第6話 竜神橋ダンジョン②
ギャアギャアとけたたましい鳴き声が聞こえてきた。
空の向こうから、何百羽はいるだろう、怪鳥達が黒い雲のように群れをなして、俺達のほうへとまっすぐ飛んでくる。
ナーシャのボール型配信機材は、コメント読み上げ機能も搭載しているようだ。合成音声がスピーカーから流れてくる。
《:来たぞ、オンモラキだ!》
《:数が多いだけで大したことない、ナーシャたんなら楽勝っしょ》
《:ツレの底辺ライバーはどうだろうな》
《:見るからにひょろっちいし、楽勝でやられそうだな》
《:それな》
俺は肩をすくめた。「ダンジョンクリエイト」のスキルを使えば、それこそ吊り橋に壁を作ることだって出来る。対象物に触る必要はあるけど、その条件さえ満たせば、不可能はない。質量保存の法則だって無視できる。
もしも俺一人だったら、ダンジョンの構造自体をいじって、どうにか撃退していただろう。
でも、ここでスキルを使うのは、あまりにも危険すぎる。今回は大勢に注目されてしまってる。万が一、「ダンジョンクリエイト」持ちだってバレたら、えらいことになってしまう。
幸い、俺と一緒にいるのは、あのガトリング・ナーシャだ。
火力の女神。圧倒的攻撃力。まず負けることはない。
「よーし! 派手に行くわよ!」
《:待ってましたー!》
《:今日も無双頼みます!》
ガシャン! と重々しい音を立てて、ナーシャはガトリングガンを構えると、飛来してくるオンモラキの群れへと狙いを定めた。
たちまち、ガトリングガンの銃口が火を噴いた。
凄まじい銃声が響き渡る。一秒間にいったい何発の弾を放っているのか、雨あられの如く飛んでいく銃弾は、次々とオンモラキに当たり、秒に何十羽という勢いで撃墜していく。
「ケアアア!」
オンモラキ達が怒りの鳴き声を上げ、口から火球を放ってきた。
《:あれはやばい!》
《:橋を焼かれるぞ!》
だが、ナーシャは、その火球をも射撃で撃ち落としていく。攻防一体の苛烈な銃撃を受けて、とうとうオンモラキの群れは散り散りになった。
《:やった! 逃げてく!》
《:さすがナーシャたん!》
《:いや待て! 違う! 分散して襲うつもりだ!》
さすがいくつものダンジョン配信を見ているであろう、視聴者達だ、よく観察している。
俺も、気が付いていた。敵は逃げ惑っているように見せて、いくつかの小隊に分かれて、複数の方向から襲いかかるつもりなのだと。
「ちょっと! 戦わないの⁉」
「いや、あんまりにもお前が強いから、見とれてて」
「そーいうのいいから! 真面目にやって!」
ナーシャは素早く目を走らせて、どのオンモラキの群れを撃ち落とすか、選んでいる様子だ。
いくらパワードスーツを着ているとはいっても、あの重たいガトリングガンを、スピーディに右へ左へと振り回しながら攻撃するのはきついのだろう。ナーシャの弱点は、小回りがきかないところにある。
はあ、と俺はため息をついた。
キリク氏は、この状況をどう考えているのだろう。右手に持つスマホを見てみると、こんなコメントをよこしてくれていた。
《キリク:期待してるよ、マイヒーロー》
やれやれ、弱ったな。
俺は自分の能力をあまり知られたくないんだけど、こういう風に頼られるのには、弱いんだ。なにせ、長男だから。昔から両親もいない中で、妹の面倒を見てきた。そのクセがあるから、誰かに助けを求められたら放っておけない。
「わかった! やってやるよ!」
俺のスキルの発動条件①。左手で、ダンジョンの構造物に触れること。右手はスマホを持ったまま、左手で、吊り橋に触れる。
俺のスキルの発動条件②。頭の中でイメージする。ダンジョンの構造をどのように変化させるか。なるべく具体的なビジュアルを伴って、想像してみる。
俺のスキルの発動条件③。脳内でも、声に出しても、なんでもいいから、掛け声を上げること。
今回は、声を出してやってみるぜ。
「伸びろ!」
途端に、吊り橋がグニャリと変形し、ニョキニョキと新たな吊り橋が伸び始めた。
《:うおおおおお、なんだこりゃあああ》
《:また伸ばしてるぞ! でも吊り橋⁉ 大地系スキルじゃないのか⁉》
《:きっと物体を伸ばす能力なんだ! 伸びるスキルだ!》
ナーシャもまた、しばらく銃撃を中断して、目を丸くしながら、俺のことを凝視している。
「な、なに、それ。どうやってるの」
「何度も言わせるなよ。スキルって、理屈ではかれるもんじゃないだろ」
俺は、頭上を旋回しながら飛び回っている、オンモラキのいくつもの群れを睨みつけた。
楽しそうに空を飛んでいるところ、悪いな。でも、俺は、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。
さらに俺はイメージを重ねた。
「暴れ回れ!」
その掛け声とともに、新しく生成された吊り橋は、まるで鞭のようにブンッ! と激しく回転し、空中にいるオンモラキ達を次々と叩き落としていく。
怪鳥達の絶叫が、谷間にこだました。
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