第20話 潜入

 音もなく屋根を伝い教会の敷地内へと門番に見つかることなく潜入すると迷うことなく中庭を進み司祭館の近くまで進むと鉤縄かぎなわという縄に鉄製の釣り針のような形状のかぎをつけた道具を取り出した。


 縄を持ち回して遠心力を利用して鉄鉤を遠くに投げた。鉤の引っかかりを確認したヒサアキは縄を伝い壁を難なく登る。


 屋根上まで到達すると迷うことなく屋根裏に忍びこみ目的地の部屋まで移動した。


 真下にはこれから巡回するために着替えようとしている修道士の青年がいる。ヒサアキは音もなく青年の背後を取ると私の作った薬の小瓶の蓋を開けた。中は眠り薬。


 香っただけで薬に耐性のない相手であれば即気を失う。ヒサアキは頭巾を巻いて鼻まで覆っているから嗅ぐ心配はない。


 予想通り修道士は気を失い眠りについた。素早くヒサアキは修道士を寝台へ移動させると服をはぎ取り着替えた。


 忍者装束からくるぶし丈のゆったりとしたローブ上のトゥニカと呼ばれるものの上からわきを縫っていないスカプラリオと呼ばれる肩掛けを羽織り、髪型までほぼ同じに寄せていた。


 念のためフードを被っている。ネズミの私はフードの中に移動した。蠟燭ろうそくに火を灯したランプを手に部屋を出たヒサアキは司祭館を出て教会へ向かう。


「主殿、これから正面入口より潜入します。よろしいですか?」


「はい」


 緊張は当然している。失敗は許されない。でもなんでだろう。ヒサアキが一緒にいると成功する気しかしない。


 修道士のヒサアキは歩き方まで真似て堂々と正面入口まで難なく向かった。


「巡回ご苦労様です」


「門番のお二人もご苦労様です」


「いよいよですね。魔女の処刑日。魔女の手先が来ないよう我々も目を光らせます」


「ええ。お願いします」


 門番二人はヒサアキの変装に気付いている様子はない。このまま難なく通れるだろうか。そう思っていた矢先


「そうそう。忘れるところでした。形式状名前を」


 通り抜けようとしたヒサアキを門番の一人が呼び止めた。フードの中に隠れていた私の心臓が跳ねる。


「ポールです」


 私の緊張とは逆にヒサアキは冷静に門番の問いに答える。容姿だけでなく名前まで把握しているヒサアキに私は感心していた。


「はい。確認は終わりです。お引止めしてすみません」


「いえ。それでは失礼いたします」


 ヒサアキは軽く会釈えしゃくすると正面入口までゆっくりとした足取りで進む。


 魔女の手先に目を光らせていた門番たちをいとも簡単にすり抜けて私たちは無事教会内に潜入できた。


 南翼廊よくろうを通り身廊しんろうを真っ直ぐ進んで拝廊はいろうで止まった。拝廊から南搭と北搭が左右に分かれている。


「さすがにどちらかに幽閉されているかまでは調べられませんでした」


「問題ありません。ここは私の出番です」


 フードから顔を出した私は神経を集中させて聖女の魔力を探った。何度もループしたときに彼女の魔力の波長を感じ取っている。


 それを辿ればリディアがどちらにいるかは分かる。


「見つけました。右手側です」


「右。北搭ですね」


 ヒサアキは私の言うことを信じて北搭へと向かう。らせん階段を音を立てずに一気に駆け上がると最上階に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る