第15話 ダンジョン探索庁ダンジョン探索局第一課長・轟チハヤ
新宿ダンジョンは魔界と言われている。
その一番の理由が、出現するモンスターの種類だ。
基本的には、ダンジョンが存在する国や地域にちなんだ妖怪や魔物が現れるのだけど、この新宿は、色んな国のモンスターがごちゃ混ぜになって現れる。
今、外で暴れているのは、ミノタウロスだ。牛頭人身、信じられないほどマッチョ。斧を振り回して、エアコンの室外機やら、お店の立て看板やらを破壊しまくっている。
「カンナ、行くわよ」
念のためにと持参していたガトリングガンを抱え、ナーシャは席を立った。地味なジャージの下には、いつものレオタード型パワードスーツを着ているらしい。
「俺、パス」
「なんでよ! 見て、一般人が襲われているわ!」
「こんなところで俺のスキルを使ったら、目立つだろ」
「大丈夫。私が派手にガトリングガンを撃つ。その後ろで、隠れてスキルを発動してくれればいいから」
「うーん、そんなに上手く行くかな」
「ほら、迷ってる暇はないわ! 早く!」
なお渋る俺だったが、ナーシャに無理やり引っ張られて、やむを得ず一緒に外へと出た。
ちょうど店を出た瞬間、ミノタウロスと目が合った。
「ブルウウオオオオオ!」
涎をまき散らしながら、ミノタウロスは雄叫びを上げ、すぐにこっちへ向かって突進してきた。
「真っ向から来るなんて、いい度胸ね!」
ナーシャはガトリングガンを腰だめで構え、発射ボタンを押した。
銃弾の嵐が、ミノタウロスを蜂の巣にせんと襲いかかる。
「ブウウワアアアア!」
次々と着弾するものの、その肉体は鋼鉄の如しか、ミノタウロスの体には擦り傷しかついていない。絶叫だけはやかましいのに、大したダメージを与えられていない。
スーパーアーマータイプの敵だ。火力で押し切るナーシャの戦闘スタイルとは相性が悪い。
(これは、援護が必要かもな!)
仕方なく、俺は地面に手を当てると、ミノタウロスの足元あたりに意識を飛ばした。ここ新宿は街全体がダンジョンとなっている。俺の「ダンジョンクリエイト」スキルはどこでも発動可能だ。
(ミノタウロスの下の地面よ、盛り上がれ!)
イメージした通りに、ミノタウロスの足元のアスファルトが変形し、上へと伸びていく。
(鋭く、貫け!)
槍のように形成されたアスファルトは、ミノタウロスを下から脳天まで串刺しにした。
即死だった。断末魔を上げることもなく、ミノタウロスは死に、尖ったアスファルトに貫かれたまま、ガクリと力を失った。
遠巻きにして眺めていた、周囲の人々が、ざわついている。何が起きたのか、不思議がっている様子だ。
誰かが俺の動きを見ていたかもしれない。変に声をかけられる前に、とっとと退散しよう――と思って、ナーシャのほうを見た俺は、その奥に現れたモンスターの姿が視界に入り、ギョッとした。
三階建てのビルと同じくらいの高さを誇る、巨大ミノタウロス。今のミノタウロスが可愛く見えるほどのデカさだ。この間戦ったダイダラボッチほどの大きさではないけれど、この巨大ミノタウロスは明らかに怒りの形相を浮かべており、雰囲気としてはかなりヤバい。
ナーシャもまた、巨大ミノタウロスに気が付き、身を強張らせている。
普通のミノタウロスでもガトリングガンが効かなかったのだ、あのサイズとなると、傷一つつけられないのではないか。
俺の「ダンジョンクリエイト」で何とかするしかない! と思った、その時だった。
バスン! と巨大ミノタウロスの首に、極太のダーツのようなものが刺さった。
ピッ、ピッ、と電子音が聞こえる。音に合わせて、極太ダーツの横に据え付けられたランプが点滅している。
(あれはまさか、爆弾⁉)
俺の読みは当たった。
巨大ミノタウロスの首に突き刺さった爆弾は、ピピピピ! という電子警告音の後、盛大に爆発した。その爆発規模は、首を吹っ飛ばすのに十分なものであり、ちぎれ飛んだ巨大ミノタウロスの生首が、ドスンッと地面に落下した。
「制圧完了」
俺のすぐ後ろから、冷たい声が聞こえてきた。
振り返ると、ピシッとした紺色スーツ姿の女性が立っている。年齢は20代前半くらいだろうか。ボブカットの髪型に、眼鏡、鋭い目、と生真面目を絵に描いたようなお姉さんだ。いかにも出来る人、といった風情である。
お姉さんは、ずれた眼鏡をチャッと指で直すと、ナーシャのことをギロリと睨みつけた。
「銃刀法違反」
「はあ⁉」
いきなり言葉でレッドカードを突きつけられ、ナーシャは不満そうに声を荒らげた。
「なんでよ! 銃刀法はとっくの昔に改正されたじゃない!」
「あくまでもモンスターやダンジョンへの対抗策として改正されただけです。街中での使用は許可されていません。ダンジョン外では、運搬のみが許可されています」
「ちょっと待って、ちょっと待って……あのさあ、この新宿自体がダンジョンだよね? そこのところ、わかってて、言ってる?」
「新宿区としては、あくまでもダンジョンは地下であり、地上部分はダンジョン外と認識しております」
「ダンジョンの外にどうしてモンスターが出るのよ」
「逆に、モンスターが出現する場所はダンジョン、という定義でもあるのでしょうか?」
すごい言い争いになっている。
あまり巻きこまれたくなかったけど、しょうがないので、俺は仲裁に入った。
「まあ、その、落ち着いて。ナーシャ。それと……お姉さんは、どちら様?」
「ダンジョン探索庁ダンジョン探索局第一課長の
ご丁寧に、チハヤさんは名刺を渡してくれた。
ダンジョン探索庁。ダンジョン禍が始まってから半年後に、政府が発足した探索チーム。けれども、民間のチームほどの成果は上げられておらず、「ダンジョン散策庁」と陰口を叩かれている、可哀相な集まり。
そこの第一課長となると、これはもう、ダンジョン探索の最前線で活動している人となる。話題にもなっていないから、実力のほどは知らなかったけれども、少なくとも今の巨大ミノタウロスを一撃で倒したところからすると、かなり戦闘力は高そうだ。
「でもさあ……私が銃刀法違反なら、あなただって銃刀法違反じゃないの?」
ナーシャの当然のツッコミを受けて、
「そ……それは……」
急に、チハヤさんは慌て始めた。
あ、出来る人だと感じたのは、どうやら気のせいだったようだ。
この人はたぶん、見た目はパーフェクトで、実力もパーフェクトなのだろうけど、中身はけっこうポンコツなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます