第9話 竜神橋ダンジョン⑤
俺の「ダンジョンクリエイト」で作った階段を下りていくことで、あっという間に、崖下に辿り着いた。
岩肌から赤く輝く鉱石がいくつも飛び出している。ギラギラと輝く様は、まるで大地の太陽だ。
「これが鉱石ね。恐らく赤く輝いているのは、伝説の金属ヒヒイロカネを含んでいるからに違いないわ」
「ヒヒイロカネ?」
「聞いたことないかな。古い伝説に出てくる希少な金属。これを含む鉱石のことを、ヒヒロタイトというの」
「こいつを、各国は求めている、ってわけか」
「どこも情報を隠していたから、確信は持てなかったんだけど、現物を見てハッキリしたわ。このダンジョンで獲得できるものは、ヒヒイロカネで間違いない」
「じゃあ、さっそく採取しようぜ」
何か採取用の道具を持ってきているものだと思い、俺は呑気にそんなことを言ったが、
「ちょっと下がってて」
ナーシャからそう言われて、これから何が起こるのかを察し、
「お、おい、待てよ! 冗談だろ⁉」
慌てて俺は岩壁から飛び退いた。
直後、ナーシャのガトリングガンが火を噴いた。
銃弾が岩肌を削り、そこに埋まっているヒヒロタイトを次々とえぐり出していく。ひとしきり乱射したところで、ナーシャは銃撃をやめ、地面に散らばっているヒヒロタイトを回収し始めた。
「はい、カンナも手伝って。ちゃんと持ち帰るだけにしてね」
「危なかった! すごく、今の、危なかった!」
「何よ、ちゃんと警告したからいいでしょ」
「こんなやり方で鉱石採取するとは思ってなかったんだよ!」
文句を言う俺に対して、ナーシャの視聴者達は辛辣なコメントをよこしてくる。
《:ざまあw》
《:ビビってる顔、マジ最高》
こいつら……! いつか見てろよ……!
俺は悔しさで顔を真っ赤にしながらも、とりあえず、ヒヒロタイトを拾って、リュックに詰めていく。
そうこうしている内に、TAKUも仲間達と共に、俺が作った岩の階段を下りてきた。
「まさか、ここまで出来るとは思わなかったよ」
TAKUはパチパチと拍手している。口元は笑っているが、目は笑っていない。
「おかげで、だいぶ時間短縮になった。君のスキルはすごいな」
「勝手に利用しないでほしいんだけどな。俺が苦労して作った階段を」
「大して苦労していない様子だけどね」
そんなことはない。
スキルを使うためのエネルギーをすっかり使い切っている。スマホに付いている読み取り装置で、残りエネルギー量をはかってみると、残値は0。これ以上「ダンジョンクリエイト」のスキルは使えない。
「TAKUさん。無駄話をしている暇はないです。ヒヒロタイトを回収しないと」
「ああ、そうだった。まずはそっちが先決だな」
すでにTAKUは俺への興味を失ったようで、自身もまた、岩壁に近付き、ヒヒロタイトの採取にかかる。
「シッ!」
鋭い呼気とともに、TAKUは腰の鞘から刀を抜くと、目にも止まらぬ速さで岩壁を切り裂いた。
バラバラとヒヒロタイトだけが切り取られて、地面に落ちていく。
「すっげ……!」
さすが100万超え配信者。とんでもない力を持っている。岩壁を切り裂くには、本人の力も、刀も、並外れたものでなければいけない。文句なしに上位の力を持っている。
「さ、みんな、拾ってくれ」
「了解です!」
TAKUに命じられたタックン軍団が、ヒヒロタイトをどんどん拾っていく。
その時、TAKUは、怪訝そうに顔をしかめた。
「一人足りないな?」
「あれ……本当ですね。AKIRAがいません」
タックン軍団の一人、紅一点の女性が、キョロキョロとあたりを見回した。
俺も気になって、周囲を見てみる。
すぐに、AKIRAらしき人影を発見した。
彼はなぜかあらぬ方向へフラフラと歩いていっている。もやの中に入り込み、今にも姿が掻き消えそうだ。
「おい! AKIRA! 何をやってるんだ!」
TAKUの呼びかけにも反応しない。
そのうち、もやが晴れてきた。
「何よ、あれ⁉」
ナーシャが驚きの声を上げる。
AKIRAが向かう先にも、岩壁がそびえ立っており――その岩肌に、五階建てのビルほどの高さを誇る巨大な門が据え付けてある。
明らかに異様な、黒い大門。
「ゲートだ!」
TAKUが叫ぶ。
「ゲート⁉」
「見たことがないのか、ナーシャ」
「話には聞いたことがあるけど、まさか、あれが⁉」
「僕らのように何度もダンジョンに潜っていると、たまに発見することがある。それらは全部、黒い色だ。あれもまた、ゲートに違いない」
二人が何を話しているのかわからない俺は、
「なあ、ゲートって何だよ?」
とナーシャに尋ねた。
「ダンジョンのどこかに存在するっていう門のことよ。その門を開けてはいけない、っていう話だけは広まってる。だけど、どうしてなのか、理由は明かされてないの」
「何でだよ。誰か一人くらいは、開けたことあるんだろ」
「開けた人は、みんな、命を落とした、っていう話よ」
そうこう話をしている内に、とうとうAKIRAはゲートに辿り着き、扉へと手をかけた。
「開けるな!」
TAKUは怒鳴ったが、もう遅い。
黒く巨大な扉は、ゴゴゴゴと音を立てて、開かれてしまった。
その瞬間、門の奥から、頭の大きさが縦5メートルはあるだろう巨大な蛇が飛び出してきた。頭には鋭い角が生えている。
「逃げろ、AKIRAぁ!」
そんなTAKUの呼び声も虚しく、AKIRAは、巨大蛇の角で胴体を貫かれてしまった。
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