第20話 最強と最低
先に到着していたミシェルに遅れる事数分、オレ達に並びシエスタちゃんも丘の上へとやってきた。
そして試合に臨む両者が空き地の中央付近へと向かい、そこで一定の距離を取って対峙する。
「随分と遅かったじゃねぇか。さっきからヒロムートとコソコソ何話してたんだ?」
「何、大した用事ではない。それに数秒後には分かる事だ」
「はいはいそうですか、そいつぁ楽しみだね」
若い二人が話に花を咲かせている間にオレとカーミラはこの空間の全体を見渡せる観戦に適した場所への移動を行った。
「ケケケ特等席へご到着ー」
「……さてと、ミシェルがあのシエスタちゃん相手にどこまでやれるか見物だな」
この試合はミシェルに対するテストの側面もある。
ヤツが
そもそもシエスタちゃんがあんな条件を出すまでも無い。
元々最強の影が踏めるくらいの実力がなきゃ、オレはミシェルを切るつもりだったからな。
「おいヒロムートなにボーっとしてやがる。お二人さん、そろそろおっぱじめるみてぇだぜ?」
「そのようだな」
軽く息を吐いたミシェルが拳を握り戦闘態勢を取る。
それを見たシエスタちゃんは鞘から剣を抜き、白銀に煌めく剣先を対峙するミシェルへと向けた。
「私は無駄な殺生は好みではない。死なない程度に手加減はしてやるつもりだ」
「おいおい、それ人に剣を向けといて言うセリフか?」
「お前は人ではないだろう、魔族なら頑丈だし少々斬られても問題は無い。それじゃあ始めようか」
「……じゃあ、いくぜ」
最初に動いたのはミシェルだった。
前屈みになったミシェルはそのまま地面を力いっぱい蹴り出してシエスタちゃんとの距離を一気に詰める。
読み合いもクソも無い真正面への超速突進、しかしこれは彼の必然の動き。
何故ならミシェルの戦闘スタイルは魔法で強化した拳で戦う
当然武闘家が接近戦を仕掛けてくるのはシエスタちゃんも理解している筈……しかし彼女は退かなかった。
それどころか剣を構えて自ら前進しミシェルの間合いへと近付いていく。
「野郎、余程自信があるみてぇだな」
「……
両者が会敵するほんの十歩手前でシエスタちゃんが虚空へ向かい数回程剣を振るった。
するとそこから複数の緑色の風の刃が発生しそれがミシェルへと一斉に射出された。
「くっ!」
全速力で駆け抜けていたミシェルは急には止まれず、後ろに下がる事は出来ない様子だった。
あの風の刃を躱すには必然的に前に向かって突っ込みながらではないといけない。
「終わりだな」
シエスタちゃんはその場で立ち止まって剣を大きく振りかぶり、直進するミシェルを完璧に迎え撃つ態勢を整える。
足元、頭上、そして左右の退路を塞ぐように巧妙に計算されて射出された風の刃、ミシェルはこれらを避けつつシエスタちゃんの次の一撃にも対処しなくてはならない。
最強の剣士は武闘家の行動と弱点を熟知し、たったの一手で詰みを作り出したのだ。
シエスタちゃん程の腕前なら避けるのに手一杯なミシェルに致命的な一撃を食らわす事は訳ないだろう。
これは終わったな。
オレがそう思ったその瞬間、絶望的な状況に置かれた当の本人、ミシェルはにやりと笑っていた。
「……成程、流石は最強の剣士、王道で古典的、お手本の様な120点の対処をするアンタに正面きっての攻撃は通用しないと思ってたよ」
「そろそろ喋るな、舌を噛むぞ」
ミシェルは上下左右から襲い来る斬撃を避ける為に小さく屈みながら跳躍する。
この前方への真っ直ぐな跳躍、それは正にシエスタちゃんの思惑通りの避け方だ。
無理だ、その体勢からでは彼女の追撃は避けられない。
だが、ミシェルの目は死んではいなかった。
その目は僅かなミスの可能性や運否天賦に全てを委ねる者の目ではない。
5分以上の勝負、確かな勝算の下にある自信に満ちた目だった。
「……でも残念ながらオレが教えてもらった最低の戦い方は邪道、
ミシェルはそう言うと跳躍しつつ右腕を後ろに下げ、そのままシエスタちゃんの顔面に向かって何かを投げつけた。
……ヤツが投げつけた物、それは廃城の部材の石煉瓦だった。
まさかアイツ最初からこれを狙ってやがったのか。
「なっ!貴様!」
突如自分の顔に向かって煉瓦が飛んできたのなら追撃どころではない、シエスタちゃんは慌てて剣を引っ込めて煉瓦を躱し、迫るミシェルの射程から退く為に一旦後退する。
奇策を仕掛けて追撃を防ぎ無事地面に着地したミシェルはその反動を利用した二段飛びで後退するシエスタちゃんをすかさず追いかけ、そのまま距離を詰めて
「ケケケ、マイナス百点たぁミシェルの野郎言ってくれるじゃん。まっ、立派なお城で型にハマった剣術を習ってきたお嬢様にはこういう汚ねぇ実戦的な戦い方は知らねぇだろうな」
「大したタマだよ……シエスタちゃんが自分を舐めてかかってる慢心も計算に入れて、
シエスタちゃんの技のキレと技術はオレが5000年間色々な剣士を見てきた中の誰よりも優れているのは間違いないと思う。
しかし戦いの勝敗ってのは己の才能や技だけで決まるもんじゃない。
大事なのは
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