第12話 魔導細工師の本領発揮 1


 本日、ワシの日。お給金日!

 シグライズ様には仕事中に受け取りに行くように言われている。仕事終わりの鐘が鳴った後は金庫室が閉まってしまうんだそうだ。


 金貨二枚、うれしいな~。帰りに何食べようかな~。

 執務室と扉で繋がったとなりの部屋が金庫室だった。

 わたしは仕事開始早々に行き、並んでいた魔人さんたちのうしろについた。


 手渡し窓が開いたガラスの向こうは、忙しそうな魔人さんたちと、腕組み姿で監督しているミーディス様が見えている。

 魔人のみなさんに交ざって待っていると、そのうち順番がまわってきた。


「ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグです……」


 いつの間にか覚えてしまっていた名前を口にすると、革袋が渡された。


「最高細工責任者ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグ殿ですね。――こちらになります」


 革袋はしっかりとした質量で手に載った。

 え、これ金貨二枚の重みじゃない。もしかして銀貨交ざってる?

 こそっと袋を開けると、まばゆい金色と銀色と銅色が。


 え、なんでこんなに⁉

 肩掛けカバンに入れると部屋を出て、となりの執務室に飛び込んだ。


「魔王様! お給金がなんか多いんですけど!」


 相変わらず書類の山に埋もれている魔王様が、顔を上げた。


「……少ないではなく、多いという文句は初めてだぞ」


「小さい生き物はおもしろいっすね!」


 魔王様のうしろには、先日ミーディス様の肩を揉んでいた魔人さんがいた。本日は魔王様の補佐――いや監視っぽい。やっぱりミーディス様の部下なのか。


「ラトゥ、ミーディスに聞いてやってくれぬか」


「はいっす!」


 魔人さんはとなりの部屋に繋がる扉から出ていき、入れ替わりでミーディス様が入ってきた。


「ノーミィ、どうしましたか」


「あ、フルネームじゃなくなってます? もしかして仲良くなったからでしょうか?」


「あれはあなたが自分の名前を覚えるまでの措置ですよ」


 ……覚えられるかなと思ってたのバレてたんですね……。


「ミーディス、小さき者が給金の額が間違っているのではないかと言いに来たのだ」


「ま、魔王様! 間違っていると言っているわけじゃなくてですね、あってるのかな~? と思って確認というか……」


 大変人聞きが悪い。

 そんな会計の者の仕事を疑うようなこと言ってないですよ?


「そうですか」


 ミーディス様は冷静にうなずくと、モノクルを指で押し上げ天井の方を見た。


「一階北西担当、ここに」


『クワァー』


 あ‼ カラス‼

 バサッとどこかから現れたカラスが、ミーディス様が持ち上げている腕にとまった。


「ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグの成果について吐きなさい」


『グワァァァ~』


 潰されたカエルみたいな声を出して、カラスはくちばしから黒いモヤをもやもやと吐き出した。

 ミーディス様はそれを空いている方の手でつまむと握り潰した。


「――ふむ、棚の整理が一部屋分。ランタンの整備一個につき一銀貨、これが十八で一金八銀貨。不良ランタンの解体作業一個につき八銅貨、これが八十七で六金九銀六銅貨。最高細工責任者手当で二金貨。合計十金七銀六銅貨となっていますよ」


 なんと!

 金貨二枚というのは役職手当だった!

 それプラス作業代をいただけるみたい。大金! わたしも高給取りになってしまった!

 っていうかカラスすごい。ちゃんと作業の内容わかってる。すごい賢いよ。


「――ふむ。棚の整理の分が金額に乗せられていないようですね」


「いえいえいえいえ‼ ちちちちち違います! あってます! 金額あってました! ――お忙しいところお邪魔しました‼」


 わたしは慌てて執務室を出た。

 多いって言っているのに、さらに増えるところだった!


 金庫を火車猫にかじられてるのに、こんなにお給金出して大丈夫なのかな。魔王城、ホワイト過ぎませんか。

 でも、しっかりと評価してもらったのでやる気は出た。ちゃんと報告してくれたカラスに感謝だ。






 その後は解体作業をしまくって、溶かしまくった。

 備品室3の質の低いランタンを全部解体したし、使えそうな分の整備も終わっている。次は修理だな。


 後回しにしてきたネジ穴が潰れてだめになっているランタンをやってしまおう。ガラスが割れているものよりは早く直せるし。

 十字の溝がドライバーで削られて、穴になってしまっている。でも、そんなに深くは削れていないから外せそうだ。


 潰れているところに、いつもより硬いドライバーを入れ、溝を深くするように奥へ押し込んだ。さらに魔力で固定して、押し込むようにしながらドライバーを回すと、ネジが回った。


 よかった。溝がつるつるになっていると、この方法で外せない時もあるから。父ちゃんに習った最初のころに、わたしがやらかしたんだけどね。


 ネジを外して下蓋を開け、魔石を外し、化粧板と基板の魔石クズの掃除をした。魔力がなくなった光魔石を使用済み魔石入れへ入れようとして、ふと思った。


「――わたしが作ったものなら、もっと安く使えるよね……」


 ランタン、もしかして修理じゃなく新しく作り直してもいいんじゃない――?

 ドワーフの村ではわたしの作るものは馬鹿にされていたし、普通のランタンしか買い取ってもらえなかったから外に出したことはなかった。

 でも節約が必要な魔王城では役に立つんじゃないかな。 


 作業中に基板を魔術基板に取り換えると効率がよさそうなので、後で魔王様とミーディス様に確認を取っておこう。

 好きにしていいとは言われてるけど、ホウ報告レン連絡ソウ相談挨拶確認は大事だもんね。





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