第25話 四天王巡回 2


 ――待てよ。そういえば、ネイティブアメリカンのテントって三角の上に木の棒が見えてなかったっけ。


「これ、上で交差するように棒を立てるんじゃないですか」


「あ、そうかも。ノーミィ、賢いね」


 それじゃ、それぞれ立てて上でクロスするように――って二人だけじゃどうにもならないよ! あと六本残ってるし!


「全部まとめて立てて、下側を少しずつ広げてみようよ」


「はい。結構重た――――倒れる‼ ひゃぁぁぁあ‼」


「うわぁぁぁあ‼」


 派手に倒れた。野営地に響き渡ったね。わたしたちの悲鳴が。

 おかげでシグライズ様たちが飛んできて、あっという間にテントを建ててくれた。


「次は夜食の準備だね」


「あの、わたし食事は作れますけど、外では作ったことないです……」


「大丈夫、ボクは家でも作らない」


 麗しい笑顔をいただきましたが、不安しかありません!

 そこに箱を抱えたラトゥさんが来た。


「夜食っすよ~。干し肉っす。牛と鹿と猪があるっすよ」


「もしかして、それが夜食ですか……?」


「堅パンとワインもあるっす」


「たき火を使って食事を作ったりとかは……」


「食べられるものを作れるやつがいないっす。それに火の片付けが大変だからたき火もやらないっすね」


 郷に入っては郷に従えだ。

 カバンの中の柔らかパンが脳裏をよぎったけれども、わたしも干し肉と堅パンをいただくことにした。


 アクアリーヌさんと二人、テントの中で配給されたものを口にする。

 硬い。冷たい。美味い。堅い。寒い――――……。

 そりゃぁラトゥさんも野営になんて行きたくないって言うわけだよ……。


「うう……。アクアリーヌさん……。テントって結構寒いんですね……」


「たしかに寒いかも……。天井開いてるし。ああ、だからワインで温まるってことか」


「だめです、これから掘りに行くのに飲めません」


「じゃ、仕事後の朝食に飲もう。今は体動かそうか」


 テントの中で干し肉をかじりながら、立ったり座ったりぐるぐる回ったり。ドワーフと魔人のアヤシイ儀式が始まった。

 食べたのかなんなのかわからなくなるような悲しい儀式を終えて、わたしたちはテントから出た。

 大きい天幕の中を覗くと、こちらは妙に盛り上がっている。


「――四天王巡回で配られる干し肉はやっぱり違いますなぁ」


「こんなに種類があって豪華でございますよねぇ! この猪の美味いこと!」


「四天王様が毎日来たらいいのになぁ」


 はしゃぐ兵士のみなさん。

 わたし、泣きそうです……。あれで喜べるって普段は一体、何を……。


 そこに交ざっているシグライズ様、笑顔だけれども目の前には葡萄酒しか置いてないし。

 ラトゥさんに至っては、虚ろな笑みを浮かべたまま干し肉をかじっている。それ闇落ちした人の目だよ……。


 いろいろとひどい有様だった。

 わたしは見なかったことにして声をかけた。


「……シグライズ様、掘りに行ってもいいですか?」


「ああ、いいぞ。道の向こう側なら魔獣もいないだろうが、野営地の明かりが届く場所でな。何かあったら叫ぶんだぞ」


 この辺りはあちこちにランタンが下がっているから明るい。けれども少し離れると真っ暗だ。ランタンを腰の左右に吊るし、明かりを確保。

 アクアリーヌさんも同じ格好をして、出発した。


「アクアリーヌさんはシグライズ様たちと待っててもいいですよ?」


「あそこに交ざるのはちょっと遠慮したいかな……。ボクも掘ってみたいんだよね。石を扱う者として、どんな感じなのか興味がある」


「仕事熱心ですね」


「いや、ごめん。本当は掘り方を教えてもらって、一攫千金狙ってた」


「正直ですね!」


 でもわかります。大地には金銀財宝ゴロゴロですから!

 荷馬車で通ってきた山道を横切ると、なだらかな斜面になった。


「ノーム様、いつもありがとうございます。大地の恵みを少しだけわけてください」


 首を垂れて意識を研ぎ澄ます。

 なんとなく惹かれる方へ向かっていき岩肌につるはしを突き刺すと、リーンと体の奥で音が聞こえる。

 これが、何かが採れる合図だ。


「良いものが眠っている気配がしますよ! フフフフフ……さぁ何が出てくるかな」


「さすがドワーフ。頼もしい。ボクもがんばるよ」


 アクアリーヌさんは魔法で筋力上昇を使ったらしい。そしてふたりでツルハシを振り下ろした。そこからはただただ夢中で掘りまくった。


 眉間に力を入れて凝視すると、掘り出したばかりの塊でも何の石かわかるんだよね。これが鑑定眼。


 原石にそれぞれの名前が浮かび上がって見える。魔力が濃い場所のせいか、魔銀、魔石、土魔石が多い。ものによっては二、三種類の名前がある塊もあった。


 試しに魔石のかけらを、余分な部分をやすりで落としてから魔力を込めて磨いてみると。

 放たれた光は強く、魔力量が多いことがわかる。

 うん、上々。質のいい魔石になりそうだ。


「――ノーミィ、すごいね……。あっという間に最高品質だ……!」


「なかなかいい魔石ですよね! この辺りの魔力が濃いせいですかね」


「え? いや、磨く前は悪くないって程度だった……って、まぁいいか」


 アクアリーヌさんも品質の良さに納得したようで笑っている。

 植物泥炭もたくさん採れる! 他にも暁石、月光石、天覧石、天河石……アマゾナイトだよ! 青や青緑が綺麗な石。ターコイズより明るく優しい雰囲気で、装飾品にもいい。


 町からちょっと出ただけでこんなにいろいろ掘れるなんて、魔王国の資源はなかなか豊富。

 わたしたちは喜び勇んでわっさわっさ掘りまくった。


「いいねいいね! ザックザクじゃないか! こんな町の近くでも出るものなんだね」


「なかなかいい感じです! 高価な貴石も出ちゃうかもしれませんよ」


 とりあえず掘り出したものはわたしが預かって、ある程度削って磨いてから分け合うことになった。

 わたしたちは欲望のまま、さらにツルハシを振ったのだった。







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