〜あるエルフの世界説明、わかりやすいでしょ?〜

 私は馬鹿共が騒ぐのを見ながら頭を整理する。

 ミンク様…いやミンクでいいや。

 こいつらに分からせる必要はないんだよ…ただ自分だけ理解し、いざという時に間違いの無い選択を出来る様にするだけ、それが正解。


 


 私の住むこの世界は創生の女神・イリスの名前から取られた大陸、イリア。


 この世界には様々な土地で転生者が生まれる。

 噂によると別の大陸でも沢山いるらしい。

 私の住む大陸でも各地で転生者が生まれている。


 イリア大陸の西に位置するのが我らがエルフ国。

 転生英雄は元女王の女帝シャール様、魔弓という様々な効果を生み出す矢を、普通は魔導弓という触媒を使って扱うのだが、触媒なしで何百という弓を同時に生み出し、魔力の続く限りほぼ無限に矢を生成出来る変態鬼畜女で、転生前はケンジという名前だったと聞いた。

 ホスト?という女を騙す職業だったが刺されて死んだらしい。ざまぁみろ。

 ちなみに従者は私、セイル。兄で現エルフ国王のカイル、次女のシエルもいたが胃を壊して従者を辞めた。全員、エルフの王族だ。


 北にあるのはレイランド、転生英雄・勇者シズクがいた国で現在は違う英雄が生まれていると聞く。

 シズクは光で生成される武具を操る、光の強さは心の強さという英雄の中でも最強と名高く、勇気を示すと倍加するズルい力で圧倒的な強さを誇っていた。

 前魔王と深い関係があったそうだ、なかなかの色男だったが同時にメンタルが少年のようだったな。

 従者は王子のリンクと王女のミンク。そしてミンクはシズクにベタ惚れだった。

 王が病に伏し、違う転生英雄が生まれ、その世代交代で次期国王だったリンクは幽閉、ミンクは追放されたそうだ。

 ちなみにミンクは【女神の加護】というシズクの劣化版みたいな特殊な力を持っている。


 中央に位置するのは聖イリヤ教団のあるイリヤ共和国、中央から西へ宗教都市イリヤのある聖地イースア、学術都市マナボ、商業都市ウンサン。

転生英雄は宗教都市イリヤから撲殺聖女マイク、学術都市マナボからは大賢者グリセリンが討伐に参加した。


 マイクの従者はヌワンとスワンという筋肉馬鹿、マイクは転生前は女性の拳闘士で、この世界では聖女と名乗りシスターの格好をしていたが男だった。従者もだが、とにかく体を鍛える事ばかり考えて話にならない。


 大賢者グリセリンは魔導の枠を越えた伝説の賢者という称号、更にその上をいく魔導を極めし者とまで言われ大賢者と言われた。

 シャール様曰く転生前は引きこもりオタクという人種だったらしい。この人が一番まともに見えたがハヒルと仲良い時点でお察しだ。

 グリセリンの従者も大魔導という魔導の道の頂点のランクに位置していたアルグリアとイルセリという薬中と堅物だった。

 

 そして南方一帯を収めるガリ国からは転生英雄魔導器のイブキ、そしてイブキの所属していた巨大な南方の国でもかなりの冒険者がいた大型クラン、アーヌー・スホールのリーダーの【ドラゴンキラー】デルタ、副リーダーの大魔導ヴァルナ…だったが呼んでもいないのにハヒルが混入した。

 元から険悪な空気(主にハヒルのせいで)だった為、デルタは討伐には参加せずガリ国に戻り夢だった冒険者ギルドのマスターに、ヴァルナはアルグリアやイルセリと言った大魔道士と肩を並べる強者だが、イブキの従者は別に良いけどハヒルと一緒なんて絶対無理と故郷に戻ってしまった。


 出たり入ったり、従者が英雄と共に行動したりと現地でも人の入れ替わりがあった事から吟遊詩人とハヒルに言わせると13人と英雄5人と言うが、実際は従者9人と英雄5人だ。

 しかも従者2人が魔王城突入に参加したから、実際には従者7人しかいなかった。


 いかにハヒルが周りを見えてないかが分かる。


 そして北のレイランドと商業都市ウンサンが隣接しているのが魔族領、敵意を持つものには魔界と言われている。

 実際には魔族は我々亜人と変わらない。

 魔物は人とは違う感覚で生きているが、魔族…魔人は人や亜人に近い感覚で生きている。

 国を作り、法律を作り、耕し食べ、しきたりを重んじる。愛を知り、優しさもあり、平和を愛する者達も沢山いる。更に言えば、我々と同様、欲もあり騙しもすれば残虐な行為もする者もいる。


 ただ、信じるものが違う。南の亜人は女神イリスを、北の魔人は魔神アモデウスを信仰する。


 信仰の違い、ただそれだけで、ずっと戦争をしている。

 その戦争の歴史が戦争を続けさせていた、色んな場所で、何百年も。


 そして我々の世代、英雄と従者達による魔王討伐。


 

 この大きな大陸で、長い歴史で、私の知る限り…歴史上、最も世界の常識を揺るがせた絶望の大魔王【マオ】…大陸に住む信仰という意味では全てとも言える【女神イリス】と【魔神アモデス】を従える大魔王マオと戦ったのが…世界を運命を掛けて戦ったのが、勇者シズクと我々の主、転生英雄達だった。


 世間では信仰対象が敵に回ることは無いと、あくまで魔王と英雄という事にした。

 そして勇者シズクと魔王マオは相討ちでこの世から消えた…とされているが、一緒に戦ったシャール様は「そうじゃないんだよなぁ」と知ったような顔しかしない。

 その顔がムカつく。聞いても答えないくせにそれっぽい時に何かボソッというのがムカつく。


 そして後方に残された従者も口をつぐんでいる事がある。

 いや、言っても信じてもらえないかもしれない。


 私含め、我々残された7人の従者は後方支援に回っていた我々の前に【魔神アモデウス】が現れた事。


 隔絶された力の差に抵抗らしい抵抗が出来ないまま魔族における力の信仰とまで言われる【魔神アスモデウス】と、その精兵であろう悪魔達に足止めされていた所で…ハヒルがやった。


 そう、ハヒルがやったのだ…アレが…従者たちも誰も信じないだろうからと言わない。


 しかし、やった。


 南方でアレと言われたハヒルが、いや、ハヒルらしき者が【魔神アモデウス】を…力づくで球体にしたのを我々は見た…


※追記…私、セイルはハヒルの話をした途端に魔神の名前を言い間違えました。正確には【魔神アモデウス】です。ここに訂正とお詫び申し上げます。

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