第19話 作戦開始

「私は魔女だから。火の手が上がる前に動物に変身して逃げるからルイは聖女様を連れてルノーに合流して。合流先は街の東門前」


「どうしてそこまでするんだよ。助けたいって思うのは俺だって同じだけど、身代わりになるような真似をしてまで助ける理由はお前たちにはないだろ?」


 ルノーの疑問はもっともだ。


 単に私がリディアがルノーのことを愛している理由を知りたい、何度も救えなかった彼女を今度こそ救いたいと言ったところで信じないだろう。


 やっと救える道が見えたからこのチャンスを逃すことはしたくないから身代わりでもなんでもするつもりなのだけれど。


「昨日答えた通りですよ」


「いや。それだけじゃないはずだろ?」


 ルノーは引かなかった。確かにルノーからすれば”愛している”という感情は当たり前だからそれを知りたいという私の意図は理解できないだろう。


 私にはわからない感情であり、この身に巣食う呪いを解くカギである特別なもの。


 ルノーに呪いの事を話すわけにはいかないから私はまたウソをつく。


「魔女の汚名を着せられて処刑される姿を見たくないからです」


「俺はエリーがやりたいことを叶えるだけだ」


「ははっ、なんだそれ」


 ルノーが声を上げて笑う。けど、どこか泣いているようにも見えた。私はなんて声をかけていいのか分からずルイを見上げた。


 ルイは頷くとルノーへと声をかけた。


「で? エリーは覚悟を決めているんだ。お前は覚悟を決めたのか?」


「ああ。馬でもなんでも用意してやる」


 腕で目元をこすったルノーの顔はき物が落ちたようだった。


 方針は決まった。聖女リディアの救出は処刑の前日の深夜決行となった。


「ルノーにこれを預けておきます」


「これは薬か?」


 手渡したのは小瓶。リディアを救出出来た時に彼女を元の姿に戻すものだ。


 潜入に二人は怪しまれるからルイが修道士に変装するならその懐に忍べそうな小動物に変身するのが手っ取り早い。


 リディアと合流した後は私がリディアの姿に変身して、代わりにリディアには小動物に変身してもらう。それを戻すための薬だ。


「聖女様がルイと共に無事にあなたの元に戻ったら飲ませてください。……その、姿に驚かないでくださいね」


「よくわからないけど、これをリディアに飲ませればいいんだな?」


「はい。それではルノー、行ってきます」


「しっかりやれよ」


「おう! 任せとけ」


 そう言って笑みを見せたルノーと別れて私たちは教会へ向かった。





 聖女の処刑が決行される前夜。街のほとんどが寝静まり、灯りが消えた頃私たちは行動を開始した。


 状況を把握するべく暗闇に紛れて教会の近くにある家屋の屋根に上った。


 教会の前には屈強な門番が二人。この前見た人たちとは違う。処刑前だから聖女を連れ出すことを警戒してのことだろう。


「修道士さんたちはまだいるのでしょうか?」


「普段通りであれば修道士たちは皆近くの司祭館へと帰っているようですが、僕が潜入したときから交代で誰かが巡回しているようでした」


 ルイからヒサアキに戻っている。格好も最初にヒサアキと出会った時と同じ真っ黒の服に頭巾と黒い布で口元を覆っている。


 ヒサアキが言うにはこれが故郷の忍者装束しょうぞくらしい。


 一方で私はネズミに変身してヒサアキの懐(ふところ)にお邪魔している。


「巡回がいるのであれば潜入は難しそうですね。どうしましょうか」


「問題ありません。巡回する修道士と時間、ルートはすべて把握済みです。あとは修道士と入れ替わって鍵を入手したら聖女の元まで向かいます」


「……忍者ってみんなヒサアキみたいな人たちばかりなのですか?」


「ん? まあ、そうですね。皆これくらい朝飯前ですよ」


「アサメシマエ?」


「簡単だと言う意味です」


「簡単かなぁ……?」


 つい口に出していた。ヒサアキは私だけでは考えつかないようなことを思いつく。こうやって聖女救出の糸口を見つけられたのも彼がいたから。


「僕にとっては当たり前のことをこうやって主君に褒めていただけるだけで嬉しいものです。さあ、主殿行きますよ」


「はい」


 ヒサアキと会話の終了と同時に私は彼の懐へ身を隠した。

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