第23話 火刑台
翌朝、聖女リディアの処刑当日。教会内外で騒ぎがないところを見るとヒサアキたちは無事に脱出できたようだ。あとは私が上手く事を運ぶだけ。
誰かが階段を上がってくる音が聞こえてきてそちらへと顔を向けた。立っていたのは司祭の中年男性。後ろには修道士が二人ほど控えていた。
「魔女リディア。さあ、こちらへ」
抵抗することなく私は司祭の後をついていく。教会を出て街の広場まではそんなに距離があるわけではない。
一歩教会の外に出れば人だかりができていた。
「魔女よ。私たちを
「処刑だ! 魔女は処刑だ」
街の人たちが口々に魔女を
中には石を投げてくる人もいて額に当たり血が流れる。それでも私は動じない。
かつてのリディアがそうであったように。彼女はこんな目に
リディアは本当に聖女と呼ばれるにふさわしい人だったんだ。
魔女狩りさえ、闇の妖精ディアナさえいなければリディアは不当な扱いを受けずに済んだのに。
火刑台に登った私は集まる街の人たちを見た。ここに来た時に話をしてくれた屋台の店主たちも混ざっている。みんなディアナの魔法にかかっていて目は虚ろだった。
私は過去にリディアが見ていた方向に視線を向けた。たぶんそこにルノーがいたのだろう。
でも、今ルノーとリディアは二人で逃げている。良かった。
私は空を見た。雲一つない晴天の空。
司祭の手によって火が付けられて足元から火が上ってくる。
熱い、苦しい。何度も死んできた私は死ぬこと自体に恐れはない。
でも、何度経験しても痛みや苦しみはある。以前の私であればリディアを逃がせたことに満足してここで死んでもいいや、と思っただろう。
だけど今の私は違う。
死にたくない。ヒサアキと会えなくなるのは嫌だ。絶対に彼の元に戻りたい。
そんな想いで胸がいっぱいだった。だから私はここで死ぬわけにはいかない。
「
彼の元へ戻る勇気を振り絞ろう。今度こそ呪いを解いて彼と共に生きるんだ。
呪文を唱えると炎は瞬く間に私を包んだ。集まっていた人たちが炎の激しさにざわめいている間に私は黒猫へと姿を変えた。
炎に包まれた火刑台が崩れ落ちる寸前、黒猫になった私は脱出した。誰にも気付かれていない。
崩れ落ちる火刑台から上る灰を見ながら街の人たちが魔女を始末できたと喜ぶ声と、ディアナの魔法を逃れた人たちの聖女リディアの死を嘆く声を背後で聞きながら私は火刑台を後にした。
どれくらい走っただろう。人間の体とは違って猫の体躯では距離の感覚が測りにくい。目指している東門が遠く感じる。
息を切らせながら走っていると、街角に一人誰か佇んでいた。腰が曲がりフードを深く被っている人の顔が見えて私は足を止めた。
ディアナだ。いや、正確にはディアナ本人ではなく彼女の分身体だろう。
それでも
火刑台の方角を見ていたディアナの分身体が私を見た。
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