第19話 剣聖の勧誘は一筋縄ではいかない

 「やぁシエスタちゃん久しぶり。元気してた?」

 「ヒロムート殿、何しにここに来たのだ。確か貴方の予見した終末の敵の襲来までまだ二年はある筈だが?」

 「なーに、ちょっとした息抜きをプレゼントしようと思ってね、君と試合をさせてみたい坊主を連れてきた」

 

 シエスタはその言葉で察し、オレの後方に立つミシェル達を軽く流し見た。


 「そこにいる者か」

 「うん、そうだな」

 「……悪いが結果は分かり切っている。そもそも貴方は本当にそんな余興の為にわざわざここへ訪れたのか?」

 「ふぅーん聡明聡明、察しがいいな……実を言うとこんな寂しい場所で一人ぼっちの可哀想な女の子を外の世界に連れ出したいと思っていてね。この小僧が君に一発でも攻撃を当てれたらシエスタちゃんを野暮用と息抜きの旅にご招待したい」


 オレの言葉に対し彼女は顔をしかめて不快感を露わにする。


 「私がそんな条件で納得するとでも?」

 「思わない、が。これはオレらにとって、そして君にとっても必要な事だと考えている」

 

 ここでさっきからずっと話すのを我慢していた様子だったミシェルが口を開く。


 「おい、ヒロムートなんかまた話が違うぞ!てか敵の襲来って何?」

 「まぁまぁミシェル、もう少し黙って聞いとけって……それでどうなのシエスタちゃん?」

 「断る。私という存在は世界を守護する為にある、将来の滅亡をあなたに宣告された今、旅をしている暇など無い」

 「まぁ取り敢えずこいつと試合だけしていけよ。スッキリして気持ちが変わるかもしれないぜ?」

 「やるだけ無駄だな……私は修練に戻る」


 シエスタちゃんはそれだけ言い残し、そのままオレ達に背を向けここを立ち去っていく。


 「ヒロムートアイツ感じわりぃな」

 「お前が言うなお前が……しかし困ったな」


 交渉する余地なし、か。

 今の彼女は鉄壁の要塞、ここから動く気は微塵も無いときた。

 予想はしてたが正義を気取る奴程堅物で頑固なんだよぁ……。

 こうなりゃしょうがない。

 どうにかして彼女の態度を軟化させる必要がある。


 ……やるかアレを。


 「へぇ随分とお堅くなっちまったじゃん……ガキの頃、一番最初に魔物を見た時は開口一番『ママ―』って泣き叫んでたあの――」

 

 オレそう呟いた瞬間、彼女の態度が一変する。

 先程までの凛として落ち着いた振舞はどこへやら、シエスタちゃんはギャグマンガのキャラクター並みにオーバーリアクションで素早くこちらに振り返った。

 振り返った彼女にさっきまでのクールな表情は無く、白い頬は燃える様に赤くなり頭からは湯気が噴出する。

 

 「おい!や、ヤメローー!そ、そ、それは言うなぁああああ!!」

 「ケケケまさか最強の白玉マジェスティックの剣聖ホワイトジャスティスにそんな一面がね」

 「……意外とテンション高いんだな」

 「ぐおおおおお私のイメージがああぁ!」

 

 やはり、変わってない。

 シエスタちゃんに昔話のこうかはばつぐんだ!

 

 「それにさ、確か初めて剣でモンスターを斬った時――」

 「あー!あー!それもだめぇ!!」

 「ごめんってシエスタちゃん。で、話ちゃんと聞いてくれるかな?」

 「くぅッ、極悪神め!分かった、聞いてやる……だから頼む……その話はよしてくれ」


 へへへ、極悪神?

 勿論さ、だって邪神ですもの。


 「りょーかい、それに一応言っとくとオレは無為無策なお気楽旅をしようって訳じゃねぇ。旅には君を誘うちゃんとした目的がある」

 「……どういうこと?」


 まだ少し拗ねてるが何とか食いついたな。


 「旅をする目的は大きく三つある、一つは災厄に立ち向かう別の仲間の捜索、そしてもう一つは道中における仲間同士の交流、連携……最後にを探る事さ」

 「仲間か……それで繋がった。そこにいる者に試合をさせたかったのは私が彼と旅をするに値する器かどうか判断させる為だな?」

 「正解。こう見えてミシェルは結構やる奴だぜ?」

 「ふん、私に足る者など存在しないがな……一つ目と二つ目の目的は概ね理解した。では最後のヒロムート殿の可能性を探るとは?」

 

 オレはそこで一度ミシェルにも視線を合わせた後、近くの瓦礫に腰掛けてから会話を続けた。

 

 「と言うのもな、ぶっちゃけって言うとオレは今回の破滅事象でメインで戦う事は出来ないと思うからだ」

 「ん?それはどういう――」

 

 話が中断しない様にオレは手のひらを上に掲げてシエスタちゃんの意見を制する。


 「ハッキリとした理由は不明だが、オレの偉大な神の力の使用と死がセットになっていてさ、どうやらそれが世界滅亡のトリガーの一つとなっている可能性が高いんだ」

 「なっ!それは本当なのか?」

 

 あーあ皆動揺しちまって、まっそういう反応になるのも仕方ないか。


 「だからさ、オレが死んだらマズイわけよ。で、必然的にシエスタちゃんはここに留まるだけじゃ世界を救えなくなったわけだ」

 「……確かに、そうなるな」


 シエスタちゃんはそれだけ呟くとそのまま遠くを見つめ、何かを考える素振りを見せて黙り込んだ。


 「おーい、シエスタちゃん?」

 「…………いいでしょう。彼との試合、受けて立つ、どうぞあちらの開けた場所へ」

 

 シエスタちゃんは先程自分が立っていた丘の上の廃城手前にある平坦な空き地を指差した。


 「よっしゃ行ってこいミシェル」

 「おう、なんだかよく分かんねぇ展開だが取り敢えず全力を出すだけだ」


 指定場所へ向けて歩き出すミシェルを余所にシエスタちゃんは動かずその場に立ち止まったままであった。


 「ん?どうしたの?」

 「試合前に条件を一つ付け加えて欲しい」

 「言ってみな?」

 「彼が私に一発でも攻撃を当てられることが出来なかった場合、彼の旅の同行を認めないでいただきたい。弱者は足手まといになるだけだ」


 なるほどね、実に彼女らしい合理的で傲慢な提案だ。

 

 「構わないぜ」

 「そうか」

 「でも一つだけ忠告しとく。あまり武神ルリエラの孫弟子を舐めてたら史上最強の剣士でも足元掬われちゃうぜ?」

 「……ふんっ」

 

 こうして歴史上最強の剣士白玉マジェスティックの剣聖ホワイトジャスティスシエスタと魔族の国の王子で武神の孫弟子ミシェルとの息抜き旅を賭けた試合が始まる事となった。

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