第18話「敵と味方」

 二度目の月の王国。三日月の花が綺麗に咲いている。ここだけ見れば平和な空気……。


 なんて浸っている場合じゃない!


「なんで早乙女さんがいるの!!!」

「ついてきちゃったー♪」


 笑顔でピースサインする早乙女さん。いや、している場合じゃないよね!


 ウサギの集団に襲われて、途中で二手に分かれたって思い込んでいたけど、ずっとついてきていたんだって。理由を聞いたら、


「なんかすごーーーく大変なことが起きてるってわかったからね! あたしもウサちゃんとユッくんの力になるよ!」


 って今度はガッツポーズ。この明るい笑顔からして、多分ノリでついてきたのかもしれない……。


 ユエ、「だめだ! 今すぐ帰るんだ!」と池を指さした。私も何度もうなずく。


「でも地球も危険でしょ? あとユッくん、追われているんでしょ? あまり騒がないほうがいいよ?」


 私とユエは慌てて黙った。確かに近づいてくる足音も聞こえ……足音?


 はって振り返ったときには。真後ろに、顔を兜で隠した背の高い兵士さんがいた。





 まさかこんな早く捕まるなんて……。ユエも考えてなかったみたいで、青白い顔で兵士さんに手を引かれていた。さすがの早乙女さんも呆然として黙っているし、私も何も言えなくなっている。


 やっぱり、ついてきたことが間違いだったのかな? いや、今更考えても遅いことを言ってどうするの。兵士さんは一人だけだし、なんとかユエを助けて逃げ出せないかな……。


 考え始めたときだった。林に差し掛かると、突然、兵士さんが「来い!」って方向を変えて、一気に走り出した!


 ついたのは木の後ろ。立ち止まった兵士さんは、ユエの手を離して。


「なんで戻ってきた、ユエ!」


 と怒鳴った。耳がびりびり。私も早乙女さんも思わず震えてしまう迫力だったけど。ユエはそんな様子を見せないで、兵士さんを見上げている。


「……何のつもりだ、サクヤ」


 え?


 すると、兵士さんが兜を外した。出てきたのは、私が数日前に見たばかりの顔。


「えっ、誰! イケメンじゃん!」

「サクヤさんだよ。ユエの従者。……けど、ちょっと怖いっていうか」


 ぼそぼそ、早乙女さんに小声で説明。


 サクヤさん、とても怒っている顔だ。赤色の目とあわさって、もっと怖く見える。


 けど、怖いって思うと同時に。こんな状況だから、数日前に言われたことも蘇った。「ユエに何ができる?」って言っていた、あれは……。


「はっきり言うぞ。今この王国に、お前の居場所はない! 王国に残っている奴らは全員ユエを捕まえようとしている、ここにはユエの敵しかいない! 地球にいたほうがまだましだ!」

「君が犯人なんじゃないのか?」


 そのとき。私は初めて、ユエの冷たい声を聞いた。


「サクヤが僕をずっと嫌っているのは知っている。民の様子がおかしくなっているのも、地球を襲っているのも、サクヤが何かしたんじゃないのか?!」

「な、何を」

「僕がいなくなって一番嬉しいのはサクヤだろう! 毒を入れた犯人だって疑ったときからずっと、僕を傷つけることばかり言ってきたのに! ……いや、違う。毒を入れた犯人はサクヤ、お前に決まっているんだっ!」


 どん、ってユエはサクヤさんを両腕で突き飛ばそうとした。でも大人と子どもだから、サクヤさんの体はほんの少し揺れただけ。


 今のうちにって思ったみたいで、ユエは私と早乙女さんをつれて走り出す。


 と。サクヤさんが、ばっとユエを目で追った。


「ユエ様!」

「ユエ様~!」


 サクヤさんと同じセリフを同じタイミングで喋って駆け寄ってくる人影が、向こうから近づいてくる。ユエの顔が、花が咲いたみたいに笑顔になった。


「ナミ!」

「ユエ様、ご無事で!」


 にこにこ、優しく元気そうに笑うナミさん。良かった良かったって、本当に嬉しそう。ナミさんはおかしくなってないみたい。サクヤさん、ああ言っていたけどユエにもちゃんと味方がいるじゃない。


「ナミも無事で良かった。教えてくれないかな? 今この国で何が起こっているのか」

「はい、お教えしますよ」

「お待ち下さい、ユエ様!!」


 サクヤさんがまた叫ぶ。そのときだった。


「――ユエト地球人ヲ見ツケマシタ」


 ナミさんの顔から。すうっとマネキン人形みたいに、表情がなくなる。


 直後、あたりの木の後ろから、続々と兵士さんが出てきて、私達はあっという間にかこまれた。

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