第24話 危機を救うのは
老婆のような皺だらけの目元が細められる。
「おや、こんなところに黒猫かい? んー、黒猫にしては宿している魔力に覚えがあるね。あの
そう言って皺だらけ手を伸ばしてくる。私は足が
どうしよう。身体が動かない。逃げたいのに逃げられない。捕まったら殺される。いや、ディアナもとに連れていかれるかもしれない。
そうしたらもうヒサアキと会えない。それだけは嫌だ。動け、動いて私の身体。お願い!
手が届きそうな距離で私は目を閉じた。ダメだ! 捕まる!
覚悟した瞬間。
「ぎゃぁあ! 何だい!?」
ディアナの悲鳴が聞こえた。目を開けるとディアナが手を抑えている。そこからは血が出ていた。地面にはナイフが突き刺さっている。
続いて玉のようなものが投げ込まれてすぐ周囲は煙に包まれた。何も見えない。動けない私の身体は誰かに拾い上げられていた。この手の温かさを知っている。
「ヒサアキ!」
ヒサアキは私を抱えたまま屋根の上を伝いディアナから遠ざかった。
屋根の上に避難したヒサアキは黒猫に変身している私を降ろして片膝をついていた。
「主殿、お怪我はありませんか!?」
焦燥感を
すぐに安堵したように目元を緩める彼は昨日見た忍者装束ではなくルイとして活動していた時の格好をしてた。
「よかった。主殿の身に何もなくて……」
「どうしてヒサアキは来てくれたのですか?」
リディアたちと一緒に逃げていたはずのヒサアキがなぜ戻ってきてくれたのか分からなかった。
まるで私の身に危険が迫っていたことを予見して駆けつけてくれたみたいだ。
「それはですね、聖女リディア殿が突然声を聞いたらしく、黒猫に変身した主殿の身に危険が迫っていると教えてくれたんです」
「そう、なんだ……。あと、あのナイフはどうしたのですか? ディアナに効いていたようですけど」
「ナイフはルノーが持っていたもので、それにリディア殿が加護というものを与えてくれたみたいです」
さすがにヒサアキの持つ
考え事をしている私をヒサアキが突然抱き上げた。
「本当に主殿が無事でよかった……」
絞り出すような声に私の胸がちくり、と痛む。ヒサアキに心配をさせてしまったのだろう。
今までこんなに誰かが私のことを心配してくれたことなんてなかったからどう反応していいのか分からない。
だから私は少しだけ悩んだ末に頭をヒサアキの頬に寄せた。
「うん。うん……助けに来てくれてありがとうヒサアキ」
ヒサアキが助けに来てくれた瞬間、泣きそうになるくらい胸が詰まった。
生きてヒサアキの元に戻るつもりだったけれど、ディアナの分身体とはいえ彼女と遭遇した時、私は正直ここで終わるんだと思った。
逃げたいのに逃げられない恐怖は足を止めるには十分だった。でも、死の恐怖よりもヒサアキと会えなくなる恐怖の方が強くて本気で死にたくないと思った。
こんなこと生まれて初めて。
「あ、主殿。その……くすぐったい、です」
「ご、ごめんなさい!」
黒猫に変身したままでヒサアキにずっと擦り寄っていたみたいで言われるまで気がつかなかった。
慌てて頭を離した。良かった今が猫の姿で。
人の姿だったらたぶん顔が赤いだろう。
「さ、そろそろルノーたちの元へ行きましょうか」
「うん。……二人とも無事に逃げられたんですね。よかった」
「はい。主殿のおかげです」
「ううん。ヒサアキがいたからですよ。これまでの私は失敗続きで、助けられなくてそして最後には逃げてばかりだったの。リディア様に大事な人がいたことも、その人がリディア様のことを想っていたことも知らないままでしたから」
「それも主殿が僕をこちらへ召喚してくれたからです」
そう言ってにこりと笑みを向けるとヒサアキは私を抱えたまま屋根伝いに駆けて行った。
合流場所である東門の近くまで来るとヒサアキは屋根から飛び降りて音もたてず着地する。周囲を見渡して門の近くの小屋に近づいた。
「戻ったぞ」
ほどなくして小屋からルノーとリディアが出てきた。ヒサアキが戻るまで念のために身を隠していたらしい。リディアは黒猫の私を見て目元を緩めた。
「良かった。変身魔法も解けてる」
私もリディアがネズミから元の姿に戻れていることに安堵した。
「急いで街から離れるぞ」
「お、おう!」
「主殿、行きましょう」
ヒサアキに促されてルノーは用意していた馬にリディアと乗り、私は変身を解いてヒサアキと共に馬に乗った。
東門を抜けて馬をしばらく走らせると以前ルノーが言っていた丘が見えてきた。そこからは別れ道になっている。一度そこで馬を止めた。
「右に行けば村、左に行けば森に入る。リディアと話したんだけどさ、俺たちは村で暮らすことにするよ」
「そうなんですね。ではこれを」
「これは?」
リディアの手に私は薬の入った小瓶を二つ渡した。中身は以前ルノーに言った姿を変える魔法薬。今の容姿とはまったく異なる容姿になる薬だ。
「姿を変える魔法薬です。飲めば今とは全く異なる容姿になります。街から追手が来ないとも限りませんので。二人がこのまま平穏に暮らすのに必要かと思って用意しました」
受け取ったリディアは一瓶をルノーへと手渡した。
「ねえ、二人だけで少し話しませんか?」
「えっと、あの……」
困惑しながらヒサアキとルノーを見ると、いってらっしゃいと言わんばかりに手を振られる。
リディアは笑顔で私の両肩に手を置くとグイグイと押してヒサアキたちから遠ざかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます