第17話 夢の終わり
この夢の中の世界だが前に訪れた時は時間経過が現実と変わらなかった。
それと夢から出たいと思った時に抜け出せる親切仕様であったとも記憶している。
その逆もまた然りで、やろうと思えば何十年もこの世界に居座る事は可能だったな。
勿論今回はそんな悠長に過ごせる時間は無い……だってそんな事してたら死ぬし。
「さて、チャチャっと作業に取り掛かりますかな」
オレは綺麗に陳列されてある本を手あたり次第掴んで地面に放り投げ、落とした三百冊位の本の最後のページを破り取ってその切れ端を束にして一つにまとめた。
……セーフ、オレの行動に対して店員はガン無視、特にお咎めは無かった。
現実世界でこんな事をすればモチロン捕まるだろうけど、そこまでの再現性はこの世界にはなかったようだな。
「今回重要となるのはオレの死の瞬間、その前後の過程だ……他の情報はさして重要じゃない。大体この本一冊一冊丸ごと調べて検証してたら何万年あっても足りやしないしな」
オレは一仕事終えた後に一旦その場から離れ、とある物を求めてレジ前へと戻ってきた。
「多分この辺に……あったあった」
欲しかったのはレジの裏に用意されてあった店員の書き物用の三色ボールペン。
オレはそれを黙って拝借した。
……再びセーフ、店員は無表情のまま何事も無さそうにその場から動かなかった。
「後から文句言うなよ?」
店員は何も答えない、これって大丈夫って認識でおk?
そこからオレは束ねたページの切れ端に一枚一枚目を通していき、気になった情報や他とは違う情報等に線を引いたり書き足したりして情報を精査しやすい様にしていく作業を行っていった。
これを来る日も来る日も繰り返し、三百冊、五百冊……千冊と続けていった。
▽ ▽ ▽
「おい店員、【ヒロム・カナメ第十万ノ世界五千年紀】を持ってきてな……あとついでにピザとコーラも」
この世界が夢だからなのか、店員にある程度の無茶なお願いが効くと気が付いたのが十ヵ月くらい前だった。
つまりオレの体内時計があっているなら、ここで十ヵ月以上暮らしているという事になる。
「りょーかいしましたー少々お待ちくださいませー」
「相変わらずやる気ねぇ返事だな」
「おまたせしやしたー」
「はやっ!」
時間にして数秒、店員は指示通り指定の本とピザとコーラをオレの前に持ってきてレジの定位置へと戻っていく。
これももう随分と見慣れた光景になってしまっていたな。
正直ここ一面の本棚の本を全ての作業が終了した後に冗談半分で「続きを持ってこい」と店員に言ってしまった所為で終わりの見えない旅が始まってしまったのは少し後悔している。
……これで十万冊目、流石にもうこれ以上は調べる価値は無いよな。
いや、そうと言ってくれ!いい加減飽きたぞ!
「そろそろこいつらのまとめ時だな」
情報を集めるのに十ヵ月も使ってしまったが、正直ここからは早いと思う。
流石に同じ様な内容のもんに十万回も目を通すとある程度の法則性は見いだせたつもりだ。
オレは白紙のコピー用紙を使ったメモに自身の考察を雑に書き記していく。
・新神暦三千五百年、今から大体二年後位にオレは確実に名状し難きモノとやらに襲われる。
・オレが死ぬと必ず致命的な神力異常が起こって世界が崩壊する。
恐らくこれが決定事項。
十万冊全てで同じ文言が書かれていた。
そして次が他と違う点。
・死亡前の場所、食事、行動、他者との会話等はどれも異なっていた。
・正確な死亡日、時間帯もランダム、ズレはかなり大きく数年程度。
・少ないながらもオレは名状し難きモノとやらから複数回逃走出来た場合もあり。
・しかし例え逃げ延びたとしても事態はどんどん悪化していき最終的に自殺を選択する場合もあった。
相違点から考察を広げ死の条件をザックリと割り出してみる。
・場所、日付、時刻は関係無い可能性が大。
・病死、事故死は記録無し……そもそもオレってこの世界で病気になった事ないしな。
・以上を踏まえオレが死んだのは自殺と名状し難きモノとの戦闘による死亡の二パターンのみ。
「待てよ……って事はつまり」
ここまで考察を巡らせた上でオレは死なない為の条件、アホらしい程シンプルな回答へと辿り着く。
「もしかしてこの名状し難きモノってヤツに勝つ事が出来ればいいだけじゃね?」
当然と言えば当然。
尤もそれが出来れば話が早いのだがそうは問屋が卸さない。
少なくともここに記された十万通りの未来のオレは未だ一度も成功には至っていない。
確実にコイツに負けているって事だしな……。
「はぁー」
詰みです、か。
溜息をつき、地面に置いてあった適当な一枚のページをボッーと眺める。
――その瞬間、焼けるような閃光が脳裏を駆け巡った感触……天啓。
「……いや、ここには敗北したとは一言も書いていない」
オレは慌てて別のページ、そして
「やっぱりこれも、これも、そしてこっちもだ」
頭の中で点と線が繋がる。
……ようやく分かった。
オレの死の条件。
それは名状し難きモノとやらに殺されているんじゃない……オレの死ぬ直前に必ず【神の力】を使っている。
これが分かれば十分、この世界には用は無い。
オレは急ぎ気味に店員に声を掛けた。
「早くここから出してくれ」
「りょーかいしましたー。…………変わるといいのぉ、未来とやらが」
「えっ!」
最後がよく聞き取れなかった店員の一言共に周囲が眩い光に包まれていく、あまりの明るさに反射的に目を瞑る。
しばらく目を閉じたまま瞼の裏で周囲の明るさを感じ取ってからゆっくりと目を開いた。
「帰ってこれたな」
視線の先には見知った天井。
夢の世界から帰還したオレは自室のベッドの上で大の字で寝転がっていた。
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