第22話 爆発オチなんてサイテー

 「は?いきなり何言ってんの」

 

 シエスタちゃんが怪訝な表情で聞き返してきたが、そりゃそういう反応になるわな。


 「いや、今は分からなくていいぜ。ただまぁ魔物退治位はやらせてもらえる様に親バカの皇帝を説得しといてやるって事よ」

 「えっ、それ本当!?」

 

 お、今までで一番の食いつきっぷりだな。

 なんかガキらしい所もあんじゃないの。


 「ただし、その後はシエスタちゃん次第だ。実戦を積み更なる高みを目指せ、さすれば道は斬り開かれるでしょう……剣士だけにね」

 「道って?」

 「まぁあれだ、邪神様の預言ってやつよ。じゃ頑張って」

 「ちょ、待ちなさいって」


 オレはそのままシエスタちゃんの前から立ち去った。

 この時、世界の滅亡については何も語らなかった。

 あの子はまだ幼い。

 過酷な運命への選択をさせるにはちと早すぎると感じたからだ。

 そんな天才少女は今やこの時代には敵無しの最強クラスの剣士となってる訳だが……久しぶりに会った時少々天狗になり過ぎていた。

 だからこそオレは【敵と戦う】のではなく【敵を殺す】戦いを教え込まれたミシェルを彼女にぶつけてみる事にした。

 120点の戦い勝負と-100点の戦い殺し合いだ、互いに学ぶ事があるのではないかとそう考えた。


 「……いや、学んで貰わなくちゃ困るのさ。お前達には神を殺す者を殺す存在になって貰う為にな」

 「あ?ヒロムートなんか言ったか?」

 「何でもないよカーミラ、それよりそろそろミシェルの攻め時だ」

 「ケケケ、そうだな」


 試合は現在、奇策のカウンターに成功したミシェルが有利を取れる位置まで距離を詰め切った所であった。


 「うらぁ!」


 ミシェルが鋭い右ストレートを放つ。


 「くっ!」 


 ……が、これはシエスタちゃんの咄嗟のしゃがみで躱される。


 「まだまだぁ!」


 パンチが躱されたミシェルはしゃがみ状態のシエスタちゃんに対して砂を巻き上げながら前蹴りを繰り出す。

 ……砂かけ蹴りとは相変わらず汚ねぇ戦い方だぜ。


 「舐めるな!鋼鉄ノ絶壁フルメタルフィールド!!!」

 

 シエスタちゃんは砂を被るより先に前に声に出す。

 するとシエスタちゃんを囲むようにドーム状に展開された棘付きのメタリックなバリアが出現する。


 「やべっ!!!」


 ミシェルはその雲丹みたいなバリアがヤバイ物であると瞬時に判断し、蹴りを引っ込め一目散にその場から退避する。

 棘バリアはシエスタちゃんを中心に周囲や地面を突き刺しながら広がり、半径50メートル位の所で消失した。

 おいおいシエスタちゃんそんな魔法使えたのかよ、おじさんも知らなかったぞ?

  

 「まさかこの私に防御魔法を使わせるとはな、君の名は何というんだ?」

 「今更かよ……ゲヘナ・ジ・ミシェル・ワールドエンド」

 「そうか、ミシェル。君との戦いは騎士や魔物のそれとは違い巧妙で実に興味深く面白い……もっと私を楽しませてくれよ」


 笑みを浮かべてそう語ったシエスタちゃんは距離を取ったミシェルを目掛けて大きく跳躍する。

 シエスタちゃんは戦闘狂のサガなのかミシェル相手に正面からの接近戦で戦うつもりのようだ。


 「うへぇなんだあいつ。この戦いを楽しんでんのか?」

 

 ミシェルは彼女の意図を組み取り、静かに意識を集中させて迎撃の構えを取った。

 そしてシエスタちゃんを引き付けたその時――。


 「空掌エアーバレット!」


 距離感をミスったのかミシェルはシエスタちゃんに僅かに届かぬ虚空へ向かい拳を突き出す。

 否、ミスではない。

 空掌エアーバレット、この武技バトルスキルは魔力を込めた拳圧を超高速で相手にぶつける拳闘士の扱える遠距離技の一つだ。

 

 (あの技の出の速さは魔法の比ではない、ましてやこの至近距離。シエスタちゃんといえど流石に反応出来ないだろう)

 

 「甘い!!」

 

 と、思ったのだがシエスタちゃんは常人では考えられない反応速度で空中で体を捻って空掌エアーバレットを躱してみせた。

 戦いに対する超人的な嗅覚や読み、いずれにせよ神技ともいえるその回避だがそれだけで終わる彼女ではなかった。

 シエスタちゃんは捻った体に回転を加えて加速する。

 そして流れるような動作で回避から一転、反撃の回転斬りを繰り出した。

 ミシェルが好機を掴む為ギリギリまで引き付けた間合いが完全に裏目に出た。

 (……いや、あんな状況でカウンターが取れるシエスタちゃんが規格外なだけなのかもしれんが、さぁこの状況どうするミシェル?)

 

 「アレを躱されるなんて……お前本当にスゲェんだな」

 「中々いい余興だった、多少痛むかもだが切断は勘弁しておいてやる」

 「シエスタお前がスゲェヤツなのは素直に認めてやるが、残念ながらこの勝負はオレの勝ちみたいだ」

 

 シエスタちゃんの振り下ろした剣がミシェルの肩を深く抉ったその瞬間、彼はその剣を手を血まみれにしながら強く握りしめた。

 剣を掴まれたシエスタちゃんの動きが止まった。


 「ぐっ。おい放――」


 シエスタちゃんが言葉を発し行動するよりも先にミシェルの身体が青白く光り激しく点滅を始める。


 「うおおおおおおおおおお!」

 

 おい、それはマズイ――オレが叫ぶ間もなく視界は真っ青な光に包まれ、直後体を引き裂くような爆風と熱波が同時に襲い掛かってきた。

 あの大馬鹿野郎が今使った魔法は魔力爆散ラストリゾート

 自身の魔力を好きなだけ使用し、消費した分の魔力を熱に変換し体外に放出する。

 もっと分かり易く言うとこれは……自爆魔法だ。

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ディアボリック・デザイア・ディプラヴィティ ~邪神新生~ yyk @yyk__

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