第35話 青木ヶ原樹海ダンジョン⑦
俺はなんで、あの時、TAKUさんに心を許してしまったんだろう。
なんで、「ダンジョンクリエイト」のことを無防備に話してしまったんだろう。
「君は後悔しているね。僕に自分の能力を話してしまったことを」
TAKUさんはゆっくりと歩み寄りながら、日本刀の切っ先を俺に向かって突きつけてくる。
「だけど、それもまた仕方のないことさ。君は僕のことを信用していたんだから。信用せざるを得なかった」
「……どういうことすか」
「それが、僕のスキルだよ」
ニヤリとTAKUさんは笑う。
「『
刀の先端が、すぐ近くまで迫ってきている。
なのに、俺は動けずにいる。
安心感すら抱いている。
「ほら、この状況。あとちょっとで刺されるというのに、君はまったく逃げようともしない。これが、『
「もしかして、あの石のくじ引きも」
「察しがいいね。あれもスキルを使ったんだよ。僕はわざと、最後に自分が一人になる石を取れるように、君達にナンバー入りの石を渡していった。あの時、君達は自分の意思でくじを選択したんじゃない。僕に誘導されていたんだ。だけど、警戒心がゼロになっていたから、まったく気にしていなかった」
「だけど、TAKUさん、俺は本当に何もやってないんだ。ダンジョンを改造できる力はあるけど、一からダンジョンを生み出したことはない。そんなことを試そうとしたこともない」
「そうだなぁ……君の言葉が仮に本当だとしても……それでも、僕は、君のことを殺す」
「どうして!」
「危険だからだよ。ひょっとしたら、後天的に、噂の『ダンジョンマスター』になるかもしれない。いつ、君が君でなくなるか、わかったものではない。将来的に人類に害をなす恐れがある以上は、生かしておくわけにはいかない」
とうとう、切っ先が、俺の胸に触れた。チクリと、痛みが走る。
「さて、無駄話はここまでだ。死んでもらうよ」
ダメだ、殺される。
それなのに、体はすっかり弛緩して、リラックスしてしまっている。理屈ではまずい状況だとわかっているのに、感情はTAKUさんのことを信頼しきってしまっている。
こんなところで死ぬわけにはいかないのに。
俺が死んだら、妹のノコが独りぼっちになってしまうのに。
「さようなら、カンナ君」
容赦なくTAKUさんは刀を振り上げた。
その時だった。
激しい銃声が連続して鳴り響き、銃弾が、TAKUさんの足元の土をえぐり取った。
「君は――!」
TAKUさんが睨んだ先を振り返ると、洞穴の入り口に、ナーシャがガトリングガンを構えて立っている。
「何か不穏なものは感じていたけど、まさか、あなたがこんな凶行に走るとは思っていなかったわ」
「なぜだ? どうして、君は、僕のスキルが通じていない?」
「カンナ、教えて。あいつのスキルは何なの」
俺は、ナーシャに、TAKUさんのスキル「
「ふうん。だからか」
「平気なのか、ナーシャ」
「あのねえ、私が来ているこのパワードスーツ、御刀重工の技術の粋を尽くして作られたものよ。その効果は、身体能力の増加だけじゃないわ、有害な電波などの除去も自動で行うの。TAKUが使うスキルは、精神に作用するものだけど――私には通じない」
TAKUさんは愕然としている。まさかのチートな装備を身に纏っているナーシャに、驚いている様子だ。
「だとしたら、くじ引きの時、君はなぜ、黙っていたんだ! 僕が、わざと君とゲンノウを組ませて、カンナから引き離したのを、わかっていたんじゃないのか⁉」
「妙だな、とは思っていたの。でも、あの場で指摘しても、あれこれ言い訳するつもりだったんでしょ。だったら、ボロを出すまで、放っておこうと考えたわけ」
すごい。なんて冷静なんだ。俺だったら、ナーシャと同じような行動は取れない。気が付いた時点で、TAKUさんに素直に「このくじ引き変じゃないですか」と言ってしまうだろう。そして、第二、第三と相手が用意しているだろうバックアッププランにまた絡め取られてしまうのだ。
「TAKUさん。洞穴の中で、他のDライバー達が俺のことを殺そうとしてきた。あの人達に、俺の情報を流したのは、TAKUさんなんだね」
「ああ、そうだよ。君を確実に殺すため、僕と同じように、ダンジョン・シンドロームで苦しむ家族を抱えているDライバー達に、密かに連絡していたんだ。そして、この青木ヶ原樹海で、君を抹殺する計画を立てた。全ては完璧だった。完璧なはずだったんだ。それなのに……!」
憎々しげに、ナーシャを睨むTAKUさん。だけど、接近戦しか出来ない日本刀に対して、ナーシャはガトリングガンを持っている。
圧倒的に、TAKUさんのほうが不利だった。
「動かないで。動いたら、撃つわ」
「ふ……くくく」
それでも、TAKUさんは笑い、
「だったら、やってみろよ!」
ナーシャに向かって、突撃した。
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