第9話 細工師の仕事 3
夜食の後、没頭していたランタン掃除の途中にふと気付いた。
そういえば、資材室や細工室を好きに使っていいと言われた。
ということは、低品質のランタンは溶かして新しいのを作ってもいいのでは……⁉
ここは国で一番偉い方がおわす城、魔王城。
国で一番質のよいランタンが似合う場所。
思い立ったので、先ほどミーディス様から受け取った鍵で入れる部屋を全部見てくることにした。
今作業しているこの部屋は備品室3と扉のプレートに書かれていた。棚という棚全てがランタンに埋め尽くされた、ランタンの墓場。
そのとなりの部屋が備品室2だった。中はみっちりとランタンの墓場。
そのとなりが備品室1。半分がランタンの墓場で、残りは額縁とかドアノブとか細かいパーツなどだ。
危ない。わたしがいなかったら備品室4という名のランタンの墓場が増えるところだったってことだよ。
備品室1に脚立と台車が置いてあったので、借りていくことにする。
資材室へ行くと、木材、石材、鉄板などが大量に置いてあった。
あれ、ここに
そして最後の細工室の鍵を開け、部屋のランタンを点けた。
「わぁ……!」
広い部屋には
入り口近くのライティングデスクの他に、奥に作業机がありバーナーが設置されている。
その一角に錠前がかけられた鉄格子の収納庫があり、地金が整理されて置いてあった。しかもかなりの量があるようだ。
ランタンは全て
そのせいか真鍮のバーはやはり多く、その他に金、銀、銅、そして
これだけあれば、ランタン作り放題だ‼
執務室にすっとんでいき、扉を勢いよく開けた。
「魔王様! ミーディス様! 地金使っていいですか⁉」
朝よりも書類の山が増えた机に埋もれる魔王様と、となりの机で部下らしき者に肩をマッサージさせながら優雅に書類を見ていたミーディス様がこちらを見た。
「――ええ。最高細工責任者が細工室の物を使っていけないことなどありませんよ。そうそう、収納庫の鍵も渡しておきましょう」
言質とりました! 地金使い放題です!
そして収納庫の鍵を手渡されたけど、複雑な気持ちで受け取った。
「ミーディス様……あの収納庫は元々あったものですか?」
「いいえ? 前任のドマイス殿がいたころはそのへんに置かれていたようですね。あの部屋の管理はドマイス殿が一人でされていましたので。亡くなってから、掃除の者が入るにあたって妙な気を起こさないように、収納庫にしまいました」
「ああ、なるほど……。ええと、あの錠前はピンがあれば開いてしまうんです……。ピンがなくても部屋には鉄でも切れるのこぎりもありましたし……なんならバーナーで収納庫の格子も溶かせちゃうんです……」
ミーディス様は目を点にしたのち、眉間を指で押さえた。
「……ラトゥ、今、何か聞こえましたか?」
「収納庫から盗める方法なんてなんにも聞こえてないっす‼」
あ。ここで言っちゃだめだったのかも。
「――魔王様、手が止まってます」
「す、すまぬ」
「――ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグ、これからはあの部屋はあなたが管理するから大丈夫ですよね?」
「は、はい! わたしがお掃除するので他の人は入らなくて大丈夫です!」
「よろしくお願いしますね。最高細工責任者殿」
かしこまりました! と答えて、急いで備品室へ向かう。
新たに仕分けと次の作業の見直しが必要。
できるハーフドワーフは知っている。段取り八分、仕事二分。作業前の準備をしっかりしておくと仕事が終わるのは早いのだ。
途中、通路に出しておいた脚立を持って、わたしは備品室3へ戻った。
また新たに仕分けルールを決めることとする。
まずは、質の良いランタンと質の悪いランタンを分ける。
質の悪いランタンはばらして素材にするので、片っ端から台車に載せる。
載せきれなかった分は棚の一番下の段へ。
質の良いランタンは直して使うので、ネジ穴がだめなものと、ガラスが割れたものと、どちらでもないものとで分けて置いておく。
棚の上の方も脚立で上って下ろして仕分けて。
二つめの棚の仕分けの途中で、仕事終わりの鐘の音が響いた。
それからちょっと後に、シグライズ様が顔を出した。
「嬢ちゃん、そろそろ帰る時間だぞぅ。飯食いに行くぞぅ」
「はい。すぐに終わらせます」
キリのいいところで切り上げて、シグライズ様と食堂へ向かう。
こんなに早く帰れるなんて、前世やドワーフ村ではありえなかったよ。なんて健全でいい職場なんだろう。
「さて何食うか。嬢ちゃんは何食いたいんだ?」
「ツルツルっと――いえ……今朝は帰って家のことをしようかと思っています。まだ荷物を片付けていないので」
「そうかそうか。そうだよな、そういうこともしないとならんよなぁ。んじゃ、おっちゃんが帰って食えるものをなんか買ってやるからな」
親切四天王様! このご恩はお給金が入ったら必ずや……!
廊下は相変わらず暗いけれども、仕事終わりの人たちが行きかい活気がある。食堂の中もにぎわっていた。
ドワーフ村には、こんな楽しそうな場所はなかった。気難しいドワーフたちは大酒飲みであるけれども、みんなで楽しく飲んだりはしないのだ。
魔人のみなさんは怖そうなのに本当は優しくて、それがこの楽しそうな場を作っているんだろうな。
わたしも並ぶ大皿料理にうきうきするし、楽しそうな雰囲気にうれしくなる。まだ少ししか住んでいないけど魔王国の方が好きだ。
たしかにそういう意味でも、わたしは正しくドワーフではなかったんだなと思った。
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