第14話 リディアの本当の気持ち
手紙を机の上に置いて精製水を用意した。
「
呪文を唱えて精製水を手紙にかければ瞬く間に手紙は青い炎に包まれた。
「おい! 何するんだよ!」
青い炎に包まれた手紙に近寄って炎を消そうとするルノーをルイが止める。やがて炎が鎮まる頃にはルノーは膝から力なく崩れ落ちた。
「なんてことしてくれたんだ。あいつからの最後かもしれない手紙を……」
「ルノー。見てください」
「燃えカスを見ろってか?」
「いいから見ろ。これはお前が先に読むべきだろ」
肩を落としながらルノーは手紙を見た。文字を目で追うルノーの頬に涙が伝っていく。
「……ははっ。なんだよ。なんでこんなもの仕込んでるんだよ。俺は魔法なんて使えないんだから気付くわけないだろう」
ルノーは声を殺して泣いていた。
手紙には短くもリディアからルノーに宛てた想いが綴られていた。
もし、もしもこの手紙が読めることがあるのなら、私の想いを届けることが出来るのかな。
あのね、ルノー。私はあなたのことが好きでした。でももう絶対に叶わないから。
あなたの幸せを願わせて。
ルノー。愛していました。
リディア
”愛していました”もう何十回と処刑される聖女の口から零れた言葉。
その意味を知りたくて何度も助けられなかった。あの時聖女が見ていたのはルノーだったのかな。彼は私がループするたびに聖女の死を目の当たりにしていたんだ。
やっぱり聖女を助ける必要がある。でも助ける方法が分からない。そもそも今日見た街の人たちの様子では処刑するほど悪い印象は抱いていなかった。
怪しいのは門番の人たちが言っていた客人だろう。調べるにしても教会への侵入は警備が厳しくて出来ない。どうしたらいいんだろう。
「エリー」
悩んでいる私にルイが声をかけた。
「僕を使ってください」
耳元で囁く声はルイではなく、ヒサアキのもの。
「ヒサ……」
つい、ヒサアキの名前を呼ぼうとした私の唇にヒサアキが人差し指を当てて首を左右に振る。慌てて口を
「ルイ。お願い。聖女様を助けるのに力を貸して」
「エリーの頼みならなんだって」
「お前ら何する気だよ」
ルノーの言葉は全無視でルイは私の手を取った。ルノーが見ている前で引き寄せて手の甲へと唇を落とした。
「では、行ってきます」
「待って」
部屋を出て行こうとするルイを私は引き止める。
「ルイ、これを持って行って」
「これは?」
ルイの手に乗せたのは防御魔法を組み込んだ組紐。旅立つ前に作っておいたお守りだ。
仮に教会に来た客人がディアナの息のかかった人たちなら魔法を使うかもしれない。それを防ぐための物だ。
「お守り。身につけていて」
「わかった。ありがとうエリー」
ルイはそう言うとさっそく組紐を自分の手首に着けて出て行った。
ルノーと二人きりになった。ルイが教会に潜入して情報を集めている間、私に出来ることをしなければと私は鞄の中を漁った。
「なあ、お前らは本当は何者でリディアをどうしたいんだ?」
机の上に薬を並べていく私にルノーが声をかけた。手が止まる。本当のことを言うわけにはいかないし、これから起こることを告げることも出来ない。
私は言葉を選んだ。
「私は生まれつき魔女でずっと探しているものがあるんです」
「探しもの?」
「はい。誰かに愛される方法をずっと探しています。そもそも私には”愛”がなんなのか分からないんです」
「それがリディアとなんの関係があるんだ?」
「愛していると言っていましたので。その意味を教えてほしい、では答えになりませんか?」
これは本当のことだ。何度も告げていた彼女の言葉。もしも今度こそ火あぶりの刑から救い出すことが出来るのなら聞きたい。ルノーを愛している意味を知りたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます