第34話 青木ヶ原樹海ダンジョン⑥
「さて、君達は、なぜこんな暴挙に出たのかな。カメラが一部始終を収めているというのに。殺人罪で捕まってもいいのかい」
ゲンノウに問われて、真っ先にレアーが怒気を露わにした。
「アタイらにはぁ! 弟がいるんだよ! ダンジョン・シンドロームにかかっている、可哀相な弟がなぁ!」
「それと、カンナ君と、何の関係があるんだね」
「そいつは! ダンジョンを生成できる力を持っている!」
憎しみのこもった眼差しで睨みつけながら、レアーは俺のことを指さしてきた。
「だから、ぶっ殺してやりたいんだよ!」
「俺はダンジョンを作ったりしてない! 本当だよ! 信じてくれ!」
「うるせえ! 誰が信じるか! そんなスキルを持っていて!」
「せいぜいダンジョンの構造を作り変えたくらいだ!」
「じゃあ、聞くけどよ、そのスキルはどこで手に入れた! どの神から授かったんだよ!」
「それは……」
咄嗟に、適当な神社の名前でも言おうかと思ったけど、上手く考えがまとまらなかった。
「ある日……ダンジョン禍に巻きこまれて……気が付いたら、手に入れていたんだ」
「ハッ! そら見ろ! まともに答えられねえじゃねーか! 本当は、ダンジョンを作っているダンジョンマスターなんだろ! お前がダンジョンを生み出していったんだろ! そのせいで、アタイの弟は、アタイらの弟は……!」
困った。どうすれば、俺がダンジョンマスターなんかではないと信じてもらえるんだ。
「俺も、妹がダンジョン・シンドロームにかかっているんだ! 妹を巻き添えにしてまで、そんなことするか⁉」
「嘘だね! 生き延びたいからって、そんなわかりやすい嘘をつくんじゃねーよ!」
「本当だって!」
ダメだ、まったく話が通じない。
もしもTAKUさんがいてくれたら、病院で会っているから、俺に妹がいて、本当にダンジョン・シンドロームに罹患していることを証明してくれるだろう。早くこの場に来てくれないか、と祈る。
だが、願いは届かなかった。
TAKUさんがやって来ることはなく、代わりに、洞穴の奥から、新手の敵集団が姿を現した。
ゾロゾロと、十数名はいるだろうか。みんな、Dライバーだ。一癖も二癖もありそうな、見るからに強そうな連中。
多勢に無勢だ。
しかも、全員、俺のことを憎らしそうに見ている。きっと、母神三姉妹と同じように、身内がダンジョン・シンドロームに巻きこまれた奴らなのだろう。
「やれやれ。面倒事に巻きこまれたなあ」
そうぼやきながら、ゲンノウは前に進み出た。
そして、俺のほうを振り返り、ウィンクを飛ばしてくる。
「君達は逃げたまえ。私が食い止める」
「ちょ⁉ いくらなんでも、あの数を相手にするのは無理っすよ!」
「その目で何を見たんだい? 私は強いよ。さあ、逃げなさい」
グイッ、とリコさんが、俺の腕を引っ張った。強い眼差しで、無言で(逃げよう)と訴えかけてくる。
「ゲンノウさん……! 死なないでくれよ!」
「任せたまえ。君こそ、油断せずに、ナーシャ君やTAKU君と一刻も早く合流するんだ」
俺とリコさんは、駆け足でその場を離れた。
来た道を引き返していく。構造自体はシンプルなので、分かれ道も迷うことなく、なんとか洞穴の入り口まで戻ることが出来た。
出てすぐのところに、TAKUさんが立っている。
「TAKUさん、大変です! 急に、他のDライバー達が、カンナさんを殺そうと襲ってきて……!」
リコさんは、いち早く外に出て、TAKUさんのそばへと駆け寄った。
TAKUさんは眉をひそめて、首を傾げる。
「なんだ? どうしたんだい? なぜ他のDライバーが、カンナ君のことを……」
「それが、その……」
正直に理由を言うべきかどうか、迷っている様子で、リコさんは俺とTAKUさんのことを見比べている。
俺は、リコさんに、その人なら大丈夫、と伝えようとした。
TAKUさんは、ナーシャ以外に、唯一俺が「ダンジョンクリエイト」持ちであることを知っているから――
そこで、俺は、歩みを止めた。
どうして襲撃してきたDライバー達は、俺が「ダンジョンクリエイト」持ちであることを知っていたんだ?
なぜ、その情報が漏れていたんだ?
「カンナさん?」
怪訝そうに、リコさんが俺のことを見てくる。
すぐには感情が邪魔をして、その結論に至ることができない。だって、もしも俺の考えが正しいのだとしたら、俺が「ダンジョンクリエイト」持ちであることを他の連中にバラしたのは、二人しかありえないのだから。
ナーシャか、そうでなければ……
「リコさん、こっちに戻ってきて」
「え?」
「早く!」
俺が怒鳴るのと同時に――
TAKUさんの目が、妖しく光った。
ザンッ!
肉が斬り裂かれる音。
ほとばしる血しぶき。
背中を、TAKUさんの日本刀で斬られたリコさんは、目を丸くして、ふらついている。
「あ……? え……? なんで……?」
TAKUさんのほうを振り向こうとしたリコさんだったが、続けて、その腹を刀でドスッ! と突き刺された。
「……君達の配信は見ていたよ。リコ君、君の能力は危険だからね、悪いけど、殺すしかないな」
刀をリコさんの腹から抜いたTAKUさんは、ドンッと彼女の体を蹴り飛ばした。
致命傷を負ってか、リコさんは力なく倒れ伏す。
「なん……で……」
俺はかろうじて、かすれ声を絞り出すことしか出来なかった。
「洞穴の中で、他の連中が言っていただろ? それが答えだよ」
ギシィィィと軋み音が聞こえそうなほど、邪悪な笑みを浮かべて、TAKUさんは俺のことを歪んだ眼差しで見つめてきた。
「君は『ダンジョンクリエイト』持ちだ。そんな奴を、生かしておくわけにはいかないだろ。つまりは、そういうことさ」
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