第24話 四天王巡回 1


 四天王巡回。

 シグライズ様を先頭に四天王の方々とその部下たちがぞろりぞろりと練り歩く――わけではなく、実際はもっと地味なものだった。


 毎月四天王のうちの誰かが魔王国軍の砦や野営地へ行き、報告を聞いて指導をして士気を高めるのだそうだ。


 魔獣や魔物の異常行動や、すぐに戦いを仕掛けてこようとする人の国の動きなども四天王が直に確認することになっていると。


 砦がない駐屯地では毎日野営生活。砦があるところも近くに町がないということだから、辿り着くまで宿もなく野営。野営を快適にできるものは大歓迎なのだそうだ。


 石の在庫があった分の闇岩石ランタンはもう渡してある。足りない分も早く作らないと。


 石畳の上をガタガタとスレイプニルがひく荷馬車が行く。

 御者台で手綱を持つのはアクアリーヌさん。魔石責任者だからと、なぜかいっしょに四天王巡回に行くことになっていた。


 わたしはそのとなりで揺られている。

 軍馬と荷馬車の隊列は北の山へ向かっているらしい。


 初めてちゃんと目にする王都ドッデスの町は、あちこちにぼんやりと灯る明かりが飾られており、幻想的な景色を見せている。不思議で綺麗。行きかう人々の服はラメのようなものが付いているのか、時々キラリと光って見えた。反射板みたいな役割なのかもしれない。


 馬車が進むと建物が徐々に減り、道の舗装もなくなった。そこからは進んでも進んでも見えるのは夜の森だった。


「馬車の揺れ大丈夫かな? 酔ってない?」


 町を出てからは周りの音も車輪の音も小さくなって、アクアリーヌさんとおしゃべりをした。


「大丈夫です。わたし馬車に強いみたいなので。村から逃げる時に、ずっと馬車の中の荷物に紛れていたんですけど酔わなかったんですよ」


「それにしてもひどい話だね。ノーミィみたいな小さい子を追い出すなんて」


 わたしが村を出た時の話をした時、アクアリーヌさんはすごく怒ってくれた。今も中性的な美しい顔に不快そうな表情を浮かべている。


 この間は気付かなかったけど、耳の形がひらっとしているのが目に入った。魚のヒレのような感じで、アクアリーヌさんの青い髪とよく合っていた。


 魔王国にはいろんな者がいるんだな。そう思って見ていると、美しい顔が人の悪そうな笑みに変わった。


「でもさ、ダサダサ村なんて出てきてよかったと思うよ。魔王国で一番大きいリル商会が取引やめちゃったし、小さいとこも手を引いたみたいだよ。近々やっていけなくて廃村になっちゃうんじゃないかな。魔王国は優秀な細工師を迎えられて、いい形に納まったね」


「……廃村……」


 小さい村は、村全部で一つの工房みたいなものだ。取引ができなくなれば、他の村や町で仕事をするしかないだろうね。


 それでも、村を出てよかったです! とは、なかなか言えないなぁ。除け者にされてつらい思い出が多いけれども、生まれ育った村だもの。わたしが父ちゃん母ちゃんと暮らしていた家もあるし、父ちゃんの墓もあるし。複雑。


 でも、アクアリーヌさんが怒ってくれるのは、うれしかった。


「あ、町の商会で宝石や宝飾品を扱っているんですよね? 暁石や闇岩石がひょっこり交ざっていたりしないでしょうか」


「魔石はもちろんボクが全部見るんだけど、宝飾品や宝石も見てほしいって持ち込まれるんだよ。大きな取引の時は呼ばれたりするし。魔石鑑定眼で宝石の種類や良し悪しもわかるからね。まぁようするに、国内のほとんどの石は魔石責任者のボクの手元を通っていったものってこと」


「なるほど……。あれ? 魔石責任者って一人だけなんですか? その上に最高魔石責任者さんがいらっしゃるのかと思ってました」


「最高の言葉がつくのは、作り手だけなんだよ。魔石でいうなら魔石鑑定だけじゃなく、掘れて削れて磨ける者が最高魔石責任者になれるんだよね。ボクの前の魔石責任者は最高細工責任者の爺様だったよ」


 そう言ったアクアリーヌさんは、にっこりと素敵な笑みを浮かべた。


「ところでノーミィは掘れるし磨けるんだよね? 鑑定はできるのかな?」


 ――無理! 鑑定はできるし掘れて削れて磨けるけど、ドワーフと取引が無理!


 イエスともノーとも言えず、あわあわするわたしを見てアクアリーヌさんはアハハと声を上げて笑った。




 ◇ ◆ ◇




 北山の手前、マコイ山が本日の野営地だ。

 魔力が濃く、強さを増した魔獣がいるから常時軍が野営をして見張っているという話だった。王都からそう離れてないので砦は作っていないとか。さすが軍の人たちはテント暮らしでも大丈夫なんだな。


 野営地は広く拓かれており、遊牧民が使っているゲルのような円柱の天幕がいくつも建てられていた。


 魔王軍の兵士たちが敬礼だの報告だのをしているのを横目に、わたしとアクアリーヌさんは自分たちのテント設営に取りかかった。


「あの、わたしテントなんて建てたことないですけど……」


「大丈夫。ボクもない」


 美しい笑顔をいただきましたが、全然大丈夫じゃないです!

 しかも荷車の中にあったのは長い木の棒が数本と、厚地の布やら革やら。

 何これ。これがどうしたらテントになるの。


「この長い木の棒を立てるらしいよ」


「たてる」


「それで布を載せるって」


「のせる」


 棒の上で布を回す大道芸のようなものしか思いつきません!







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