第3話「月のペンダント」

 家に帰ると、お母さんから呼ばれた。何があったんだろう?


「あのね、千弦。お母さん、警察に行ってくるんだけど」


 警察?! なんで?! 何があったのお母さん!


 パニックになる私に、お母さんが「違う違う」って笑った。あれ?


 よくよく話を聞くと、なーんだって肩の力が抜けていくようなことだった。


 3ヶ月くらい前、私は「月見ヶ池」っていう、学校の近くの林にある池のそばで、コンパクトペンダントを拾った。

 交番に届けたけどずっと落とし主が見つからなかったから、ペンダントは私の持ち物になるんだって。お母さんが引き取るかどうか聞いてきて、私はすぐに「うん!」って答えた。


 っていうのもね、そのコンパクトペンダント。とても私の好きなデザインをしていたんだ!


 月見ヶ池で見つけたときも、「わっ、かわいい、綺麗!」って思わず手に取っちゃったくらい、素敵なペンダントだったの。まさか盗むわけにはいかないから、ちゃんと交番に届けたんだけど。ちょっと、欲しかったなあって思ってたから。


 まさか、こんなことが起きるなんて! 友達はできなかったけど、でも今日はとてもいい日だよ!


 次の日学校から帰ってくると、お母さんが引き取ったペンダントを渡してくれた。

 3ヶ月も前に拾ったペンダントのデザインだけど、まだはっきり覚えている。それくらい好きだって思ったペンダントが、ついに目の前にやって来た。


 わあっ! 私は思わず、大きな声を出していた。


 大きさは、両手の親指と人差し指を使って、大きくまるを作ったのと同じくらい。


 蓋は三日月の絵が描かれているんだけど、本当の三日月とは違って、月の欠けている、とがっているところが細長くなっていて、上と下がくっついているんだ。欠けていて月がないところは、黒く塗られている。


 ふたを開けると、上が鏡になっている。鏡のふちの部分が黄色で、きっとこれは満月をイメージしているんだと思う。


 下は黒色の盤面に白色で書かれた数字が時計みたいに並んでいるけど、これは時計じゃない。だって長い針が一本だけだし、数字も、1から12じゃなくて、0から29まであるもの。書かれている数字の大きさはバラバラで、15の数字が一番大きい。


 3ヶ月前に拾ったとき。最初はなんだろうって思ったんだけど、手に持って眺めているうち、月みたいな見た目のペンダントを眺めているうちに閃いたんだ。

 きっとこの数字は、日によって違う29種類の月の形……。「月齢」を表しているんだろうって。


 ペンダントの裏は、まるで新月みたいに、黒みたいな灰色に染まっている。


 やっぱり素敵なペンダント! 今の私の目、すっごくキラキラしてるんじゃないかな!


 恐る恐る手に持って、そーっと首にかける。その瞬間に私の顔は、勝手に笑顔になった。体がぽーって熱くなる。まだ信じられない! 夢みたいだよ!


 ほっぺたをつねって、ちゃんと痛かったから安心する。


 とっても嬉しいな! これは絶対にユエに報告しないとだね! 早く明日にならないかなって、ペンダントの力で、とっても珍しいことを考えた。

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