第7話 ルリエラの実力
目の前のあいつはどう見ても人間だよな。
何故人間がこんな森の中に?
「もう……ヒロムート様……勝手に行動しないで」
オレに遅れる事十数秒、隣に着地したルリエラの表情はいつもと変わりはないが、語気の強さで少し怒っているのが伝わってきた。
「すまんルリエラ、オレの早とちりで……何か変なのと出くわしちまった」
「……おや?さらにもう一匹、カモがネギを背負ってきやがったな。おい!お前ら。ちょっと来い!」
スキンヘッドの男はこの場にいるオレ達ではない誰かを野太く大きな声で呼びつけた。
「隊長どうかしましたか?えっ、何ですかこいつら?」
男の呼び掛けに呼応し、奥の方から同じ鎧を着た彼の仲間と思われる数人の人間が集まってくる。
「見てみろ、こいつぁ珍しい。有翼人とサキュバスのガキだ。ただのサキュバスよりも遥かに値が付きそうだろう?」
「へへへ、確かに」
あぁ、なるほど。
いかにも頭の悪そうなその会話で、こいつらがここにいる目的を大体理解した。
「いいか、お前らは麻痺弓を構えておけ。空に逃げられたら少々厄介だ」
「へい」
ハゲ隊長の指示を受けた部下と思わしき者達はオレ達に向かって一斉に弓を構える。
「お前ら、痛い目に遭いたくなかったら黙ってオレに従いな」
……そんな事言いながら隊長さん、腰に差した剣をガッツリ抜いてますやん。
正直オレの力は未知数だし、怪我をしたくないし戦いたくもない。
だからと言って大人しく捕まるのも御免被りたいな。
「なぁルリエラ、一応聞くけどお前はこいつらに勝てると思う?」
「……余裕。」
マジかよこの子、アッサリと言って退けやがった。
どうやらハゲ隊長にその一言がかなり効いたみたいで、彼の額に青筋が浮かび眉はピクリと動いた。
要するに分かり易くキレていた。
「
この厳ついハゲが天使の血を引くだって?
それはギャグで言っているのか?
「……どうせ隠し味に使う調味料程度の薄い血……大した事ない」
ルリエラさん!?
さっきから煽り過ぎているせいでハゲ隊長の顔は真っ赤に染まり、天使というよりは
「気が変わった、サキュバスのガキは殺す。魔物風情が……45Levelの俺様を舐めた罪は重いと知りやがれ!」
ハゲ隊長がルリエラに向かって飛び掛かってくるのと同時に取り巻き達が一斉に弓を引き矢を放つ。
放たれた無数の矢は敢えて収束を甘くしているのか、こちらの退路を断つようにして迫ってくる。
「おわっ!」
逃げ場が瞬時に把握できなかったオレは咄嗟に慌てて地面に伏せたがルリエラは全く動じず、飛来した矢の全てをいとも容易く片手で叩き落とした。
「何だと!?」
「ほう、流石に調子に乗ってるだけはあるじゃねぇか」
取り巻き達は動揺を隠しきれていない様子だが、ハゲ隊長にはまだ余裕があるように感じる。
その対照的な様子から彼等にはそこそこの実力差があるのかもしれない。
ハゲ隊長は分厚い鎧を装備している人間とは思えない程素早く、ルリエラとの距離は気が付けば一気に詰まっており、あっという間に彼の剣の間合いに入ってしまった。
「くるぞ!ルリエラ!」
ガチガチのフル装備のハゲ隊長に対してルリエラはほぼ丸腰、状況は芳しくない。
「弓を落としたその反射神経は褒めてやるよ、だが剣の一撃はその細腕ではどうにもなるまい」
ハゲ隊長が剣を大きく振りかざす。
どうする、ルリエラ。
アイツの言う通り、あの剣を素手で払いのけるのは流石に不可能そうだ。
「……隙だらけ……」
「あん?」
「……えっ?」
――オレが次に見た光景、それはルリエラの拳がハゲ隊長の胸部を鎧ごと貫通し、拳を伝って鮮血が絶え間なく零れ落ちている情景であった。
「ぐっ……ふッ、嘘、だろ?」
ルリエラが突き刺さした拳を一気に引っこ抜く。
拳の支えが無くなったハゲ隊長はその場に力なく崩れ落ち、握りしめていた剣は手から離れて地面に突き刺さる。
一瞬で決まった勝敗。
あまり衝撃にこの場にいたルリエラ以外の皆の思考が一時停止していた。
「……次は、誰?」
冷淡に言い放つルリエラの一言にハゲ隊長の部下達が我に返る。
「ひっ!ひえええええええ!!」
彼らは恥も外聞もなくその場に武器を放り捨て、恐怖で歪んだ表情のまま 悲鳴を上げて森の奥深くへと一目散に逃げていった。
……そりゃ、そうもなるわな、ぶっちゃけ俺も同じ気分だ。
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