第26話 四天王巡回 3


 肝心の闇岩石は少ししか見つからなかったものの、暁石は結構採れたし貴石も何種類か出て成果は上々。


 意気揚々と野営地まで戻ったけど――直面した現実に気分は急降下だった。

 テントは相変わらず寒い。上がった気持ちだけじゃ、温度は変えられないんだよ!

 床に何かの動物の革と毛織物は敷いてあるけれども、暖かいとは言えない。

 シャワーもお風呂もなく。


 食事はまた堅パンと干し肉。今度は葡萄酒も飲んだ。

 寝る時は厚地の毛布を二枚かけるだけ。


 外が白々と明るくなっていく中、くるまっている毛布から手だけ出して昼夜ランタンを取り出した。

 スイッチを闇の方に倒すと、一瞬浮かび上がった魔術紋はすぐに消え、暗闇が空間を満たしていく。


「な……何これ……。今の、ランタンだったよね……?」


「暗闇にするランタンなんですよ。探してもらっている闇岩石で暗くしているんです」


「ああ、これのための石なんだ……。どういう仕組みなんだろう……。すごい技術だね。先代の爺様のさすがドワーフという技をいろいろ見たけど、ノーミィのはなんか全然違うよ」


 まぁ、普通のドワーフの規格からは外れているだろうな。

 わたしとアクアリーヌさんは横になったけれども、寒くて自然と身を寄せ合っていた。


「く……地面が硬くてごつごつする……」


「うう……。兵士さんたちよく耐えられますね……」


「しかも彼ら鎧着たまま寝るらしいよ」


「頑丈過ぎませんか……。しかも寒い……。今って冬期じゃないですよね……」


「冬期は二か月前には終わったよ……。山が寒いんだよ……。こんな寒いなんて話、聞いてない……。彼らより毛布多くもらってきたのに」


「えっ、これより寒い状態で寝てるんですか⁉」


「軍の者たちっておかしいよね。ボクさ、人魚の血を引いているから寒さに強いって思われがちなんだけど、全然そんなことなくて。寒さ暖かさはほどほどが一番だよ」


「アクアリーヌさんは人魚の血筋なんですか?」


「パパが人魚なんだ」


 なんと、ハーフマーメイド!


「わたし、ハーフドワーフなんです。父がドワーフで」


「そうなんだ? ドワーフらしくないなと思っていたんだ――――ってごめん。そう言われたらいやだよね」


「みんなと違うのを気にしてましたけど……母に似てるのはいやじゃないです」


「そっか。そうだよね。ボクも一人だけ違うし変だって言われたけどさ、パパと同じ髪色は自慢だったよ」


 アクアリーヌさんの艶やかで美しいアイスブルーの髪。それは自慢に思うだろうね。


 わたしはどうだろう。

 ドワーフ国ではずっと帽子をかぶっていた。父ちゃんに言われていたせいもあるけど、いやだと思っていたのかな。


 前世を思い出すまでの村での出来事は、薄く霞がかかったような記憶だ。でも、いやだと思っていたのは除け者にされることで、髪の色ではなかったと思う。

 そして魔王国に来てからは髪色を気にしたことはなかった。


「わたしもこれから……自慢だと思えるようになるんですかね……」


「きっとね。だって、そのキラキラする髪、綺麗だよ」


 ひんやりとしたテントの中。

 背中合わせにした背中がほんのり暖かかった。


「――――ノーミィ。この不思議な闇のランタン、落ち着くね。ボクにも作ってくれる? お金上乗せするからさ……」


 ああ、そうか。ランタンもなかったら、このつらい状況でさらに明るい中で寝ないとならないのか。兵士のみなさんは大変だ……。


「上乗せ分はなくていいですよ……」


「じゃ……今度一杯ごちそうさせて……」


 返事をしたのかできなかったのか覚えているのはそこまでで、いつの間にか寝てしまったらしい。


 目が覚めてランタンの闇を消すと、テントの外はうっすらと黄色がかっていた。夕方みたいだ。

 同じくらいに目を覚ましたらしいアクアリーヌさんが、となりでぼーっとしていた。


「……いい夕ですね、アクアリーヌさん」


「……いい夕だね。ノーミィ」


 起きたわたしたちは互いに何を言うでもなく、高速で身支度を済ませた。

 そして、シグライズ様に十分掘れたので帰りますと告げた。


 用事が済んだのでという体で言ったというのに、シグライズ様は苦笑し、ラトゥさんは「ずるいっす!」と抗議した。


 ええ、ずるくて結構です。深窓のハーフドワーフとハーフマーメイドに、これ以上の野営は無理なのです。本当にすみません。







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