第22話 入れ替わり
「主殿。そろそろ時間が」
「うん、わかった。聖女リディア様。どうかあなたを助けることをお許しください。そして、あなたを待っているルノーとどうか幸せになってください」
「助けるってどうするのですか?」
「私と入れ替わってもらいます」
「入れ替わる?」
疑問符を浮かべるリディアに私は簡単に説明した。
「はい。私があなたに変身して、リディア様が先ほどの私同様ネズミに変身してヒサアキと共に逃げるのです」
「……それではエリアーデが火刑台に立つことになりますよ?」
「元からそのつもりで来ました」
何かを言いかけたリディアを制して私は続けた。
「でも、火あぶりになるつもりはありません。隙を見て逃げますのでご安心を。私はこれでも魔女ですので。さあ、時間がありません。早く!」
「っ! 分かりました。エリアーデ、無事に逃げられたらあなたに話したいことがあります。たった今声があなたの今度を教えてくれましたので」
リディアが私の手を両手で握って涙にぬれたエメラルド色の瞳でジッと見つめてくる。それは絶対に生きて会おうと言っているようにも見えた。
私は頷くと薬を取り出した。
「これを飲めばあなたはネズミになります。元に戻す薬はルノーが持っていますから。ヒサアキ、お願いしますね」
「主殿。どうかご無事で」
「はい」
リディアが薬を飲んでネズミに姿を変えたのを見届けた私はハーブを取り出すと呪文を唱えた。
「
ハーブから
ヒサアキとネズミに変身したリディアは目を開いて驚いているけれど、ヒサアキだって修道士に変装して門番たちをかいくぐっているのだから私にとっては驚かれるようなことではない。
「さあ、行ってください」
「主殿」
リディアをフードの中に隠したヒサアキが近づいてきて私の手を取った。そのまま手を引かれて手の甲へと口付けを落とされる。
これで二度目。
また鼓動が跳ねた。
「約束してください。必ず僕の元に戻ると」
「はい。私は絶対にヒサアキの元に向かいます。死んだりしません。だって、呪いを解いて一緒に暮らすんですから」
「……っ、もちろんです。それでは瀬野久明、無事にリディア殿を送り届ける任を果たしてみせます」
「お願いしますね」
ヒサアキはそう言うと再び修道士ポールとなり階段を降りて行った。残った私はリディアの見ていた小窓を見る。
差し込む月明かりに向かってリディアがしていたように両手を組んで瞳を閉じた。過去に見てきたリディアはここで何を思ったのだろう。
ルノーのことだろうか、それともこれから自分が死ぬことに対してだろうか。考えたところで分からない。
私には神様や天使の声なんて聞こえないけれど、無事にリディアとルノーが再会出来ることを祈ることは出来る。
「……どうか二人が再会出来ますように」
そしてヒサアキに怪我がありませんように。
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