第5話 幻影の森人と拳闘サキュバス

 ▽ ▽ ▽

 

 ――数多の魔物達が狂喜乱舞した邪神の降臨。


 あの日から早五日が経過していた。

 この五日間でオレが城外に赴く事は無く、城に引き籠ってサリエルからの連絡を待っていた。


  「……サリエルの野郎、例の件について何が近日中に伝えますだ。もう五日も経つんだぞ。そろそろ連絡の一つでも寄こせっての」


 オレはこの五日でお気に入りの場所となっていた中庭に設置されたベンチに寝そべりながらぶつくさと呟いた。

 というのもハッキリ言って暇なのだ。

 この異世界には当然、テレビもスマホもゲームも無い。

 書物は存在するのだが肝心の文字が読めなかった……まぁ会話に支障が無いだけマシか。

 暇を潰す為に建物内部を探索したり、背中に生えた翼を使って空を飛ぶ練習をしてみたり(これは一瞬で上手くいってしまった)、色々とやってみたがそれももう限界に近かった。

 昼寝もいい加減飽きてきたし、そろそろ何か新しい刺激が欲しい。


 現代人というのは困りものだな。

 そんな事を考えていた矢先にオレの方へと誰かが向かってくるのが目に入った。

 サリエルか?……いや、違うな。

 

 「なんだメアリーさんか。なんか用?もう飯の時間だっけ?」


 オレの前に姿を見せたのはメアリーさんだった。

 メアリーさんはこの城に仕えるメイド長だそうで、ミニスカじゃない正統派メイド服を着こなす黒髪長身でクールな雰囲気の人物だ。

 主に彼女はオレのここでの生活のサポートや、ふと浮かんだ疑問について回答してくれたり何かと頼りになる有能な人物であった。

 

 「いいえ違いますわヒロムート様。お待ち頂いていた行幸の準備が整いました、既に我が主が正門前にてお待ちになられております。至急ご同行を願います」

 「マジ?やっとか!」


 随分と急な報告だが、退屈に殺されかけていたオレにとってそれは救いの一言だ。

 急いでベンチから飛び起きて、そのままメアリーさんの案内で正門前へと向かった。


 ▽ ▽ ▽


 「これはヒロムート様。お早い到着ですね」

 「よう、サリエル」

 

 巨人族ジャイアントが入れるほどバカデカい(というか実際に入ってた)正門の前には既にサリエルがおり、その後ろに何やら見覚えの無い新顔二人が立っている。


 「早速ですがヒロムート様、急なお呼び出しになった事を謝罪させて頂きます」


 サリエルが謝罪を口にして頭を下げようとしたのをオレは静止する。


 「いやいや良いって良いって。逆にお急ぎで呼び出してくれた事に感謝してんだぜ?オレも暇だったしさ」

 「左様で御座いましたか」

 「それよりもあの子達だろ?例の案内人ってのは」


 オレはサリエルの後ろに控えていた二人の女性に視線を向けた。

 (ほう、これは中々の美人さんでいらっしゃる)

 するとこちらの視線に気が付いた一人がオレの方へ向かって歩いてくる。

 

 オレの前までやって来た彼女は肩や脇、腹部が露出した黒いゴシック和装風の中々癖の強いコスプレみたいな装束を着用していた。

 まぁそんな奇抜な衣装を細身で長身というスタイルのお陰なのか何の違和感もなく完璧に着こなしていたのには少し驚いたが。

 顔立ちの方も大変美しく整っており色白の肌に切れ長の蒼い眼、長くサラサラした金髪にとんがり耳。

 この特徴はもしや?……そうか、きっと彼女はエルフだな。


 「初めましてヒロムート様。幻影の森人ファントムエルフのミュスカと申しますわ。種族名の通り隠密を得意としております、潜入調査、斥候はお任せ下さいね」


ミュスカと名乗ったなんちゃらエルフの彼女は自己紹介をした後にオレに一礼した。


 「おう、よろしく…………なッ!?」

 

 ――彼女が頭を下げたと同時に隠密に徹し切れていない主張の激しい胸部がゆさっと垂れ下がり目の前に見事な峡谷を出現させた瞬間をオレは見逃さなかった。

 

 巨乳エルフ…………イイ!


 「……どうかしましたか?」

 「いえいえ何も!」

 「では、私の紹介はこれ位で、ルリエラも邪神様にご挨拶を」


 一人目の案内人ミュスカの挨拶が終了し、彼女は残る一人にオレへの挨拶を促した。

 二人目の案内人は中坊位に若返った今のオレと大差ない背丈の女の子で、露出の多いビキニアーマーに相反する大きな赤マントを羽織るというこれまた独特のファッションセンスの持ち主であった。

 もしかすると現実とこの世界では美的感覚に違いがあるのかもな。


 彼女は少し幼く感じるが顔は悪くない、というか相当レベルの高い美人さんだ。

 少しだけつり上がった真紅の瞳に薄桃色の緩く波打ったセミロングヘア―の頭からは2本の黒く太いねじ曲がった角が突き出している。

 角は全体的に激しく損傷し片側に至っては根元の方からへし折れている。

 可憐さとワイルドの融合した風貌から彼女はただの少女ではないという凄みをオレに感じさせた。

 

 「……私は拳闘ストライカーサキュバスのルリエラ…………よろしく……」

 

 声、ちっさ!!

 あー多分サキュバスと言ったか、だとすると例の集落の出身者かな?

 それなら案内には最適そうだ。


 「お、おう。よろしくな」


 ルリエラはそれ以上何も語らず、黙ってオレから離れていき門の先の外の景色を見つめていた。

 しかしボンキュボンのイメージのあるサキュバスにしてはちんちくりんだし……この子は色々と癖が強いな。

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