第22話 魔石を探して 2
次の日、ラトゥさんの案内で入ったのは、魔石取引をする取引の間のとなりの部屋だった。
大きなガラス窓からとなりの部屋の明かりが入り、ランタンは必要なさそうだ。
ガラス窓の向こうに、壁に絵画がかけられた立派な内装が見えているが、まだ誰もいなかった。
ここは不正やらがないか見張るための場所なのだそうだ。このガラス窓はマジックミラー的な魔道具で、向こう側は絵画になっているらしい。
「魔石に限らず、他国との取引は武官と文官の誰かが立ち会うっすよ」
「今日はラトゥさんの番なんですか?」
「や、立ち合いは四天王の仕事じゃないっす。オレっち、魔王国軍四天王序列二位っすよ。本当はもっと下の者の仕事っす。今日は、ノーミィさんを案内するのに代わってもらったっすよ」
ラトゥさんはニカッと笑った。
え。ラトゥさんも四天王だったんだ⁉ 驚いて見返した。
頭上でツンツンととがった短髪は赤みを帯びた焦げ茶色で、同じく茶色の瞳が楽しそうに細められている。
最初はミーディス様の部下の文官だと思っていた。けど、遠征に行くのが嫌だ、野営がユウウツという話を聞いて、武官らしいと認識を改めたのが先日。
たしかにちゃんと見れば、シグライズ様に比べると細いけど服の上からでも肩や腕の筋肉がわかるほどで、強そうな感じもする。
っていうか、序列二位って! ナンバー2ってことだよ! シグライズ様の次に偉い人だったよ!
ミーディス様のマッサージ係の武官じゃなかったんですね⁉
「あ、案内をわざわざありがとうございます、ラトゥさ……ま」
「天才の最高細工責任者殿に様とか言われると困るっす。さんでいいっすよ、ノーミィ様」
「や、や、天才じゃないし! わたしもさんでお願いします!」
ラトゥさんの説明によると、魔王国では国が魔石を買い取って、町の魔石販売所に卸しているのだそうだ。
ドワーフ国との魔石取引は十日に一度、0の付く日に行われるのだとか。いくつかの町村と取引をしていて、今日も来た順に取引していくという話だった。
そんな話をしているうちに、厨房で見かける魔人さんが取引の間に入ってきてお茶の準備を始めた。
次に、文官の制服を着た者が三人ほど入ってきた。
うち二人は体もツノも立派な男女の魔人さんだけど、もう一人は――若いご令嬢……? ご令息……? ジャケットに七分丈パンツのとにかくお人形のように綺麗な者だった。長いアイスブルーの髪にキャスケット型の制帽をかぶっている。ほっそりとしてツノも羽もなく、魔人っぽくない。
「あれが魔石責任者っすよ」
ラトゥさんはそう言うと、部屋の壁の端にあった扉の取っ手を引いて向こう側に顔を出した。
「――おつかれっす」
「あれ、ラトゥが今日の見張り番? 珍しいね」
答えたのはアイスブルーの美形さんだ。声までも軽やかなアルトで中性的。
「当番に代わってもらったっす」
手招かれたのでラトゥさんの横から顔を出すと、美形さんは目を見開いた。
「あ、あの、はじめまして……」
「――ラトゥ、だめじゃないか。妖精の子をさらってくるなんて」
「妖精の子じゃないっす。新しい最高細工責任者のノーミィさんっす」
「うん? ドワーフって聞いていたような気がするんだけど、ノームだったんだ?」
「わたし、ノームじゃないです。あの、石を探しに行ってくれていたと聞いたんですけど……」
「そうなんだよ、ミーディス様からいきなり必要な石があるって言われてさ。獣人の国まで行ってきたんだ」
「ええ⁉ 獣人の国って遠くないんですか⁉」
「まぁ、ちょっと遠いけどね。普段も国内魔石店の様子を見にあちこち行っているから、たいしたことないんだよ」
小首をかしげる姿も麗しいですが、なんかお手数おかけして申し訳ないです!
トントンとノックの音がして、話は中断した。
わたしとラトゥさんが小部屋の中へ身を隠すと、ガラス窓の向こうの部屋には先導の武官と箱を担いだ二人のドワーフが入ってきた。
久しぶりに見る祖国の者の姿にドキリとする。
千両箱のような箱を次々とテーブルに置き、ふたを開けている。魔石は重いので、小さい箱に詰めるのだ。それに浅い箱の方が魔石鑑定もやりやすい。
顔を上げた二人は知らない顔だった。村の者ではない。わたしはいつの間にか止めていた息を吐き出した。
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