第17話 ルイの帰還
「それでよ、魔女は魔女狩りの対象だろ。最近通達で来ていた通り聖女様は魔女として処刑されるんだと」
「はあ!? お前自分が何を言っているのか分かってるのか? 聖女様には何度もこの街は救われているんだぞ、それなのに魔女だの処刑だのと。ちょっと頭冷やせ」
店主の呆れ声が聞こえる。よかった。妖精除けの魔法の効果はこの宿全体に効いているみたいだ。
「頭冷やすも何も元聖女様は五日後に処刑が決まったって教会側が言ってるんだよ」
「っ!」
我慢の限界だったルノーが立ち上がった。
「ルノー」
「けどよ!」
「お願いです。座ってください。注目を集めていますよ」
ルノーはしぶしぶと座る。けれど、行き場のない怒りをどこにぶつけていいか分からないルノーは強く唇を噛んでいた。
薄っすらと血が滲んでいる。
朝食を食べつつ耳を傾けていたけれど、他に有益な情報は得られず私はルノーを連れて再び部屋に戻った。
「どういうことだよ!? なんであいつが、リディアが処刑されなきゃいけないんだ!」
「ルノーは魔女狩りを知っていますか?」
「魔女狩り? なんだそれ」
「魔女狩りは私のような魔女や、聖女様のような不思議な力を持つ人たちを悪と決めつけて処刑するものです」
「じゃあリディアも魔女狩りの対象ってことかよ。未来予知が出来るってだけで、自分よりも他人の幸せを願うことの出来るあいつを殺すのかよ」
ルノーの震えた声音は今にも泣きそうだった。私は彼から視線を逸らして床を見つめた。
「……そう決めた誰かがいるのかもしれないんです」
「そいつは誰だよ。教えろ! 俺がそいつをぶっ飛ばしてやる!」
無理だよ。だって相手は闇の妖精ディアナ。魔法を操り、人を惑わす存在にルノーが適うはずない。
そう言おうとしたけれど、ルノーが詰め寄ってきて言葉が詰まった。怖いからじゃない。ディアナに関わらせたくないからだ。
せっかく聖女様を救えてもディアナに目を付けられれば幸せに暮らすことができなくなってしまう。私は頭の中で必死に言葉を探した。
「……何をしているんだルノー?」
地を這うような低音が聞こえた時にはルノーの背後にルイがいつの間にか立っていた。笑顔を見せているのに殺気が隠しきれていない。
「何って……うわっ!」
振り向いたルノーに今度はルイが詰め寄る。怒っているように見えるのは私の錯覚だろうか。
ルイ、ううん。ヒサアキが怒るなんて想像出来ないもの。きっと勘違い。
「なんでお前が怒ってんの?」
「ルイ、怒ってるの?」
「……」
ルノーの指摘に驚いて思わず声に出していた。ルイは無言のままルノーから離れた。
「ただいまエリー」
「あ、う、うん。おかえりなさいルイ。怪我とかしてない?」
何事もなかったかのようにルイが私に向き直って笑みを向ける。教会に潜入していたルイが無事に帰ってきたことに胸をなでおろす。
「って! 俺を無視してんじゃねー!」
ルノーそっちのけで会話を始めた私たちの間に割って入るルノーを面倒くさそうにルイが見る。
「エリー、なんの話をしていたの?」
「えっと、今朝街の人が急に聖女様の処刑が決まったって言いに来て事情を説明しようとしていたところで」
「それでなんであんなに距離を詰めていたのか聞いても?」
ルイの圧力に私は簡単に経緯を話した。
ルイと別れてから聞こえてきた歌声を警戒して宿の周囲に妖精除けの魔法をかけたこと、私たちを含めて宿にいた人たちはディアナの魔法あるいは洗脳から逃れることができたこと、魔法にかかった街の人たちは聖女様を処刑することに違和感すら覚えず、むしろ魔女だと信じて処刑することに賛同していたこと、そしてそれを聞いていたルノーに魔女狩りについて話していたのだと伝えた。
「あー、その。すまん。俺もリディアの処刑に動揺して頭に血が上っていた。怖かったよな。この通り!」
冷静になったルノーが私に頭を下げてきた。謝らないといけないのは私の方。私が巻き込んでしまったかもしれないのに。
でも、すべてを語ることは出来ない。
さらに巻き込んでしまうことは絶対に避けたい。
「事情は分かった。でも次はないからな」
「ルイって過保護を通り越してなんか、こう……なんでもない」
言いかけたルノーは口を閉ざした。
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