第11話 目論見
「し、しかしゲンジ様。魔物如きが我らに対し余りに無礼千万、あの様な横柄な態度を取る事など断じて許せるものでは――」
「おい、ルイス!いいからここは黙って下がれ」
「……は、はい」
この時ルイスは意外と素直にシャバ僧の言葉を受け入れて後ろへと下がっていった。
なんだあのオッサン?
あれだけ怒り狂ってたのに自分より遥かに年下でひ弱そうな人間の言う事を素直に聞き入れるとは。
後方へ下がっていったルイスと交代する様にゲンジと呼ばれた男が前に立った。
彼は軽く深呼吸をしてからオレ達に向かって深々と頭を下げる。
「先程はあの男が無礼を働き大変申し訳ない、後で厳しく譴責しておくので先の件はどうか不問としてほしい」
「ふむ、
「……感謝する。して、最長老殿。少し気になるのだが、けしかけたとは?」
え?単純にアイツの態度がムカついたから煽ってみたんじゃねぇの?
「ええまぁ、少し探りを入れようと思いましてね」
「……探りとは?」
「なに、こういう重要な会談の場に礼儀や下らない作法を重んじる人間達が何の配慮も無く護衛と思われる者達を同席させる事に違和感を感じましてね……それによく考えれば貴方の恰好、それは神聖服ですよね?」
いや最長老、そいつのそれは世間一般的なカジュアルファッションですよ?
「おっと、俺とした事がそんな初歩的なミスを」
ゲンジは自分の恰好を見回して苦笑する。
確かにその恰好で深い森を歩いてきたのはミスに他ならないがな。
「果たしてそれが本当にミスだったのかはさておき、私は敢えて対立を煽る事で貴方の出方を探った事は事実です」
「俺の正体に気が付いて尚の対応か、最悪戦闘になっても構わなかったと?」
「無論、その可能性も否定はしません」
おいおいマジか、オレがボッーっと話を聞いている中でそんな腹の探り合いが起こってたの?
やっぱりオレこういう偉い人達の話し合いとかそういうの無理だわ~。
「成程理解した。それで、くだんの件だが俺個人的にももう一度よく精査する必要があるかと思われる。実際
リントエールだって?
確かこいつらはコーライルって国の使節じゃなかったっけ?
ちょいと気になるな。
「おい、ゲンジとかいうそこのお前」
「……は、はひぃいい!」
「ゲ、ゲンジ様?」
は?なんだこいつ。
オレが話しかけた瞬間態度が急変しやがって。
お仲間達も心配そうな表情で声をかけてるし。
「さっきリントエールって言ってたけどお前ってコーライルの使節じゃねぇの?」
「そ、それはですねコーライルには現在相談役という形でリントエールの官吏が赴任しておりまして」
「へぇ、そうなんだ。じゃあオメェが相談役ってやつ?」
「……い、いえ、それは違い……ます」
なんだか歯切れ悪いな?
……もうちょっと揺すってみるか?
「ゴホン!どうやら先程から彼の調子が優れぬようだ、万が一であるが感染症であればそちらに大変な迷惑がかかってしまう。申し訳ないが我々がこれでお暇させていただく」
「お、おいルイス!放せ!ってお前達まで」
「わりぃリーダー、流石にこれ以上はな……」
さっきの話題には触れられたくないのかルイスが強引に会談を打ち切り、ゲンジの仲間達は彼を無理やり引っ張り出して部屋の外へとそそくさと退散していった。
「おい、逃げんな!ワザとらしく誤魔化しやがって話は終わってねぇぞ」
「まぁまぁ、良いではありませんか邪神様。当初の目論見通り彼らは退いて行ったのですから」
最長老は満足げな笑みを浮かべてそう語る。
「うーん、確かにそういやそう……なのかな?」
一先ず危機は避けられた……のか?
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