第13話 聖女リディアからの手紙

 ちょうど彼も私を見て視線が合うとルイが頷いて口を開いた。


「俺たちの関係について教えろと言ったな。俺たちは兄妹でこの街には今日着いたばかりだ。目的は噂の聖女様を一目みたいと妹のエリーが言うから、な」


「う、うん。聖女様の噂は私たちの住んでいた村まで聞こえていたから。……美しくて聡明、未来予知ができる方だって聞いて」


 本当のことは何一つ語っていないことに少し心苦しさを感じるけれど、目的の聖女を救出するためだと自分に言い聞かせる。


 聖女のことは何度もループをする中で集めていた話だ。目を丸くして私を凝視するルノーの反応から聖女に関してはループしても揺るがないみたいだ。


「はははっ、そうか。そんな噂まで広がってんのかよ。あいつの本意ではないだろうに」


「と言うと?」


「リディアはたしかに未来予知の能力がある。でもそれはほとんど夢のお告げみたいなものだって言ってたんだよ。周りからは気味悪がられてた。それでも優しいあいつはその力を人助けに使っちまう。終いには利用できると知った街の連中に連れていかれたんだ」


 利用された挙句、最後には魔女と言われて火あぶりにされてしまう。そんなこと口にしたらルノーは飛び出してしまう。


「だからルノーは聖女様をこの街から連れ出しに来たのですか?」


「あいつがこの街で元気で幸せに暮らしてんなら連れ出そうなんて思わなかったよ」


「ならどうして?」


 私の問いにルノーは周囲を警戒した。


「大丈夫ですよ。この部屋に魔法をかけて音漏れを遮断しましたから」


「お前何者だよ」


「エリーはとても優秀で特別な存在なんだ」


「いや、なんでお前が得意げなんだよ。あれか? シスコンってやつか」


ってなんだ?」


「気にすんな。こっちの話だ。とりあえず外には聞こえないんだな?」


 ルノーからの問いに私は頷いた。安堵したような表情を見せると彼は鞄から封筒を出して机の上に置いた。


 宛名はルノー。差出人はリディアだ。


「これは」


「リディアからの手紙だ。開けていいぜ」


 言われて私たちは手紙を開けた。綺麗な文字が並んでいる。紙の手触りに違和感を覚えつつも私たちは手紙を読んだ。



 ルノーへ


 久しぶり。元気にしてますか? 私がアティアに行ってからだから結構経ったね。

 私はね、元気だよ。街の人たちも優しいし、私の力が人の役に立ってて嬉しいの。あ、ご飯だってとっても美味しいのよ。


 だからルノー。私は元気だから心配しないで。それと、ルノーはもう私のことは忘れて新しい誰かと素敵な未来を築いてほしいな。


 ほら、私聖女だから。ルノーたちの未来を祈ることは出来るのよ? 


 幸せになってね。


                       リディア


 別れの挨拶あいさつみたいだった。


「こんな手紙もらって俺、居ても立っても居られなくてここまで来たんだ。リディアがこんなこと言うはずないんだよ。絶対教会のやつらに脅されて書かされたに決まってる」


 歯を食いしばるルノーに私はなんて声をかけていいのか分からなかった。


「エリー」


 ルイが小声で私の名前を呼ぶ。


「ここを見て」


 指された個所に視線を落とす。手紙の端に微かに濡れた後があった。紙の手触りもそこだけ違う。


「これ、魔法の痕跡がある。ルノー、手紙にかけられた魔法を解除してもいいですか?」


「あ、ああ。そりゃあ構わないけどよ。エリーは何に気付いて」


「しー。エリーの邪魔になるから少し黙って」


 ルイが人差し指を唇に当てて黙るようにルノーに促す。ルノーはごくりと喉を鳴らして私が今から始めることに注目した。

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