第23話 魔石を探して 3


 場にいるのはすでによく知った者同士らしく、挨拶もそこそこに取引に入っていた。


 箱の中の魔石を、美形の魔石責任者さんが確認している。道具を使わないってことは魔石鑑定眼持ちってことか。


 魔石鑑定で判別するのは、魔石の属性と品質になる。

 属性はうっすら魔石に付いている色でもわかるので、魔石鑑定眼がなくてもわかる。けど、色がかなり薄いので、見極めに慣れと時間が必要。


 品質の良し悪しを判別するのは、まず魔力量。これは元の鉱石によるから仕方がないんだけど、多少バラつきがある。うちでは無属性で魔力量が少ないものは自宅用にしていた。属性付きの魔石は納品しちゃうけど。


 それと磨きが案外大事。ちゃんと磨いていないと魔力が抜けてきた時に、すぐ欠けちゃうからね。同じ魔力量でも持ちが変わってくる。


 その中で魔力量に関しては、量る道具がある。属性と磨きに関しては目で確認するしかないから、かなり時間がかかるのは間違いない。


 でも魔石鑑定眼を持っていれば一瞥するだけでわかるんだよね。属性の色ははっきり見えるし、魔力量も魔石の光り方の強弱でわかる。磨きも輝きのキレでわかるの。魔石が澄んでいるのはよく磨かれているし、曇っているのは磨きが足りないという感じ。


 こんな便利な魔石鑑定。実は、ドワーフでもできる者は少なかったりする。


「――ああ、質は悪くないね。いつもの金額でいいかな」


「それでいい」


「そういえば探している石があるんだけど、暁石と闇岩石って扱ってない?」


「聞いたことない石だな」


「ワシらは運び専門だから、石のことはわからない。そんで魔石を扱っている工房は魔石専門だ。他の石は扱ってないぞ」


「まぁ、そうだよね。他でも聞いたけど同じこと言っていたよ――はい、今回の預かり証。いつものように金庫室でお金と換えてね」


 魔石責任者は手元の紙にペンを滑らせ、その紙をドワーフに渡した。


「毎回、質が安定していて助かるよ」


「このくらいは普通だ。そういえば、ダサダサ村のやつらが取引を止められたと騒いでいたが、本当か?」


 ――ダサダサ村って! え、取引止められた⁉


「ああ、あの村ね。魔石の取引は止めてないよ。質が落ちたから買い取る金額を下げるって言っただけ」


「なんと……。そんな悪いものを売ろうとしてたのか」


「あそこは元々そんなによくなかったけど、一部のものが最高品質だったからおまけして普通の金額で買い取っていたんだよね。でも、それももうなくなったし、全然価値ないんだ」


 村の者たち、何やってるの!

 あまりのことに呆然としているうちに取引は終わり、ドワーフたちは出ていった。


「ノーミィさん、大丈夫っすか? 取引と取引の間の休憩時間になるっすよ。向こうに行くっす」


「だ、大丈夫です……」


 よろよろと小部屋から取引の間に入ると、振り向いた魔石責任者は驚いて眉を上げた。


「君、顔色悪いけど大丈夫?」


「大丈夫です……。あの、さっきの、ダサダサ村って……」


「ダサダサ村を知っているんだ? もしかしてドワーフなの?」


「そんなような感じというか――この間までダサダサ村に住んでいたんです。さっき、質がよくないって聞こえたんですけど」


「そうなんだ。最近、魔石の質も細工品もひどい――ん? いつこっちに来たの?」


「ひと月前くらいですけど」


「……なるほど」


 話によるとダサダサ村は魔石の金額を下げられ、細工品を扱っている魔王国最大の商会からは取引停止にされたのだとか。魔人は最大の取引相手なのに、どうするの……。


「で、ノーミィだっけ? まだ名乗ってなかったね。ボクはアクアリーヌ・リル・ライテイ。アクアリーヌって呼んで」


 名前が女性名だから、ボクっ子さんってことか。


「アクアリーヌさんですね。わたしはノーミィ・ラスメード・ドヴェールグです。ノーミィと呼んでください。――あれ? ライテイってシグライズ様にもついていたような……」


「そうそう。門名だよ。ライテイ一門。ノーミィは爺様の門名を継いだんだね」


「魔王様につけてもらいました」


「そっか。爺様も冥界で喜んでいるだろうね。――ああ、石の話だよね。さっきの話も聞いていたと思うけど、魔石を扱っているところでは暁石なんて知らないって者ばっかりでさ。だから、光る石を使っているって噂の獣人の国まで行ってきたんだけど、石じゃなくてなんかの骨だったんだよ。怖いから買ってこなかったんだけど」


「骨……。それはたしかに怖いです……。ドワーフの国の宝石店には売っていたんですよ。ただ使いどころがなくて、あまり採掘されてなかったんですよね。だから数が少なくて」


「なるほど。それなら一応、装飾品を仕入れている商会の方に頼んでみるよ。数が少ないんじゃ入手は難しいかもしれないけど」


「そうですよねぇ。やっぱり自分で掘りに行くしかないかもなぁ……」


 思わずそうつぶやくと、ニコニコと話を聞いていたラトゥさんが人差し指をぴんと立てた。


「オレっちイイコト思いついたっす。それならいっしょに四天王巡回に行けばいいっすよ!」







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