第12話 聖女と幼馴染の青年

 赤髪の青年の背後に立ち相手の肩を押さえながら門番の男たちを見上げる。


「なんだ少年。そいつの知り合いか?」


「はい。そうなんですよ。この人僕の友人で聖女様に会えるからってもう昨日から大はしゃぎだったんです」


「そうか。でもまあ残念だけど今日は無理だ」


「みたいですね」


「おい……痛っ!」


 赤髪の青年が口を挟もうとした瞬間、ルイは門番に見えない位置で肘鉄を見舞い強制的に青年を黙らせた。ここで口を挟まれてはウソがバレてしまう。


 まあ、ルイのことだからそんなヘマはしないと思うけど。


「聖女様に会うのはまた日を改めてにします。お騒がせして申し訳ありませんでした」


「分かったらそいつを連れて帰りな」


「そうします。ほら、行くよ」


「ちょ、待っ……! 力強っ!」


 半ば引きずられるように青年はルイに連れてこちらに向かってくる。


「すごい……」


 大きな体躯の門番相手に怯むことなく堂々と言い放つルイたちの会話を聞いていた私が抱いた感想だった。


「お待たせエリー」


「あ、うん。おかえりなさいルイ」


「って、おい! いつまで人のこと掴んでんだよ! いい加減離せ!」


「ああ、ごめんつい」


 怒鳴り声を上げる赤髪の青年にルイがそうだったと言わんばかりに掴んでいた襟から手を離す。自由になった赤髪の青年がルイを睨み付ける。


「お前ら誰だよ。なんで俺の邪魔をした」


「うーん、まずは場所を変えよう。誰が聞いてるか分からないし。エリーもそれでいい?」


 問われた私は頷いた。門番たちは未だにいぶかしんでいるのかこちらを見ている。話をするなら一度離れた方がいいというルイに賛成だ。


「じゃあひとまず宿に向かおう」


「待てー! 勝手に話を進めてんじゃねー!」


 話に割って入る赤髪の青年を見るルイの目は冷ややかだった。慎重に動こうとしていた矢先に騒ぎを起こして目立ってしまったからルイからすればたぶんうるさい人なのだろう。


 でも、連れていくことにしたのはこれ以上目立つのを避けるのと、聖女について何か知っていそうだから。


「しっ! あんまり騒ぐと警備隊を呼ばれるだろ。話は宿に着いたら聞くから少し静かにしてくれないか? それとも君は警備隊に捕らえられたいの?」


「んなわけあるか。俺はあいつ……聖女レディアを迎えに来たんだ。こんなところで捕まるわけにはいかないんだよ」


「……だったらなおさら静かにしててほしいんだけど」


 ルイの指摘に赤髪の青年は押し黙った。


「……わかったよ。宿に移動すればいいんだろ。それと、さっきからお前俺のこと君とか呼んでるけどな、俺にはルノーって名前があんだよ」


「はいはい。じゃあ行くぞルノー」


 肩をすくめながら先を歩くルイに私が続いてさらにその後ろをルノーがついてくる。私たちは宿について部屋に入るとさっそくルノーから事情を聞くことにした。


「で? ルノーはなんで聖女に会おうとしたんだ? 迎えに来たって言ってたけどどういう関係なんだよ」


「その前にお前らこそ何者か教えろ。この街の人間じゃないだろ。でなきゃ、俺みたいなよそ者をわざわざ助けたりしない」


「じゃあルノーもこの街の人じゃないのですか?」


 私の問いに驚いたように目を丸くしたルノーが遅れて頷いた。


「そうだ。俺はここアティアから西側にある村から来た。そして、この街で聖女として利用されているリディアも同じ村出身だ」


 ルノーが歯を食いしばって膝の上の拳を強く握った。


「幼馴染、という関係ってことか?」


「……ああ。まあそんなとこだ」


 歯切れの悪い返答のように聞こえる。ルノーと聖女リディアは幼馴染であり、もっと他の関係も持っていたのかもしれない。私はルイを見上げた。

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