幕間 1
幕間
第18話 暗闇に向かうドワーフの村
――壊れた夢炉を前にノーミィがナッツのやけ食いをしていたころ。
ドワーフ国ダサダサ村では、怒鳴り声が響いていた。
「入り口がまだ見つからないだか!」
「オイラたちの住む家はまだだか⁉」
村長とその息子ドワーフが足をだんだんと踏み鳴らした。
「んなこと言っても村長、見つからんものは見つからんだよ」
「そうだそうだ」
「あとは自分たちで探せばいいだ。わしらだって仕事があるだからな」
暇を見つけては探してくれていた村の者たちも、とうとう呆れて帰っていってしまった。
ノーミィの父の一族が代々住んでいた家は入り口が見つからず、土の壁があるのみ。今やどこに家があったのかもわからない状況だった。
最後の住民だったノーミィの姿もない。
追い出すと聞いて、家に立てこもっているのだろうと村長は思っていた。
入り口の場所をわからなくするなど、どういうことか。
あのドワーフではないおかしな生き物が、ただただ腹立たしい。
あれの母親もおかしい生き物だった。
大きさはドワーフとそう変わらなかったが、ひょろひょろとして色が違った。薄気味の悪い色をしていた。魔術師だとか魔法使いだとか噂されていたが、なんとも得体の知れない者よ。いなくなってよかった。
他の村にはドワーフではない者も住んでいるが、この村は由緒正しきドワーフだけが住む村であるべきなのだ。
「――見つからんものはしょうがないだ。諦めるだよ」
「くれるって言ったださ!」
「あとはおまえが自分で探すだな!」
息子にそう言い捨て、その場を後にした。
家に戻ると魔石運びの仕事の者が待っていた。
魔石は掘って磨いた物を自分が買い取って、まとめて外の国に売っているのだ。
二束三文で買い取りそこそこの値で売っていたので、何もしなくても儲けが出るいい商売だった。
「なんだ? 何かあっただか?」
「それが、魔石の買い取り値が下げられただよ」
「な……! どういうことだか⁉」
「知らん。状態が悪いからこれまでの値じゃ買えないと言われただ。掘って磨いていたやつらが手を抜いているってことだか?」
「くそ…………!」
村の者たちを家探しにこき使ったからだろうか。
そういえば、あの薄気味悪い娘も魔石は納めていた。しかも量は多かった。だがそんな値を下げるほどの影響はないだろう。
しばらくは輸出する魔石の状態に目を光らせる必要がある。
悪い状態の物は持ってきた者に文句を言ってやり直させないとならない。
余計な仕事が増え、村長はイライラと貧乏ゆすりをした。
そこへ、今度は細工品運びの仕事の者が焦った様子でやってきた。
細工品も自分が買い取り、まとめて外の国に売っていた。
特にランタンを重点的に輸出している。どんなに作りが悪くても、魔王国なら高値で買ってくれるからだ。
「村長! 魔王国のやつらが、うちの村のランタンはもう買わないと言っているだよ!」
「なんだと――――⁉」
魔石に続き細工品の輸出にまで問題が起こった。
魔石よりも単価が高い分、金額も大きい。これが輸出できないとなると大変なことになる。
「品質の低い物を高値で売るような村とは、取り引きしないとよ! 他の細工品も買わんって言ってるだ! どうするだよ⁉」
どうせ同じ金額で売れるなら、質がどうであれ量産するのが得に決まっている。
そう思っていたのに、まさかのしっぺ返しだった。
一体、何が起きているというのか。
そこにどこからか話を聞きつけたらしい村人たちが詰めかけてきた。
「どういうことださ、村長!」
「金が入ってこないってことだか⁉」
「だからちゃんと作らなだめだって言ったださ!」
「おめーに言われて作った分は、払ってもらわな困るだぞ!」
「そうだそうだ‼」
こっちが外の世界に売ってやってるから金になってるというのに! 恩知らずどもが!
村長は心の中で毒づいた。
なんでこう上手くいかないことが重なるのか。
せっかくなんの種族かわからない厄介者がいなくなって、これからよくなるはずだと思っていた矢先に――――。
村長も村の者たちもわかっていなかった。
一度なくした信用は、すぐには取り戻せないということを。
終わりの始まりは、たった一人を失ったことだったことも。
ドワーフ国ダサダサ村は、廃村への一途をたどり始めた。
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