3章「セレーネ王国の秘密」

第13話「再会!」

 今日は土曜日。一人で駅前のショッピングストリートまでお買い物に行くんだ。本屋に行ったあと、家の近くに住んでいるおばあちゃんにあげるお菓子を買いに和菓子屋さんに行くの。


 だけど、買うものを考えていたはずなのに、いつの間にか私は、別のことを考えていた。


 ユエ、今どうしているかな。王子様と月に行くっていう驚きの出来事から一週間経ったけど、私はこの一週間、気づいたらユエのことばかり考えていた。


 お仕事やお勉強を頑張っているのかな。リプンと紅茶を食べているのかな。王様は大丈夫かな。あの怖そうな、三つ編みの男の人にいじめられていないかな。元気にしているのかな。


 想像すれば止まらなくて、でもどんなに想像してもユエはここにいない。胸がきゅってうずくまるように痛くなるの。気がついたらユエのことばかり考えている。私、どうしちゃったんだろう?


 ああ、だめだめ。もう会えないんだから、考えてもしょうがないって、何度も言い聞かせているのに。


 頭を左右に振って、バッグを持って靴を履いて、がちゃって玄関のドアを開ける。


「やあチヅル!」


 ……………………。


 「えええええええ?!?!?!?!」


 私は玄関先で物凄い大声を出した。どうしたのってお母さんが走ってくる音が聞こえたから、急いで「なんでもないよーーー!!!」って叫んでドアを閉める。


 そこにいたのは、一人の男の子。白い髪に青い目にウサギの耳……。


 うん、間違いない、ユエだ。いやなんで、なんでユエがここに?!


「ゆっ、ユエ、あなたどうして!!」

「ウサギだったころ、君、家がどこにあるか話していただろう? それを思い出して、住所とか目印とか頼りに来てみたんだ。七日ぶりだね、元気にしていた?」

「じゃなくてっ! なんでユエがここにいるの? 私、ユエともう会えないんじゃなかったの?」

「な、なんでそうなるの?」

「だって地球人はセレーネ王国には行けないって!」

「地球人はセレーネ・クロックがないとセレーネ王国に行けないけど、セレーネ王国の者が地球に行くのはいつでも誰でもできるんだよ。わざわざ行くことがないだけでね」

「えっ」


 言われてみれば、ユエは一度も、これでずっとお別れ、なんて言っていない。

 嘘でしょう……? 二度と会えないって思ってお別れしたつもりだったのに……。


 けど。目の前にいるユエは、七日前と見たときと同じ格好で、にこにこと同じ笑顔を浮かべている。ほっぺたをつねってみる。痛い、夢じゃない。


 私、もう一度ユエと会えたんだ。足下から上に向かって、ぽかぽか体が温かくなってくる。胸がじんわりする。どうしよう。上手く言葉にできないほど、嬉しい。


「ウサギの姿だとまたウサギ小屋に入れられるかもしれないから、今日は人間の姿で来てみたよ」

「あ、それがいいと思う。また捕まったら大変だものね」


 ウサ耳は……カチューシャをつけているって思ってもらえるかな。まさか本物のウサギの耳なんて誰も思わないはず。


「えっと、それでユエ。今日はどうしたの? 地球に来たってことは、何か用事が?」

「地球の文化を見たくなったんだ。未知の文化を知って自分の国に取り入れることを検討するのは、王子として必要な仕事なんじゃないかと思って。

叔父上、最近忙しいみたいだけど、やっぱり仕事は手伝わせてくれないからさ……。せめて自分にできそうなことを、って。一回地球に来てるし、チヅルとも知り合ったし、来ても大丈夫かなって思ったんだ」

「それじゃ、今から町にお買い物に行くんだけど、来てみる? お勉強みたいな感じで地球を学ぶことはできないだろうけど……」

「いや、実際に地球の人たちがどんな暮らしをしているか見て回りたい。連れて行ってくれないかな、チヅル」

「わかった、私でいいなら」


 こうして思いがけず、私とユエは二人でお買い物に行くことが決まった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る