第22話「計画の内容」
……は?
「なーに、悪者みたいなことを言うね? まさか、おじさんがこの事件の犯人だっていうの?」
「そうだよ?」
瑠歌ちゃんが横から言った言葉に、エクリプスさんはうなずいた。……えっ?
「ルーナニウムを含んだ月の光が届く地球でも、セレーネ人は活動できる。ただ直接ルーナニウムの入った空気があるわけではないから、長時間活動し続けることはできない。
だからユエは、セレーネ・アークを使って一時的にルーナニウムの光を一気に弱めて、地球にいるセレーネ人を弱らせて月に戻らせることを思いついたんだろう。
が、犯人が私だとは思いもよらなかったみたいだ。詰めの甘い子だよ、本当に。だから驚いている隙にセレーネ・クロックも盗られてしまうんだ。セレーネ・アークが使えるのは、セレーネ・クロックを持っている王族だけなのに」
よく見たらユエの首にはセレーネ・クロックがなくて、かわりにエクリプスさんが手に持っていた。
「さっき、操ったと言ったけれど。その力がそこまで完璧でないことは、調べてわかっているんだ。私が国民に命じたのは二つ。私を王と認めることと、私の言うことに逆らわないこと。
しかしこのうち、別の者こそが王にふさわしいと思っていれば、操られない。
……つまり、ユエが次の王にふさわしいと、民や城の者がみんな思っていれば、こんな事態は起きなかった。しかし結果はどうだ? ほとんどの者が操られている。だから私は言ったんだ。誰もユエに王になってほしくなかったんだね、って。
……という、これまでの下りも含めてユエにそう言ったら、そんな調子になってしまったんだ」
ユエを見る。ずっと泣いている。泣きたくて泣いているんじゃなくて、勝手に涙が流れ出ているみたいな泣き方。
「お前が! お前がユエ様の王子の仕事を全部奪って、横取りし続けて、民からの印象を“そう”させてきたんだろうが!」
サクヤさんが怒鳴る。でもエクリプスさん、にっこり笑ったんだ。ぞっと、歯がかちかちするような寒気が走った。
「そうか、調べたんだね。知ってたよ、君がただの使用人みたいな顔をして城中を掃除だのなんだのするふりして、私のことを探っていたのは」
「そうだ! 2年前、ユエ様が倒れたときの毒を、本当はお前が入れたことも突き止めたんだぞ!」
ユエが話していた、2年前ごはんに毒を入れられて何日も高熱が出たっていう話。あの犯人もエクリプスさんだったの?!
「あれ、実はわざと弱めの毒を入れたんだ。だって目的はユエに消えてもらうことではなくて、君とユエを引き離すためだったから。読みどおり、ユエは君を疑って、君から離れるようになったね。同じタイミングで急に君も態度が冷たくなったから仕方ないか」
「ユエ様に近づくなって言ったのはお前だろうが!」
「その通り。君は真面目に私の“忠告”を守ってくれたね。何が何でも城に居続けて情報を集めてユエの力になろうとしたんだろうが……。
結果として、ユエはずっと一人ぼっちになっていた。サクヤくんが操られなかったということはユエへの忠誠心は高いみたいだけど、伝わってないなら意味ないな。
従者として、君は今まで一体何をしていたのかな?」
ぐって、無理矢理口を押さえられたみたいにサクヤさんは黙った。苦しそうな、悔しそうな顔で下を向いてしまう。それを見て、エクリプスさんは笑った。
この叔父さん。最初に会ったときは、ユエとそっくりだって思った。笑った顔とか、特に。
でも今は、なんでそっくりって感じてしまったんだろうって不思議で仕方ない。
だってユエは、こんな残酷そうな笑顔を浮かべたりしない!
「ちょっとサックー、何を黙っちゃってるの! ……おじさん、あなたがとんッでもなく悪いやつっていうのはよくわかったよ。でも、じゃなんで地球を襲ってるの? 地球ってそんなにヤバい星?」
「ヤバいさ。だって大きい。月よりももっと。故郷のセレーネ星は、地球くらい大きかったそうだよ。それが今ではこんな狭くて小さな星に暮らしているんだ。私はユエと違って仕事をしていたから、みんながもっと広い星がいいって不満を抱えているのもよく知っている。空に見える地球のようなね。
だから、私達は本当は地球がとても欲しいんだ。セレーネ・アークを地球に移せば、地球でも月と同じように暮らせる。セレーネ人に何も問題はない」
「地球と地球人はどーなるのよ!」
「そりゃあ、今までの暮らしはできなくなるね。まあ心配するな、いい仕事先を紹介してあげるよ」
「そんなのナイでしょ!!」
瑠歌ちゃんは怒ってるってことが完全に前に出ている。
でもエクリプスさんは、にこにこ笑ってのらりくらり。
「そもそも1000年前に月に住んだセレーネ人は、最初地球を欲しがったんだ。王国中に地球と月を繋ぐ道があるのだって、地球を襲って手に入れるために作られた。それが、当時の王家の姫が間違って地球に行ってしまって、そのとき出会った地球人にとても親切にされた。帰ってきた姫が地球を襲うことに猛反対して、地球には二度と手を出さないことが決まったそうだよ。
しかしユエには、この姫のような力はなかったね。私がもし地球を手に入れたら、操らなくても国民全員が私を王と認めるだろうよ。何もしていないユエではなく、ね」
それが理由なんだ。信じたくないけど。自分が王様になって、王国を支配するためだけに、こんな事件を起こしたんだ。
ユエと仲良く話していたお城の人も、町の人も、本当はユエを次の王様にふさわしいとは思っていなかったんだ。
叔父さんのせいで。
ユエから仕事を奪って、まわりからの信頼を奪って、従者を奪って、少しずつ一人にしていったんだ。
ユエは一人じゃないって思ってた。でも、本当は、一人だったんだ。
セレーネ・クロックを探しに行かせたのも、ユエなんかどうでもいいって思っていたからかな。疑いだしたら止まらない。
わからない。家族なのに、なんでこんなことができるの。
くすくすと、エクリプスさんが笑う。
「かわいそうに、ユエ。今どんな気持ちかな? 国民も城の者も自分のことなんか見ていなかったし。従者を疑って捕まるし。味方は一人もいないし。王子として何もできないし。そのせいで地球にまで迷惑がかかっているし。ここまで失敗を続けているユエは、次に何をしてくれるのかな?」
「……ごめんなさい」
ユエが、何かを呟いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……。僕は弱い……弱いです……。ごめんなさい……。僕は王様になってはいけない人でした……。僕は、王様には絶対になれない人だった……。なのに夢見て……ごめんなさい……」
ユエは、両手で顔を覆って。しゃくり上げながら、一人で、涙に濡れた声で呟き続けた。
「やめて下さい、ユエ様! 何を言っているのです!」
「ユッくん、どうしちゃったの!」
「僕が悪いんです……。全部僕のせいです……。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
みんなの声も無視して、ずっと謝っている。
ユエは今、誰に謝っているの?
背中を丸めて、小さくなって、壊れたおもちゃみたいに謝り続けているユエを見ていた、その瞬間。
何かが、ぷつりと切れた。
「顔を上げなさい、ユエ!!! 今すぐに!!!」
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