第18話 白玉の剣聖
「あの世界で大体一年過ごしたって事はよ……ミシェルの野郎の修行もそろそろ終わっている頃合いだな」
あいつは恐らくこの一年、カーミラに色んな意味でたっぷりと扱かれたハズだろう。
「取り敢えず、会いに行ってやりますかね」
と、その前に一年も熟睡した所為で髪もボサボサになってる。
流石にこのままじゃ恥ずかしいし軽くシャワーを浴びて身だしなみを整えるとするか。
それから大体一時間程で準備を終え、神殿のワープポイントを使って魔王城まで移動した。
「到着っと。さてさてまずは広間に行ってみるとするか」
日中でも薄暗く人気の少ないあの広間は昔からミシェルのお気に入りスポットだった。
あいつは一日十時間以上もやらされる勉強なんかに嫌気が差した時、よくあそこでサボっていた。
なんて事を考えている内に広間に到着すると小窓から差し込む光の柱に照らされた一人の人影見えてきた。
……ほらな、やっぱりいた。
「おーい、ミシェルまたサボりか?」
「一年ぶりの挨拶がそれかよ。今は休憩中だっての」
「一年ぶりってたかだか一年だろ」
「お前の感覚と一緒にすんなよ。俺の経験した一年はとんでもなく辛くどんなに成長した事か……」
「ふーーーん」
「興味なしかよ!」
いやいや、たかが一年で何言ってんだ。
実際ミシェルに身体的な大きな変化は見られない。
うーん、しいて言うと……そうだな。
以前に比べて気持ち身長が伸びて目つきが若干鋭くなった?ぐらいのほんの些細な違いだけだ。
「まぁねん。それでカーミラは?」
「その言い方ウッザ。……
「そっか、じゃあ行くべ」
「おい、ちょっと待て!」
中庭に向けて歩き出したオレの前でミシェルが進路を塞ぐように立ちはだかった。
「えっ、なに?」
「なに?じゃねぇよ!とぼけんな!俺がなんで厳しい修行を受けさせられるハメになったのかちゃんと説明しろ」
「あーはいはいはい、そういう事ね。まぁ焦るなよ、それはあの子と合流してから話してやるから」
立ち塞がったミシェルの肩をポンと軽く叩き、そのまま素通りして中庭に向かっていった。
「お、おい、それってどういう事だ」
ミシェルは納得のいかない様子のままオレの後ろに付いてくる。
▽ ▽ ▽
「ちーすカーミラ。元気してた?」
「ケケケ遅ぇよヒロムート、約束の一年からもう三日も経ってんじゃねぇか、あぁん?」
カーミラは口では悪態をつきながらもいつも通りの笑みでオレを出迎えた。
「
「あぁ、バッチリさ。多分今のあいつだと体術だけってんならオメェともいい勝負すんじゃねぇのかな?」
「お前、オレがステゴロ苦手なの知ってるだろ……だがそれで十分だ。感謝するぜカーミラ」
「ケケケ私も最上級魔族の精気をたらふく食える機会なんて中々ねぇから感謝してるぞ、何なら期間延長したっていいんだぜ?」
「有難い申し出だが遠慮しとくよ」
「カカカそうかい、そりゃ残念」
カーミラとの雑談を済ませてオレは後方で暇そうに立っていたミシェルに話しかけた。
「さてミシェル、オレはカーミラとの修行を終えた今のお前の実力が見たいと思っている」
「なんだよいきなり、あれか?お前と組手でもやれってのか?」
ハハッ若いねぇ。
口では嫌そうな素振りをしているが実際は修行の成果をオレに見せたくてウズウズしている眼だ。
「いや相手はオレじゃねぇ、ミシェルこっちだ。ついて来い」
オレは何も言わずに歩き出す。
そして中庭から数分程歩いた先にある普段は滅多に人の来ない廊下の壁の前で立ち止まった。
「おい、こんな何も無い所にオレを連れて来てどうするつもりだ?」
「まぁ黙っとけって。てかさ何でカーミラまでついて来てんだよ?」
「ケケケついでだ私にも弟子の勇姿を拝ませろ」
「……しょうがねぇなぁ。これ機密事項だから黙っとけよ」
廊下に飾り付けられた花瓶を動かし、その奥にある壁の僅かに飛び出した突起部分を手で押し込む。
すると正面の石壁がせり上がってどこかへ繋がるワープポイントのある小部屋への道が開かれた。
「隠し扉かよ」
「そゆこと、この先のワープポイントにお前の実力を測る対戦相手がいるぜ。さてと、オレが先に入るからついて来いよ」
オレはそう言って隠し部屋のワープポイントに足を踏み入れワープする。
▽ ▽ ▽
ここはいつ見ても変わらないな。
生き物の気配は愚か、草木一つ生えていない灰色の大地に放置されたままの古城の残骸が残る寒くて寂しい場所。
空はこの場所の心象を現しているかのように常に黒々とした雲に覆われ雨も降ってないのに雷が鳴り続けていた。
「うー、寒っむ!ヒロムートここどこだよ」
「来たか、ここは灰都ペンドラゴン。そんな事よりあそこにいるのがお前の対戦相手な」
オレが指を差した先にいたのは古城の残骸が聳える小高い丘の上に佇む一人の剣士だった。
荒廃し塵や灰の舞うこの場所には似つかわない汚れや錆一つ無い純白の鎧ドレスとマントを身に纏った透き通る様に輝く長い銀髪が特徴的な美しい少女。
見惚れる程美しい立ち姿は荒々しい大地に力強く咲くたった一凛の白い花を思わせる。
どうやら彼女もこちらに気が付いたようで、サファイアの様な深い青の瞳がじっくりとこちらを覗き込んでいた。
「……あいつはまさか」
「ほう、流石にアホなお前でも知っているようだな」
「ケケケ、ヒロムートあんた随分ととんでもねぇヤツの所に私らを案内してくれたな」
「カーミラは勝手に付いてきただけじゃねぇか……そう、あいつが今回ミシェルが手合わせする相手、人類の歴史上最強と謳われる剣士
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