番外編 音楽の行方 2


 おりん……じゃなくて、真鍮製打楽器を持った四天王トップのゴキゲンな背中を見送った数日後。

 細工室に、またシグライズ様がやって来た。

 前回よりは表情が明るい。


「嬢ちゃん! あの楽器、よかったぞ!」


「お店で演奏したんですか? 盛り上がりました?」


「ああ、なかなか盛り上がった。一つしかなかったもんだから、取り合いになってな。追加で作ってもらえんか?」


「わかりました。地金代だけお城の方にお願いしますー」


 同じものを作ってもいいんだけど、違う音のものも楽しいよね。

 音階が違えば、ちょっと曲っぽくもできるだろうし。


「形が違うものだとどうですか? ゴブレットだと音の高さが変わって賑やかになりそうです」


 銅製ゴブレットを持ってきてスプーンで叩くと、リンリンと小鉢より少し高い音がした。


「おお、これもいいなぁ!」


 ゴブレットを見ていると、何かに似ているような気がして、掴んで逆さにしてみた。

 あ、ハンドベル!

 ハンドベルいいかも!

 あ、でも、仕組み的に、中はバネで動くようにした方がいいよね。その方が簡単に鳴るし。

 バネで鳴る仕組みのものはミュージックベルって名前になるんだっけ。

 ハンドベルは蝶番みたいな形のものに音を鳴らすおもりみたいなのが付いていて、二方向にのみ動くんだよ。鳴らすのが難しいの。

 なので、どう振っても音が鳴るバネ製にする。


 中に入れる塊は木製のボールを作って、真ん中にネジを入れ、バネとはんだ付け。それもゴブレットの奥にはんだで付けた。

 ゴブレットの内側で木のボールがバネで揺れている。

 振るとカーンと音がする。

 中のボールの大きさを変えてもう一個作ると、コーンと少し低い音になった。

 ミとドくらいかなぁ?


 ゴブレットで作ったベル、ゴブレットベルを伏せて置き、持ち手のところに色違いのリボンをくるりと巻いた。どっちがどの音かの識別に使おう。


「シグライズ様、これでちょっと複雑なことができますよ!」



 わたしはゴブレットベルの口を上向きにして、左手にコンの方、右手にカンの方を持った。

 そして左、右と試しに振ると、コン〜カン〜と音が鳴った。


「まずはわたしがやってみますね。さぁ、歌をどうぞ!」


 よし、いくぞーと言って、シグライズ様の低い声が歌を紡いでいく。


さそりおみればコンカンコンカン みぎみやこ~コンカンカン~

「ハイ!」

やばねをみればコンカンコンカン みぎおやま~コンカンカン~

「ハイ!」

あなたにみればコンカンコンカン みぎみやこ~コンカンカン~

「ハハハイ!」

さわたにみればコンカンコンカン みぎおやま~~~~~〜コンカンカンカンカン~~

「住んでサイコーまおうこく〜 フゥ〜カンカン〜〜!」


 すっかりシグライズ様の歌声も慣れて堂々としたものですよ!

 合いの手を入れるのも熱が入るというものです。

 素晴らしい歌声と楽しげな音が魔王城の片隅、細工室に響いた。


「すごいな! 本物の楽器みたいだぞ!」


「本物の楽器ですよー。次はシグライズ様の番です」


「……ワシにできるだろうか……」


 ああ、シグライズ様は魔人の中の魔人。

 きっと不器用な魔人さんの中でも特に魔人らしいのでしょう……。でも!


「大丈夫です! 体で! 心で! 奏でるのです!」


 体で覚えてしまえばいいのですよ! シグライズ様ならできるはずです!

 ゴブレットベルをシグライズ様に渡して、口側を上にして持たせる。


「左、右、左、右、右〜。左、右、左、右、右〜ですよ」


「おう……左、左じゃなくて右、左……」


 音がたどたどしくコンカンと鳴る。


「腕の動きで覚えてしまえばいいと思います」


「そ、そうだな! 交互に、右……じゃない、左、右、左……左、右、左……間違えたっ」


「だ、大丈夫です! ゆっくりでもいいですから」


「右、右……じゃない! 左、右、違うぞ!」


「いえ! 合ってますっ!!」


 しばらくゴブレットベルと格闘したシグライズ様だったけど、光を無くした目で佇んでいる。

 わたし、魔人さんの不器用をなめてたようです。


「えーと……はい、難しいですよね! 二つ使うのは難しいんですよ! いきなり二つはちょっと高度過ぎました! 最初は一つからです。一つなら大丈夫です。二人で担当して持てばいいんですよ!」


 片方をシグライズ様に渡し、もう片方は自分で持つ。


「ワシには向いてないんじゃないだろうか……」


「そんなことありません! さぁ、シグライズ様の美声を響かせてください」


 シグライズ様は言われるがままに歌い出した。と同時に、小鉢の時のように調子に合わせて、ゴブレットを振った。

 それならわたしは合いの手で振ろうかな。


さそりおみればコンコンコンコン みぎみやこ~コンコンコン~

ハイカン!」

やばねをみればコンコンコンコン みぎおやま~コンコンコン~

ハイカン!」

あなたにみればコンコンコンコン みぎみやこ~コンコンコン~

ハハハイカカカン!」

さわたにみればコンコンコンコン みぎおやま~~~~~〜コンコンコンコン~~

「「住んでサイコーまおうこくぅ! フゥ~〜〜〜〜〜コンカンコンカンコンカン〜〜!」」


 最後はハモってフィナーレ!

 素晴らしいアドリブです! シグライズ様!

 歌って鳴らしているうちに段々とノリノリになってきて、締めは最高の盛り上がりとなった。


「いいぞ〜! 叩くのもよかったが、振るのも楽しいぞ。音が合わさると賑やかで盛り上がっている感じが出る! ありがとな、嬢ちゃん!」


 よかった。

 音の楽で音楽だもの。音楽はやっぱり楽しくないとね。


 四天王のトップ様は、今日も満足気にゴブレットベルを二つ抱えて出ていった。

 お役に立ててよかったよ。

 わたしは清々しい気持ちで背中を見送ってから、また細工仕事へ戻ったのだった。








 ### あとがき ###



 Web限定版 音楽の行方 の続きになります。

 こちら、もうちょっと続きます。

 ただ、しばらく忙しいため、2月末あたりになるかな……。最低でも月1で更新したいものです……。



 2巻のお問い合わせをいただくのですが、2巻の刊行を決めるのは、『1巻の売り上げ』と『編集部さまの判断』となります。

 作者からは「出るといいよね〜私も出したいよ〜」🥺という感じです。

(ちなみにもし続巻が決まっても、情報公開のGOサインを編集部さまが出さないと言えないというのも追記しておきます!)


 なのでカドカワBOOKS編集部さまに、ノーミィ2巻待ってるアピールやくすだまがんばれレターなど送ってくださってもいいんですよ?(図々しい)



 まだまだ厳しい寒さが続く時季ですが、みなさまケガ・病気・花粉に気をつけて暮らしてくださいね!



  魔導細工師ノーミィの異世界クラフト生活

 ~前世知識とチートなアイテムで、魔王城をどんどん快適にします!~


 書籍公式ページ

 https://kadokawabooks.jp/product/madousaikushi/322306000588.html





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