第50話 新宿ダンジョン④
そこから先は、とにかく一直線だった。
地下鉄の線路上を駆けながら、時には障害物を「ダンジョンクリエイト」でどかして、道を切り開いていく。
幸い、モンスターと遭遇することは稀だった。
現れても、ゴブリンのような、俺でもなんとか倒せる相手だった。
「せやあ!」
日本刀でゴブリンを斬り裂いた後、俺は急にこの刀のことが気になり、銘を確認してみた。
「梅洲」と書いてある。
《キリク氏、この刀について、わかるか?》
俺は、スマホのカメラで、刀の銘のところを写して、キリク氏にダイレクトメッセージを送った。物知りかつ調査能力の高いキリク氏なら、何かわかるだろう。
思いのほか、早く返事は返ってきた。
《キリク:妖刀だ。伝説の。読み方は「バイス」。刀鍛冶の名前だな。それを手にする人間に無惨な死を与える代わりに、生きている間は無類の強さを発揮する、っていう呪われた刀だよ》
「マジか……!」
無惨な死、は嫌すぎる。TAKUさんの最期を思い出してしまう。
だけど、背に腹はかえられない。呪われた刀だろうと何であろうと、これから先の戦いには欠かせない武器だ。
上等じゃないか、妖刀バイス。使いこなしてやるよ。
《キリク:ひとつ気になってることがあるんだ》
《なんだ?》
《キリク:サイクロプスと戦った時に、そのバイスを振ったら、「ダンジョンクリエイト」が発動しただろ。あれについて考察していたんだ》
《何かわかった?》
《キリク:ダンジョン物理学、って知ってるか?》
《聞いたことはあるけど、詳しくない》
《キリク:理論物理学者の星野博士が提唱している、新しい学問だよ。ダンジョン物理学では、通常の三次元空間を超える特殊なエネルギー波動と空間の歪みがダンジョンの生成と変化に関わっていると仮定してる。星野博士によると、この特殊なエネルギー波動は「ダンジョン波動」と呼ばれ、量子レベルでの空間の重なり合いや歪みがダンジョンの形成に必要な条件を作り出している、らしい》
《いや、わからない。もっと簡潔に説明してくれよ》
《キリク:いいから聞けって。とりあえず調べたことを書くぞ。ダンジョンを作り出したとされる存在、いわゆるダンジョンマスターは、この「ダンジョン波動」を直接操作する能力を持っているのではないか、と星野博士は仮説を立てたんだ。博士によれば、ダンジョンマスターの体内で特異な量子振動が発生し、これが周囲の空間に影響を及ぼし、ダンジョンとしての空間を生み出すとされている。また、奴らの意思や感情がダンジョンの内部構造や特性に直接影響を与えるとも考えられている。「ダンジョン波動」は、正常な物理法則とは異なる挙動を示し、このエネルギーを操ることができれば、現実世界では不可能とされる空間の作成や変形が可能となる。この理論はまだ完全には証明されていないけど、ダンジョンの存在とその異常な特性を説明するための有力な仮説として注目されているんだ》
《つまり?》
《キリク:ダンジョン内は特殊なエネルギーで生まれたから、誕生した後も、その内部にはエネルギーが充満しているってことだよ。構造を保つためにね。そのエネルギーに干渉できれば、自在にダンジョンを作り変えることが出来る。それがお前の「ダンジョンクリエイト」の正体だ》
《妖刀バイスが「ダンジョンクリエイト」と同じ力を発揮したのは、どういう理屈なんだ?》
《キリク:ここからは俺の仮説。妖刀バイスは、特殊な構造と素材を持ち、ダンジョン内に満ちるエネルギーを吸収し、蓄える能力があるんじゃないか? バイスは、「ダンジョン波動」に共鳴しやすい特別な合金で作られているのかもしれない。だから、ダンジョンのエネルギーを吸収し、一時的に刀自体に蓄積することができるのかもしれない》
《要するに、バイスには、ダンジョンを変化させるためのエネルギーが溜まりやすい、と? そういうことなのか?》
《キリク:あくまで仮説だよ。だけど、これなら、サイクロプスと戦った時に「ダンジョンクリエイト」が自然と発動した理屈の説明がつく》
《確かに……》
そこで思い出す。
だいぶ前のことになるけど、竜神橋ダンジョンに挑戦した時のことだ。
あの時、TAKUさんはタックン軍団を率いて、わざわざヒヒロタイトを採取しに来ていた。
よくよく考えれば、妙だ。ナーシャの御刀重工が必要とするのはわかるけど、なぜTAKUさんはヒヒロタイトを手に入れようとしていたのだろう。
売りさばくため、とも考えられるけど、どうも、目的はそれじゃない気がする。
ひょっとして、この妖刀バイスは、ヒヒロタイトから取れる金属ヒヒイロカネで作られているんじゃないか?
そして、そのヒヒイロカネは、ダンジョン内に充満しているエネルギーを吸収する性質を持っている……と。
ありえない話じゃなさそうだ。
「TAKUさん……」
俺は妖刀バイスを見つめながら、しんみりとした。形見となったこの刀は、図らずも、俺にとっては最高に相性のいい武器となった。
この刀はダンジョン波動を吸収し、解き放つことが出来る。であれば、俺自身のエネルギーを消耗する必要も無くなる。
ここから先は、暴れたい放題、っていうことだ。
《よし! やる気湧いてきた! キリク氏、ありがとうな!》
《キリク:べ、別に、お礼言われるほどのことじゃねーよ。ただ、お前が無事に学校へ来てくれれば、それでいいんだ》
《学校?》
《キリク:な、なんでもない! それより、来たぞ、新手のモンスター!》
「よーし! さっそく試すぜ、バイスの力!」
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