第8話 竜神橋ダンジョン④

「さっき、TAKUが言ってただろ。物質を変化させて――」

「この間は、大地系のスキルだって言ってたじゃない。嘘をついていたっていうこと?」

「そ、そうそう、そういうこと」

「それも嘘ね。あからさまに動揺しすぎ」


 ナーシャは、すっかりお見通しのようだ。


 さらに、ナーシャの配信のコメントが俺に向かって飛んでくる。


《:隠すな、ちゃんと説明しろ!》


《:ナーシャたんに隠し事とか、マジありえん》


《:結局、どういうスキルなんだよ》


 俺は頭をガリガリと掻いた。しょうがない、ここは説明するしかなさそうだ。でも、誰でも彼でも教えていいものではない。


「わかった、話すよ。ただ、配信は一旦止めてほしい」

「なんで?」

「とにかく、その条件が飲めないんだったら、俺はここで引き返す。これ以上お前と関わり合いになりたくない」

「……わかったわ」


 ナーシャは配信機器を掴むと、ボタンを押した。三つ全部、同じ操作をする。俺のスマホで確認すると、確かに映像と音声はストップしている。


《キリク:おい、まさか、こっちまで止める気じゃないよな!》


 すまん、キリク氏。俺のスキルは、世間に知られるわけにはいかないんだ。


 容赦なく、自分の配信も止めたところで、俺は単刀直入に、自分のスキルについてナーシャに説明を始めた。


「俺のスキルは『ダンジョンクリエイト』だ」

「え」


 案の定、ナーシャは固まった。


 それから、険しい眼差しで、俺のことを睨みつけてくる。


「まさかとは思うけど……あなたは『クリエイター』なの?」


 出た、その単語。やはり疑われるのも無理はない。


「人のことを都市伝説で語らないでくれよ。違うって。たまたま、神様からこのスキルをもらったんだ」

「本当に? あなたが、ダンジョンをこの世界に生み出している存在ではないって、どうやって証明できるの?」

「信じてくれ、としか、言いようがない」

「信じられるわけないでしょ。そんなすごいスキルを持っていて」


 ナーシャは、俺から一歩離れた。警戒している。


「つまり、あなたは、ダンジョンを構造そのものから変えることが出来る能力を持っている、ということなのね」

「理解が早くて助かるよ」

「そんなスキル、どの神様からもらったっていうの」

「わからない」

「はあ⁉」

「本当にわからないんだ。工事現場でバイトしてたら、いきなりダンジョンが発生して、巻きこまれた。これは死んだか、って思っていたところに、突然、神様の声が降ってきたんだ。一切、名前を名乗らなかった」

「そんな形でスキルをもらうなんて、聞いたことない」

「俺もだよ」

「仮に、その話が本当だとしても、あなたが『クリエイター』ではないという保証はないわ」

「第一に、俺が噂の『クリエイター』だったら、自分からこんな簡単に話したりはしない。第二に、俺は既存のダンジョンの構造を変化させることはできても、ダンジョンを一から作り出す方法はわからない。第三に、俺はお前のことを助けた。それで、信じてくれないかな?」


 ナーシャは、しばらく腕組みしながら、考え込んでいる様子だった。


 やがて、ふう、とため息をついた。


「わかったわ。信じはしないけど、とりあえず、様子は見てみる」

「サンキュー。助かるよ」

「だけど、ちょっとでも変な真似をしたら、容赦なく私のガトリングガンが火を噴くからね」

「もちろん、その覚悟はあるよ」


 俺達は、再び共同戦線の約束をすると、お互いに配信を再開した。それぞれ、コメント欄は不満の言葉で溢れ返っている。


 とりあえず簡単に詫びを入れてから、吊り橋を進み始めた。


 急がないと、TAKUが先に鉱石のもとへと辿り着いてしまう。


「ナーシャ。鉱石の再生頻度って、どれくらいか、わかる?」

「話によると、1ヶ月くらい、らしいわ」

「取り尽くされたら、1ヶ月待たないといけない、ってわけか」

「せっかくダンジョンに潜ったのに、そんな結果になるのだけは、なんとしても避けたいわ」


 やがて、反対側の崖へと到着した。


 岩壁を見ると、TAKU率いるタックン軍団が、ロープを使って崖下りをしている。


 鉱石は、こちら側の崖の下にある、という前情報だ。ちゃんとTAKUはそのための準備を抜かりなくしている。


 もちろん、ナーシャも、それなりの装備は持ってきている。だけど、ガトリングガンを抱えながら下まで降りるのは至難の業だ。


「しょうがないわね、武器は置いていかないと」

「そんなことする必要ないぜ」

「どういうこと?」

「忘れたのか。俺のスキル」

「あ」


《:だーかーらー、そのスキルがなんなのか、説明しろよ!》


《:ナーシャたん、お願いします!》


《:いや、ナーシャたんは口がかたいと思われ》


 俺は、崖の端に手をつき、精神を集中させる。


 イメージする。崖が変形して、下へと降りるルートを構築していく様子を。かなり大がかりな変形なので、相当骨は折れそうだ。スキルを使うには、潜在的なエネルギーの消費が必要となる。おそらく、この一回の使用で、俺は力を使い切ってしまうだろう。


 だけど、構わない。


「階段よ、伸びろ!」


 俺の掛け声とともに、岩壁はメキメキメキと音を立てて、変形し始めた。


 あっという間に、岩が伸び始め、階段状に下へ向かってジグザグに走っていく。


「う、嘘でしょ⁉ まさか、ここまで出来るなんて!」


《:おおおおお、すげえええ》


《:マジで何なんだよ、お前のスキル⁉》


《:これでTAKUを出し抜けるぞ!》


 驚くナーシャや、視聴者達の反応が、ちょっと心地良く感じられたりする。これで、能力が「ダンジョンクリエイト」でなければ、喜んでスキルの説明をするのだけど。


 ほどなくして、階段は完成した。


 あとは、崖下へ向かって降りていくだけだった。

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