第9話 サキュバスの最長老
「……こっち」
ルリエラの案内で森の中を10分ほど歩いた先に現れたのは苔むした煉瓦張りの小道であった。
そのまま小道に沿って歩く事数分、目の前の開けた場所に大小様々な家が数十軒程立ち並ぶ小さな集落が見えてきた。
「ここが、ルクスリアか……」
ルクスリア、初見の印象は自然豊かな田舎町、本当にそれだけだ。
ただこの集落が普通の田舎と明確に違っている点が一つある。
それは畑いじりをしている住人や庭先で煙草をふかしている住人、町を徘徊している住人が田舎特有のジジババではなく、布面積の殆ど無い下着同然の衣服を着用している若い女性達しかいない事だった。
……
「あら、ルリエラちゃんじゃない」
集落の入り口の一軒家の前で掃き掃除をしていた一人のサキュバスがルリエラに声をかける。
「……エルネおばさん、久しぶり」
ルリエラは相変わらずの態度で返事だけ返すと足早にそのサキュバスの前を去っていく。
「相変わらずねぇ、ルリエラちゃん」
オレとミュスカも彼女に軽く会釈してからその場を後にする。
……あれがおばさん?どうみても20代前半の美女なのだが?
サキュバス同士なら年齢差が分かる物なのだろうか?なんだか不思議なものだ。
しばらく歩き、集落の中心部らしき建物が密集するエリアにやって来た所でルリエラが再び通りすがりのサキュバスに声を掛けられた。
「お、ルリエラ久しぶりじゃん!元気してたか?」
「……ええ、まぁ」
話し方から察するにさっきより少し若いサキュバスなのかもしれないな。
それでもルリエラにとってはあまり関係ないのか、返事はいつも通り素っ気なくそのまま歩き去っていく。
「ったく、50年ぶりの再会だってのにシケてんなぁ。……おや、それよりも随分と美味しそうな少年連れてんじゃねぇの」
金髪ナイスバディなそのサキュバスはわざと音を立て、誘うような下品な舌なめずりでオレの方を見た。
「ごくり……」
「どうだ少年。一発ヤッてかない?」
彼女の目を見た瞬間オレは何も考えられなくなった。
「オッス、お願いします!」
そのまま引き寄せられるように彼女に近付いていこうとした時、目の前にルリエラの静止を促す様な横入の手が見えた。
はっ!一体オレは何を。
「……メリッサ、それ以上やると本気で叩くよ」
「ちぇ~。はいはい、分かったよ」
気が付けばさっきのパッキンサキュバスが残念そうな表情を浮かべてその場を去って行っていた。
あれ?オレとの一発は?
結局その後も一発は無く、オレ達一行は集落の中でも一際豪華な造りの屋敷の前に辿り着いた。
「ルリエラ、ここが例の最長老様の御座す場所ですの?」
「……ええ、さぁ入って」
そう言ってノックもせずにルリエラは屋敷の扉を開いてズンズンと中へと入っていく。
そんな自分の家みたいに、本当に大丈夫か?それで。
「しゃあねぇミュスカ、オレ達も行こうぜ」
「ですわね。お邪魔致します」
灯かりは付いているものの特に人気の無い屋敷の中をルリエラを先頭にしてひたすら歩いていく。
そして屋敷の最奥部と思われる扉の前でルリエラの歩みが止まった。
その扉の左右には露出多めのメイド服を着た黒髪と白髪という髪色にしか違いの無いクリソツのサキュバスが立っていた。
彼女達はサキュバスらしい整った容姿とスタイルの良さは勿論の事、クロスオーバーポニーテールの髪型までもが完璧に同じであり同一人物が分身しているのではないかとすら思えてくる。
『ようこそいらっしゃいましたお客様、そしてルリエラ。すでに主は奥でお待ちになられています。どうぞ、中へ』
メイド達は何回も練習したんじゃないかと思う程に綺麗にシンクロしてる声でそう告げ、目の前の扉を開いた。
「だ、そうだぜ?」
「ドキドキしますわね」
「……行こう」
奥の部屋には集落のサキュバスとは一線を画した、巨大な角と太く長い尻尾を持つサキュバスが椅子に深く腰かけてこちらを待ち構えていた。
ヤツがサキュバスのトップ、最長老か。
最長老は長くまっすぐ伸びたピンクの髪の間から少し垂れた優し気な瞳を覗かせこちらに対し、慈愛に満ちた表情で微笑む彼女はその肉体美溢れる豊満さも相まってまるで女神の様であった。
「こんな老いぼれの所へ、ようこそいらっしゃいました。ルリエラ、エルフのお客人、そして新たなる邪神様。私が最長老クオリア・アイズ・グレイセスです」
さっきの
彼女の持つ圧倒的な雰囲気だけでも心が飲み込まれそうになる。
ふぅ、まずは落ち着け、しっかりしろオレ。
……よし、何とか大丈夫だな。
「老いぼれだって?オレにはとてもじゃないがそう見えないな……」
いや、貴女はどう見ても老いぼれではなく、10代に負けない肌艶をお持ちのとんでもねぇ美人さんなのですが……。
ってかこいつ何でオレの事を邪神って知っている?
「ふふふ、邪神様御冗談を。それよりも立ち話もなんですし、どうぞお掛けになられて下さい」
最長老の合図でさっきの白黒のメイド達が手際よくオレ達の前に椅子を置いた。
オレ達が着席し終えて最初に口を開いたのはルリエラだった。
「……最長老、一つ耳に入れたい事が」
「ええ、ルリエラ大体の事は分かっております……この集落に危機が訪れているのですね」
さっきから気になっているんだが、最長老はオレの正体と今回の事態を把握しているのは何故か、少し探ってみるか?
「ちょっと待ってくれ、アンタやけに物分かりがいいんだな」
「いえいえ私は最近物忘れが酷くて、実を言うと優秀な部下達が私にあなた方の事情を話してくれただけに過ぎませんよ」
最長老はそう言って白黒メイドの方へチラリと目を向けた。
「まさか、あいつらが?」
こいつら、ただの使用人じゃないってのか。
「……ヒロムート様、最長老は嘘をついていないと思う。アンラ様とマンユ様はこの集落の守護者……あの方達の監視の目からは逃れられない」
おいおいこのメイド達ってルリエラがそこまで評価する存在だったのかよ。
「まぁそういう事です。【特殊】タイプのサキュバスは通常のサキュバスよりも探知能力が秀でておるのですよ……まぁその中でも彼女達は所謂天才と呼ばれる才能も持ち合わせていますがね」
「アンタらが事情を知っている理由は分かった。その上で聞こう、この後どうするつもりだ?」
端的に言えば下衆な人間達が逆恨みの挙句、恐喝にやってくる訳だがな。
「勿論こちらとしても策は用意しております」
なんだ、そうなんか。
あんたらだけで解決だったらオレらいらなくね?
手が切れるならそれに越した事は無い。
まぁせっかくここまで来たんだし一応その策とやらでも聞いとくか。
「ふむ、策ってやつが気になるな。コッソリと教えてもらう事は出来るか?」
「勿論ですよ、この策には
「皆さまって……えっ、まさかオレら?」
……あの最長老、ほんとごめんだけど、オレらを勝手に面倒事に巻き込まないでくれる?
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