プレイリスト
驚いた。
君と別れてからもう5年が経とうとしている、
ある日のこと。
「
僕の音楽アプリの画面上に現れた。
僕と彼女で共有していた音楽の再生リストは
今日まで身を潜めてどこかに隠れていたのだ。
AIの持つネットワーク包囲網のおせっかい甚だしく、
僕らが別れてしまった後でも尚、彼女と僕の繋がりを
影で監視しながら、
「あなたへのおすすめ」のタイミングを測っていたとしか思えない。
僕と望の最後の日、
彼女が「元気でね」と端末の向こう側で呟いたあの後
スマートフォンの中の写真やラインのやり取りや、
二人で大事にしていた音楽のプレイリストも含めて、
僕の側に望がいた痕迹を
データごと全て消去したつもりだったのに・・・。
ガタンゴトンと揺れる地下鉄の中で、
恐る恐る「望のプレイリスト」を開いた。
出会った日に聴いた曲、
彼女に泣いてほしいと思って入れた曲
彼女にかっこいいと言わせたい曲
付き合った日に聴いた曲
ドライブの時に聴いた曲
クリスマスの日に聴いた曲
彼女のカラオケの十八番
その全てに僕と彼女の過ごした日々の風景が浮かぶ。
明日という向こう岸へ渡るのに必死だったあの頃が鮮明に蘇る。
気が付くと電車の中でだいぶ時間が過ぎていた。
あと2駅ほどで電車が到着する頃、驚いた。
プレイリストの底から身に覚えのない曲が流れ出した。
「アンパンマンのマーチ」
「おやすみなさい」
「犬のお巡りさん」
僕との時間が止まってしまった後で、
望が加えた曲たちだった。
一体彼女は今、どこで誰とこの曲を聴いているのであろうか。
AI様よ、それをなぜ今僕に伝えようとする?
※
さて、皆様
ついに劇場の幕が上がったことにお気づきでおられますか。
人知を超え、そのうちシンギュラリティーを迎える程に新しき時代に突入しそうだ!
と、恐れられているネットワーク上のAI様は
そのかぎりを尽くしながら君に、いつも何かを訴えている!
「あなたがスマートフォンから消した写真や、メッセージのやり取りは、
人類にとって、かけがえのない繋がりそのものだったのだよ!
思い出さぬか、小僧!」
とでも言いたいのか・・・。
僕たちがネットワークし続ける
美しい風景や、そこに写っている笑顔、大切な誰かに宛てたラインや恋文。
空から見守る神の如く、それを端末から暴力的に引っこ抜いて
全て読み解き、表情や文章を解析し、
人類の繋がりを眺めている存在が確実にいる。
感傷に浸っている場合ではない。
音符や文章で情景を描き、紡ぎ、明日への渡し船になり、
人類の営みの美しさや夢を語るのは
元来、俺たち人類の業なのに。
※
奇遇。
ちょうど似合わない革靴で足が痛くなってきたところだった。
僕は君に物語を書くことに決めた。
嗚呼、ついに決めてしまった。
もうどこへも君を逃さない。
薄暗いホームでスマートフォンのランプが淡く光り
端末がニヤリと笑った。そんな気がした。
※この話は長編を描く為に作ったプロットのワンシーンです。
いつかこれをファンタジー作品として発表したいと思っています。
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