5章「真実、そして──」
第21話「真犯人」
そうだ、私達捕まっていたんだ!
サクヤさんから出ろって言われて、慌てて外に出る。サクヤさんは、手に鍵を二つ持っていた。
「サクヤさん、その鍵って」
「牢屋の鍵だ。見張りから“もらった”」
見張りの人が簡単に渡すなんてこと……。うん、これはあまり深く考えないほうがいいんだろうね。
「ここにユエ様がいないということは……もう一つのほうか」
「もう一つ?」
「王国は本当に平和だからな。牢屋も全然使われていないし、数も二つしかない。お前達のあとはつけていたから、全員地下牢に入れられていることも突き止めている。ユエ様はもう一つの牢のほうに入れられている。こっちだ」
「ちょっと待って!」
私はサクヤさんを止めた。絶対確かめないといけないことがある。
「あなたは敵なの? 味方なの?」
サクヤさんは、ユエが好きなのか。嫌いなのか。ここではっきりさせないとって思った。
「……俺は、この事件の犯人を知っている」
サクヤさんがぼそって言ったのは、驚きの一言。
「そいつから言われていた。自分のことをユエ様に教えたら、二度と城には入れさせないと。が、こんな大きな事件が起きた。黙っておく理由がなくなった。……俺は敵じゃないが、信じられないならそれでいい」
そう言って歩き出すサクヤさん。言っていることはいまいちわからなかった。でもサクヤさんの目は変わらず鋭いつり目だけど、でも今までの、怖そうな、嫌な感じのする冷たい光はなかった。
私は瑠歌ちゃんに大丈夫だよってうなずき、サクヤさんのあとをついていった。
と、すぐ行き止まりに。そこには鉄格子ではなくて、大きな鉄の扉があった。もう一つの鍵を使って、サクヤさんがドアを開ける。
そこは私達が入れられた牢屋より広かったけれど、ユエの姿はなかった。な、なんで?
と。まっすぐ壁まで歩いていったサクヤさんが、何かに気づいた。
牢屋の壁は石が積み上げられたような見た目の壁なんだけど。床に一番近いところにある壁の石が一つ外れていて、床に置かれていた。崩れたにしては、綺麗なような……。
サクヤさんがかがんで、外れた石の向こうを覗く。
「通路が見えるな」
「通路?! 壁の奥に?」
「恐らくユエ様はここから外に出たんだ。ユエ様は王族だし、城にある抜け道くらい全部知っているだろうな」
じゃあ、ここを通って行けばユエに会えるんだ! ……でも。
「けどその穴、小さすぎじゃない?」
瑠歌ちゃんの言うとおり、穴は私達がどんなに小さくなっても通れなさそう。多分ユエはウサギの姿になって抜けたんだろうけど、どう見ても人間がくぐり抜けるには厳しいサイズ……。
「確かにそうだ。二人とも下がっていろ」
え、って思ったら。突然サクヤさん、軽く助走をつけてから……。勢いよく壁にキック!
瞬間、がらがらって音と一緒に、どんどん崩れていく壁!
「おーっ!! サックー、さすが!」
「……サックーって俺のことか?」
親指を立てる瑠歌ちゃんに、サクヤさん、嫌そうな顔……。
「まあ今はいい。行くぞ」
壁の向こうには、確かに長い通路があった。両端の壁に、ぽつぽつろうそくがあって、それが奥まで続いている。
私達は小走りで、通路を進んだ。とても暗いし、埃っぽい。足音がかんかん響く。
「ねえねえ、サックーって本当に敵じゃない? 今も結構ツンツンしちゃってるけど?」
「……私とユエの前にも定期的に現れて、きついこと言ってたよね」
私、忘れてないよ? するとサクヤさん、ため息を一つ。
「ユエ様の味方になったら城から追い出すし、ユエ様に何をするかしれない、と真犯人から言われていた。真犯人をとっ捕まえるための情報を探り続けるためにも、城から追い出されるわけにはいけなかった。だからああいう態度でいた。本心からじゃない。
時々現れたのは、単純に、護衛だ。いくら平和だからって、王族が護衛をつけずに出歩くなんて、本当なら凄く危険なんだよ。昔からどこに行くにもついて行っていた。ユエ様からもまわりからも心配しすぎだって笑われたけどな……」
あれ護衛だったんだ……。ユエのことを嫌がらせで尾行していたのかとばかり。
にしても、サクヤさんの話が本当なら、サクヤさんは脅されていたことになる。真犯人って、誰なんだろう?
と。通路の向こうに、小さく光が見えた。出口だ!
揃って走るスピードを上げる。光の向こうに抜け出た先は、外の世界が広がって……いたわけではなかった。
見えたのは、部屋に入ってすぐのところで、ぺたんって床に座り込むユエと……強い光。
スポットライトみたいに凄く眩しい光が、ホールみたいな大きくて丸い部屋の中心で輝きを放っている。直視したらすぐ目が痛くなりそうだから何が光っているのかわからないけど、天井まであるくらいの巨大な球体があるみたいだ。
光についてはよくわからないけど、今はユエのほうが先!
「ユエ様!」ってサクヤさんが駆け寄った、そのときだった。
「1000年以上前。セレーネ星を旅立つときにご先祖は、セレーネ星の大地から生み出されるルーナニウムがないと生きられないセレーネ人が長い旅路に耐えられるよう、あるものを作り上げた。それが代々王家に伝わる国の宝、“セレーネ・クロック”と、今こうして光を放っている物体、“セレーネ・アーク”だ」
落ち着いた、ゆったりした男の人の声が聞こえる。この声、どこかで……。
私はそこで、巨大な光の前に、誰かが立っているのに気づいた。
「セレーネ・アークは、ルーナニウムを貯め、いらないものを取り除いてこすように純度を上げ、更に力を強めて外に放出するという、重要な役割を持っているんだ。
……ここで少し話は変わるが、これだけ重要なルーナニウムはわからないことが多い不思議な物質。なんだが、私は一つ、ルーナニウムの持つ力を新しく発見した。ルーナニウムを含んだ月の光はとても穏やかで、見る人の心を静かに癒してくれるだろう? そうならない者もいるだろうが。月を見て興奮してくる人は少ないはずだ」
確かに私も月を見て気持ちが熱くなってくることはない。むしろ静かな気分に浸りたいときに月を見ると、心が穏やかになっていく。
でも、それは置いておいて。こんなことを説明しているこの人は誰なの?
そこで、見えた。この人が青いマントを羽織っていることに。青いマント……。
エクリプスさん?
「つまり、ルーナニウムは多少なりとも、心にも影響がおよぶんだ。本来ルーナニウムの影響を受けない地球人でさえこうなるのだから、ルーナニウムの影響を受けるセレーネ人だとどうなるだろう?」
「ユエ様? ユエ様、どうなさったんです!」
「千弦!」
はっと、私はユエを見た。ユエがサクヤさんに揺さぶられている。でも、ユエは無反応だ。
何かがおかしい。私はユエの顔を覗き込んで……息をのんだ。
ユエが、どこを見ているかわからない目で。壊れて水が止まらなくなった蛇口みたいに、次から次に涙を流していたから。
「エ、エクリプスさん、ユエはどうしちゃったの?」
「特に何もしていないよ? ただ」
こほん、と咳払いを一つ。
「――ちょっとルーナニウムの光を強めただけで、簡単に民を操れたよって言ったんだ」
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