第2話 邪神の降臨した日
取り敢えずこういう時はアレだ、頬をギュッとつねってみる。
「いててっ」
クソッ……これやって痛みを感じなかった人いんのかよ。
そもそも夢の中で体を自由に動かせた経験なんて殆ど無いんだけど……。
それでもだ、こんな所が現実なんてオレはまだ信じないぞ。
幸いあまりに現実離れし過ぎたこの状況のせいで逆にオレは冷静なままでいられている。
この状況を脱するには、まずはここから逃げる事それが最優先事項だろう。
正面にはフロアを埋め尽くす大勢の異形、ここを突破するのは恐らく不可能。
側面にはいくつかの出入り口が見えるが、何も分からない場所だし仮に外に出られたとしてもかなり危険なギャンブルになりそうだ。
やはり第一候補は後方のオレの部屋に逃げ込む事か。
ここなら最悪部屋の窓から飛び降りて助けを求める事も可能だろう。
大きく息を吸い、呼吸を整える。
「大丈夫大丈夫、失敗した所で所詮これは夢だ」
オレは部屋の位置を確認する為そっと後方に目を向けたのだが……肝心の部屋のドアが無くなっている!
後方には壁が反り立つだけで他に出入り口らしきものが見当たらない。
「うそ、だろ」
これでオレが逃げ込めるのは側面の出入口のみとなった。
ここがどこだか皆目見当もつかないこの場所で、一万の異形と追いかけっこだと?
駄目だこの夢、完全に終わってる。
これは間違いなく逃走系の悪夢だ、そう思い全てを諦めかけた時……オレはとある一つの違和感に気が付いた。
ん?だが待てよ、何故正面の異形達は一向に動こうとしないんだ?
オレを視界に捉えじっくりと見つめる異形達は何かの合図を待つようにずっとその場に整列し、待機していた。
もしかして、もしかするとこいつらにはオレを襲う気はないのか?
よ、よしっ、それなら。
「あ、あの~この中で日本語の分かる方はいらっしゃいますでしょうか?」
意を決してオレは異形の集団に問いかけてみた。
すると異形の集団の先頭に立つ長めの銀髪と真紅の力強い瞳の印象的な、スラっとした長身イケメン男子が手を上げた。
年齢は恐らく20代前半だろう、マントや王冠、豪華な衣装に装飾品を身に着けた年齢不相応ないで立ちの所為でイキったホストっぽさを感じる。
「――ニホン語?という神界の言語は存じませぬが、どうやらヴォレア語でも意思疎通が取れそうではありますね」
「ヴォレア語?……あ、ちょっとおい!」
彼はそう言うとゆっくりと歩き出し、オレのいる小高いステージの前に到着するとその場で一礼した。
「お初にお目にかかります邪神ヒロムート様。私はズラート魔帝国55代目大魔王ゲヘナ・ジ・サリエル・ワールドエンドと申します」
「……ゴメン、何を言っているのか一つも分からない」
「なんと!?やはり神界の言語はヴォレア語とは相違のあるものなのですね!……だが会話はキチンと出来ているような気が?」
……あぁ、すげぇ頭痛がしてきたぞ。
「いや、あのね。そうじゃない、そもそもオレの名前はヒロム・カナメでヒロムートなんていう変なあだ名で呼ばれた事ないし、邪神に大魔王?ヴォレア語?まるで意味が分からんわ。そもそもここは一体どこだ?」
めんどくせぇし取り敢えずサリエルとかいうイケメンに疑問点を全てぶつける事にした。
サリエルは少し考える素振りを見せてからオレに向き直った。
「ふむ、やはり神界と
「式典?何の?」
「それは勿論、千年ぶりの邪神の降臨式典に決まっております!ささっ、どうぞこちらで御座います」
邪……神?って多分、オレの事……だよな?
結局疑問は解消される事も無くサリエルの案内でオレは式典会場とやらに連れて行かれるのであった。
――因みにこの日黒々とした厚い雲が世界全体を覆い隠し滝のような灰色の雨と轟雷、各地で隕石が降り注ぐという異常気象が起きていた事を知らされたのはまた別の機会の事である。
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