めで見る…
ハヒルの口の横から眉間に向かって沿う様に屹立する俺のジュニア…それを血走った目で見ながら、当たらないように舌がまろびでているハヒル…怖い…うおぉ…よだれがポタポタ落ちている…これは邪神と言われても…
――
え?
何か近くでスキル使った奴がいる…魔王スキル?…それに夜会?…それって…
ちょっちょっちょっ…考えたくない、繋げたくない、考えたくないんだ。俺はただ、NTRをされた悲しみを味わいたいだけ。
何が起きてるか想像するだけで吐きそう…間男というか何と言うか、池端ポジションはノウサンキュー!とにかく俺は…
「貴様…イブキ様の寝所に無断で入る無礼…命は無いと思え…」
気付くと俺の寝所に無断で入る無礼を犯したハヒルがイブキジュニアの近くで戦闘態勢になっていた。
強い力で俺のキンタマーニを掴みタマーニ、もう嫌だよ本当に嫌だ…
宿屋の窓から気配がする…禍々しくも懐かしい…
そしてハヒルは凄まじい殺意が手から俺のタマに、そして眼力はジュニアを通過して窓際を見る。
俺は多分、命の危機があると余計ギンギラギンになるタイプ…とにかくこのまま薄目で状況を見ながら寝た振り…をしたい…朝になれ…早く…
――こんばんは…そこにいるのは…ハルキ…だよね――
俺の本名、
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