第51話 新宿ダンジョン⑤

 ワラワラと寄ってくるのは、人喰いのモンスター・グールの軍団。


 妖刀バイスの力を試すため、俺はある程度敵集団を引きつけたところで、ブンッ! と刀を振った。


 その時、合わせて「ダンジョンクリエイト」のスキルも発動するよう、念を込める。


 すると、刀の振りに連動して、地下鉄の天井がグニャリと変化したかと思うと、ザンッ! と鋭く伸びて、グール軍団をまとめて斬り裂いた。


「おおお、すげええ!」


 正直、刀の使い方なんて学んだことが無い。せいぜい学校の授業で剣道を軽く教わったくらいだ。それでも、「ダンジョンクリエイト」との合わせ技で、難なく敵を倒すことが出来る。


 まさに、無双の気分。


「よし! 行くぞ!」


 俺は一気に駆け出した。


 妖刀バイスを駆使して、モンスター達を薙ぎ倒し、障害物をどかし、どんどん道を切り開いていく。


 気が付けば、「西新宿」の駅に辿り着いていた。


 ホームに上がった俺は、階段を駆け上がっていく。途中、崩落している箇所もあったけど、それは「ダンジョンクリエイト」で瓦礫を変形させて、難なく通過した。


 地上に出ると、嘘みたいに爽やかな青空が広がっている。


 大ボスのダンジョンなのだから、もっと禍々しい雰囲気であってもいいのに、ここまで爽やかだと、なんだか拍子抜けしてしまう。


 だけど、油断は禁物だ。


 ビルの陰から、サイクロプスが現れた。


 さらに、背後からも、左右からも、一つ目巨人が姿を現す。


(上等だ。全部まとめてぶっ潰してやるよ!)


 俺は間合いをはかりながら、さて、どのサイクロプスを先に倒そうかと選ぶ。


 そこへ――今、一番会いたくない敵が、空中を飛んでやって来た。


「よくぞここまで来たのう。じゃが、もう終わりじゃ」


 イワナガヒメ。稲妻爺さんの自爆に巻き込まれたからか、衣はボロボロになっており、あちこち肌が剥き出しになっている。だいぶセクシーな格好だ。だけど、彼女は気にすることなく、空中で偉そうにふんぞり返っている。


 俺は警戒する。


 あいつは俺のことを完全に舐めている。そこに、つけいる隙はある。だけど、不安な要素が二つ。


 一つは、一撃で首をねじ切る、あの技だ。稲妻爺さんを相手にした時は、指で軽くトンと額を叩いた。その動作だけで首をねじ切った。だけど、カルマ業や、ハーキュレスの隊員を殺した時は、姿も見せずにその技を発動させた。


 そう、不安要素のもう一つ。それは、時たまに姿を見せない攻撃を仕掛けてくる、ということである。遠距離攻撃の類だろうか? いや、違う。そんなものではない。もっと凶悪な、何かを感じる。


「『ダンジョンクリエイト』!」


 俺は妖刀バイスを振り上げた。それとともに、俺の前に巨大な壁がせり上がる。これで、イワナガヒメと俺との間に、一個障害物を挟む形となった。さあ、ここからどんな攻撃を仕掛けてくる?


 ゴキョン!


 壁のど真ん中が異様な形にねじれ、大穴が空いた。


 その大穴を、悠然と、イワナガヒメはくぐり抜けてくる。


「この程度の壁で、わらわを止められるとでも?」


 フッと微笑むと、イワナガヒメは両手を前に上げて、ピン! ピン! と指で何かを弾き飛ばしてきた。


 俺は再び壁を築き上げた。


 その壁もまた、ねじれ、破壊される。


 直感的に、イワナガヒメの攻撃の正体を理解した。彼女はまず、触れたものをねじ切る技を持っている。さらに、その力を何かに乗せることも可能なのだ。例えば、石ころとか、そういうものでも。イワナガヒメの「ねじ切る力」を宿した石を飛ばせば、その石に当たった物体は、同じようにねじ切られる。


 これで、相手の攻撃の正体は一つわかった。


 問題はもう一つのほう。姿を見せずに攻撃を仕掛けてくる、そのからくりだ。


(そういや、瞬間移動もあったな)


 それを考えた瞬間、俺はある仮説に行き着いた。


 マンガやドラマで見たことがある。もしかして、これは、「あの能力」じゃないのか?


 だとしたら――ボケッと突っ立っているのは、ヤバい!


 俺は向きを変えて走り出した。都庁からは離れてしまうけど、今はイワナガヒメの対処が先である。


 立ちはだかったサイクロプスを一刀両断し、さらに俺は走ってゆく。


「どこへ逃げようというのじゃ?」


 来た。瞬間移動。


 もう俺のすぐ後ろまで迫ってきている。


 だけど、俺の読みが正しいなら、これは瞬間移動なんていうものじゃない。


《キリク氏、イワナガヒメについてわかる情報を送ってくれ、いますぐ!》


 走りながら、俺はキリク氏にダイレクトメッセージを送った。


《キリク:とりあえず、まとめて送るぞ!》


《さんきゅ!》


 届いたデータは、Wikipediaからコピーしたものだろう。この敵に追われている状況では、未整理で、長くて、読みづらいことこの上ない。


 だけど、その中に、俺は見逃せない一文が入っているのを目にした。


「『永遠』……!」


 イワナガヒメは不老長寿の女神として信奉されているそうだ。老いない、ということは、時を操ることが出来る、とも解釈できる。


 つまり、イワナガヒメの能力の正体は――


 俺は走るのをやめて、妖刀バイスを構えながら、振り返った。


「わかったぞ! お前の能力! 『時を止める』、それがお前の力だ!」


 どうやら、俺の読みは正解だったようだ。


 イワナガヒメは何も言わず、ただ黙って、冷たい笑みを浮かべている。


 で? その能力がわかったところで、どうする? 時を止められると知ったから、俺に何が出来る?


 まずい。これはチェックメイトかもしれない。


――――――――――――――――――――――――――――

【お知らせ】

 前回50話で、カンナがキリクと配信チャット上で会話していましたが、

 ゲンノウが観察している中でそんな会話を交わすはずがないので、

 ダイレクトメッセージに修正しました。

 こんなお知らせを載せてすみません。引き続きお楽しみください!

 よろしければ☆評価やブックマークをしていただけると、

 ラストスパート、気合がますます入るので、嬉しいです!

 よろしくお願いいたします!  11/12(日) 9:42

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