第4話 自由である事の不自由
「さて、ヒロムート様、広間でのお約束通りご質問に答えさせて頂きます。どうぞあちらにご着席を」
乾杯の挨拶が終わったと同時にサリエルはオレ達の後方に配置された日よけ付きの丸テーブルに着席を促した。
「んじゃ、お構いなく」
「はい、どうぞ」
オレが着席したのを確認したサリエルもテーブルの向かい合う位置へと着席した。
テーブルの上にはワインの入ったグラスが並べられていたがオレはそれに手を付けなかった。
まずはこいつに話を聞くのが優先事項だ。
「最初に確認だ。この場所はズラートっていう魔物の国でアンタはそこの王様、そんでもってオレは……未だに半信半疑なんだが千年ぶりに降臨した邪神……この認識で合ってるよな?」
こんな状況でも冷静でいられるなんてオレも、もういい歳したオッサンだな。
転生がー異世界がーとかで一々過剰に反応出来なくなっている証拠だ。
「概ねその認識でよろしいと思いますよ。付け加えるとしますと邪神の降臨は我等魔族にとって悲願とも言える出来事で大変喜ばしい事なのです」
オレの降臨が喜ばしい事、か。
古今東西あらゆる神仏が信仰される理由は大きく分けて二つある。
一つが善神による恩恵の享受、そしてもう一つが悪神による祟りの回避だが、サリエルや他の魔物達の反応を見るにオレは前者に位置する神、彼等に何か利益を与える存在なのだろうか。
「オレの存在に喜ぶ理由はなんだ?具体的に教えてくれ」
「邪神は我等魔なる者にとっての柱。その役割は二つ、大いなる加護と進化の奇跡を与えます」
「加護と進化か……要は邪神ってのは魔族のバフ役って事か」
「実際、今の私にはヒロムート様の降臨以前よりも力が増した感覚がハッキリとあります。これだけの力があれば魔族が千年もの長い年月、辛酸を舐めさせられ続けた人間どもに対してようやっと反撃と復讐が叶うのです」
人間への復讐、なるほどね。
こいつらが力を求める理由は理解できた。
その話が本当ならオレは彼等にとって文字通りの救いの神って訳だな。
まぁそんな事オレにとってはどうでもいい話なのだがな。
「悪いがオレはあんたらの復讐とやらに協力するつもりはないぞ。そんな義理は無いし、そもそもめんどくさい事に巻き込まれたくない」
「それについては心配無用です。ヒロムート様は
サリエルは至極当然の事の様にオレに向かってそう言い放った。
「あ?なんだそりゃ」
「そもそも下界の者がヒロムート様の行いに対してとやかく言ったり、あまつさえ指示を出す等恐れ多い事。貴方様は運命に導かれるままご自分の意思で好きに振る舞ってよいのです」
「ほう、それは良い事を聞いた」
マジ?本当に好き放題していいの?
だったらオレには一つ異世界でどうしてもやってみたい事があった。
「それではヒロムート様、他にご質問は?」
「……サキュバスに会いたい」
「はい?」
「サキュバスだよサキュバス!サキュバスに会ってみたい」
オレは健全な異世界転生ものも大好きだが……それ以上にサキュバスの登場するエロゲが大好きなんだよ!!!
ここがコイツの言った通り王様から魔王を倒せみたいな指図される事もなく、好きな事をしていいスーパーラッキーな異世界であるのなら、まずはヤる事ヤろうぜ!
男と生まれたからには誰もが憧れるサキュバスとにゃんにゃんする夢を叶えるべきだろ!
オレの突飛な回答に対してもサリエルは笑顔一つない真剣な表情のままであった。
「……いきなりあの場所へと向かう意思が御有りとは流石はヒロムート様」
「流石?は、はぁ」
だんだんこいつがオレの事を褒めているのが本心か皮肉か分からなくなってきたぞ。
「サキュバスの集落ルクスリアはここから南方にずっと進んだ場所にあります。しかしヒロムート様一人でかの地に向かわれるのは流石に色々とまずいので、こちらで案内兼護衛の者をお付けさせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
その提案はこの世界の事を何も知らないオレにとっては願ったり叶ったりものだな。
「案内か、それはありがたい。拒否する理由は無いぞ」
「提案の快諾に感謝を。それでは、ルクスリアへの行幸の日程は近日中に追って伝えさせて頂きますのでしばしお待ちを…………さて、野暮な話はこれ位で仕舞いとしましょう。今宵は邪神の降臨、祝福の酒宴で御座います。さぁ先ずは一献」
半ば強引に話を打ち切ったサリエルはテーブルの上にあるワインの注がれたグラスを持ち、星降る空へと掲げた。
あぁ、今日はこいつら魔族が千年っていう途方もない時間まで焦がれた祝いの日だったよな。
他にも聞きたい事は色々とあるがそれは野暮だな。
ここはサリエルの気持ちも汲み取ってやるべきか。
「ったく、しょうがねぇな…………一献、承った」
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