第8話 細工師の仕事 2
「♪魔石はねぇ~ノーム様のぉ~落とし物ぉ~♪」
「――――小さき者よ」
「♪だ~け~ど~ノーム様は~……」
「小さき者!」
「ヒェッ!」
思わず持っていたブラシを落としそうになった。
作業していた手元から視線を上げると、魔王様が立っていた。
「ごごごごごごめんなさい‼ 気付きませんでした‼」
慌てて立ち上がった。
礼とか敬礼とかいるのだろうか……。魔人のマナーなんて知らないよ……。
「いや、構わぬ。なかなか戻ってこぬから様子を見に来たのだ。もう作業をしているのか」
「は、はい! すぐに直りそうだったので……」
「そうか。やれるかどうか見てもらうだけだと聞いていたが……」
「あ、そうだったかも⁉ ごめんなさい‼」
「なぜ謝る」
「ごめんなさい……。勝手に触ってしまいました……」
魔王様はかがんで、視線を合わせた。
「まっとうに働いた者を怒りはせぬ」
「はい……」
「それに食事をとらねばな」
「あ、あの、まだ、仕事が」
「食わねば大きくなれぬぞ」
もうこれ以上大きくならないです!
心配してくれている魔王様に言おうとしたところで、ミーディス様も現れた。
「――魔王様、最高細工責任者殿の様子はどうですか?」
「もう作業を始めてくれていたようだな。今、夜食をとるように言っていたところだ」
「ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグ。あなたはしっかり食べて大きくならないといけませんよ」
「も、もう、大きくなりません……」
ミーディス様まで子ども扱いする。
小さいのは元々で種族の特性で、これ以上食べても年をとっても大きくはならないのです!
わたしの抗議を聞いているのかいないのか、ミーディス様は作業していたあたりや棚を眺めてモノクルを押し上げた。
「作業を始めていたということですが、これはどういった状態ですか」
仕分けを説明すると、二人とも驚いた顔をした。
「では、直せるのですね⁉」
「は、はい。材料さえあれば、全部直せます」
「我が国に光が差し込みました!」
「なんと――我が国の最高細工責任者は天才なのではないか!」
前任の最高細工責任者でも直せたと思います……。
というか、いればこんな惨状にはなっていなかっただろう。
「ええ、ええ! 魔王様! これでランタン代は浮きますし、夜食にもう一品出せますでしょう!」
「ミーディス、ま、まさかデザートなどという暴挙は……」
「焼き菓子にしましょうか、それとも果物?」
それ聞き捨てなりません‼
「焼き菓子? 果物? わたしがランタン直したら、夜食に付くんですか⁉」
今までになく話に食いついたわたしに、ミーディス様は優しげな笑顔を向けた。
「ええ。ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグ。あなたの働きによってはさらにもう一品増やすこともできるでしょう。――例えば、葡萄酒を一杯付けることも」
「葡萄酒‼ えっ、仕事中に飲んじゃうんですか⁉」
「おや、ドワーフの国では飲まないのですか?」
「……飲みますね」
思い返せば村のおっちゃんたちは飲んでいた。働く時はきっちり働くけど、休憩時は一杯やってた。
いやいや、でもでも!
前世の常識がわたしの中で声を上げる。
仕事中に飲んではだめだろう、手元だって狂うだろうと。
「ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグ、よく考えてごらんなさい。一杯なんて、飲んだうちに入りませんよ?」
「それもそうですね!」
前世の常識は死んだ。
酒はドワーフの命の水。ようするに水だ。酔うわけがない。
ということは、手元足元安心安全ということだ!
「わたし葡萄酒のためにがんばります‼」
「よく言いました! ――さあ、これを持ちなさい」
ミーディス様に持たされたのは、鍵束だった。
「備品室1、備品室2、備品室3、資材室とここの向かいにある細工室の鍵です。どこも好きに使って構いませんからね?」
「はい! ありがとうございます! ミーディス様!」
「さあ、魔王様。ランタンの心配もなくなりましたし、仕事に戻りましょう」
「あ、ああ」
夜食を食べに行くようにと言い残し、笑顔のミーディス様と魔王様はランタンの墓場から出ていった。
魔王様はなんか言いたそうな微妙な顔をしていたけどなんだったのだろう。
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